クーシェの決断
更新します。今回で、物語が動き始めます。
(………寝付けません。)
そろりと、身体を起こす。傍でルリが身体を丸めて寝ている。その横を順番に見ていく。全員が川のように並んで草の葉を敷物にして静かに眠る。
六人全員寝ているが、隣で眠るルリ同様、身体を小さく丸めている。
捕まっていた時のそれが、無意識のうちに眠る際に行っているのだ。穏やかな日々を送る今はその傷が薄れつつある物の、未だに完治とまで行っていないらしい。
仮拠点のテントを静かに出ると、賑やかな声が聞こえる、夜が更けても、未だに止まない笑い声。いつもと違う夜の中、おもむろにその反対へと足が進む。
(あれは……)
少し離れた所で木刀を振る少女が一人。昼間、修行共にしたあの少女だ。額に汗をいっぱい掻いてもその手を止めず、ただ振り続ける。
(あんなに必死に………一体、何をそんなに……)
「一体何を……か。それは、君にも当てはまるよ。」
突如聞こえた声に身体が自然と動く。風のようにスルッと、避ける男。ふわふわと浮いた後地面に着地した。
「おっと、ごめんごめん。急に話しかけて失礼した。」
「(私の考えてる事を読んで?)あなたは誰ですか?」
「僕?ふふふ誰だと思う?」
茶化すような物言いの緑色の髪が特徴的な男性。外見の若さでいえば二十代前半か、その手前。ストレートの長い髪がゆらゆらと風も無いのに揺れている。
兵士の中に、こんな男はいなかった筈なのだが。という事は………
「察しがいいね君。その通り、僕は『竜族』さ。」
(また……)
先程は急な事で見逃していたが確かにミレドより小さいが、髪に隠れる形で角がある。そして持ち上げられた尻尾は特有の鱗。―――間違いなく『竜族』だ。
「どうして竜族の方がこんな所に……」
「聖龍様の『護衛』とでも言っておこうかな。あの御方の御力は強力だからね。良からぬ事を考える人間はどこにでもいるものさ。もっとも、あの方はお強いからそんな物必要無いと思うけど。」
確かにそんな者達はいる。そんな者達を少なからず見てきた。そして、そんな者たちを跳ね返すことの出来る強さを持っている事も理解している。
「それで、最初の質問に戻るけど。何でそんなに生き急いでいるんだい?」
「私は生き急いでなどいません!」
「へぇ、自覚は無いんだ。けど、他人から見れば生き急いでいると見えるよ?朝や昼間のあれだって、そう。今夜もあの宴会に出ないでこんな所にいるんだから。
そこで素振りしている彼女と同じさ。」
「っ!」
何も言い返せない。その言葉は正確に本質を撃ち抜いているからだ。
自分の努力が足りないと思い、無意識のうちに生き急いでいる事を見ないふりをしていた。
「何で生き急いでいるか……か。当ててあげようか?
君、炎が使えなくなっているんじゃない?」
青年のその言葉で心臓を鷲掴みにされたように一瞬、心臓が止まった感覚に襲われた。嫌な冷たい汗が吹き出す。
「当たりかな?なら嬉しいな。
よくある話さ。カプシモの一族ではね。その直し方も……聞きたい?」
お喋りなその竜族の言葉に思わず耳を疑った。どうやっても、出せなかった炎をもう一度使える。藁をも縋る思いでその竜族の手を握り、声が衝撃で出なかったため全力で頷く。
そんな竜族の青年はにこりと微笑み、クーシェの耳元で囁いた。
(まずは"同胞"に会ってみな。そうすれば、いずれ解決する。)
期待していた分裏切られたような感覚に陥る。呆然とするクーシェの傍をその青年はするりとすり抜けて離れた。
「決めるのは君さ。僕の言葉を信じるか、どうかね。
……ああ、いい忘れてたね。僕は風を司る竜。ミレドグラル様から"グィンダル"という名を戴いた。
これからよろしくね!可愛い子狼ちゃん」
膝から座ったクーシェを一人残し、グィンダルは静かにその場を後にした。残されたクーシェは上った三日月を呆然と見ながら考えを巡らし、ある決断をするのであった。
* * * * * * *
「うぅ〜!昨日は酷い目に合った……。」
ズキズキと頭が痛み、立ち上がったネスク。辺りを見渡すと、まだ倒れている兵士がたくさんいる。
このズキズキ痛むのは、二日酔いではなく、魔力欠乏症のせいである。
「むにゃ、むにゃ……。ネスク様……もう食べれません〜。」
近くで倒れて寝ているポーアはとても幸せそうな表情をしている。昨晩は、うっかり酒の入ったポーアのおかげで大変だった。
カレンさんが言っていた意味が分かった。
ポーアは少しでも酒が入ると、悪酔いする。その際の絡みが凄まじく、ポーアが酒に入ると彼女の思考に応じて植物が文字通り動くのだ。
普段はそれほど気にしないほどの力なのだが、彼女は植物との同調性が凄まじい。そのせいで酔うと植物も酔うらしく。彼女の感情に応じて、植物達が縛ったり、叩いたりと動き、暴れ回る。
それを鎮めるため、今使える限りの魔法で防いだせいでポーアが酔い潰れると同時に気絶したのだ。
(このままじゃ……な。)
男連中に見せたくないという独占欲が込み上げてくる。ポーアを抱き上げると、そのまま、ルリ達が寝ているテントへと向かう。
カレンさんも、ミレドも。見渡した限りでは姿が見えなかった。自分でテントに戻ったのだろうか。
なら、ポーアも一緒に連れて帰ってくれれば良かったのだが……。
テントの入口から入るとまだ誰も起きた様子は無い。
そのためポーアを降ろすとすぐに出て、顔を洗いに湖へと向かう。
(え〜と、今日することは………)
家を直して、途中になった野菜類の種を植えて―――。
「ネス!」
呼ばれてふり返ると、額に汗いっぱいのミレドとカレンが走ってきた。息を切らしている。
ミレドが息を切らすのは珍しい。二人とも朝の修行でもしていたのだろうか。
「ミレドに、カレンさん!おはよ――」
「クーシェがいなくなったのじゃ!」
「………えっ?」
思考が追いつかない。今なんて言った?
「テントにこれが………」
カレンさんが持っていた紙を見せてくれたおかげでフリーズした脳が再起動した。すぐに目でその手紙を読むと、思わず手に力が入り、紙の両端をくしゃくしゃにしてしまった。




