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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
3章 勇者召喚編
278/347

竜族の男

更新します。


 水泡が上へ、上へと上っていく。


「ぐわぁ……!」


 口の中へ水が押し寄せる。身体が下へ沈んでいく中、向かい合うように憎しみにかられるカプシモの少女が一人。喉に伸ばされた手に力が加えられ息苦しさが増す。

 このままではどちらにしても窒息する。

 必死に左右に動いて逃れようと試みるもびくともしない。まるで岩を相手にしているみたいだ。


 ピー!  ピー!


 頭の中で警告音が鳴り響く。


『―――― 緊急事態。緊急事態

これより緊急マニュアルに基づき、敵勢力の排除を開始します。それに伴い、身体の主導権を移行開始。』


(なっ!ちょっ!)


 身体に流れる魔力が勝(・)手(・)に魔法を発動させようとしている。それと同時に先程は全く歯が立たなかった腕を徐々に外していっている。

 少女が掴まれた方の手とは逆の手で無造作に伸びた爪を向ける。


 主導権を『書庫』へ移された事で自分の意識とは無関係に身体が動く。


 手刀を右に避けるとそのまま間右手で絡める。

この魔力の感じ………まずい。

 『書庫』は水の中で聖雷(パージ・ライトニング)を発動させるつもりだ。


(おいソフィ!やめろ!やり過ぎだ!!)




―――― 連絡が無い。


 もし、こんな所で雷を使えば間違いなく少女が死んでしまう。身体の自由が効かない中で必死に呼び掛けるがやはり連絡がない。


 今の自分には何も出来ない。


 両手を取られた少女が両足で腹目掛けてドロップキックを食らわす。痛みが込み上げるが魔法の発動は止まらない。


(く、そっ!)



 ネスクが声を出せず内心で自己嫌悪と共にその言葉を吐いた。






『全く……聖龍様に挨拶をしに来てみれば…』


 水面から何かが飛び込んで来た。


 水が吹き飛び、少女と共に空(・)中(・)へ(・)投げ出される。


―――その瞬間、主導権が返ってきて、自由が効く。

 主導権が返ってきた拍子に両手を離した。

 少女と二人、お互いに反対方向へと離れた。



「ネスク様!!」


 誰かの呼ぶ声が聞こえたが、今は後回し。

 爪を立てた姿勢で攻撃して来る少女を避けつつ、魔力の糸を少女へ飛ばして絡める。手を拳にギュッと握りこむと、糸は絞られ少女の両手足を絡めて縛り上げた。

 突然の事に体勢を崩した少女が地面に倒れ込んだのであった。







「殺しやる!絶対に!」

「あのなぁ、女の子がそんな言葉を使うんじねぇ!」

「ガヴッ!」

「うお!?」


 言葉は通じるようである。だが、

 手足がダメならと―――牙をむき出しにして足に噛み付いてこようとした少女の攻撃?に飛び退いて避けた。


「お前はスッポンか!」

「ガヴ!、ガヴガヴ!」


 無効化した今も好戦的である。噛み付く事が出来なかったため一通り暴れた後、ギロリと睨み付けてくる。

 クーシェと同じ、赤髪赤目に獣耳。間違いなく、カプシモである証である。


「………ゲホゲホッ!」


 少しは動けたものの、しばらくすると器官に入った水を吐き出そうと反射神経が働いた。それに伴い、頭痛もヒドイ。


…吸って………吐いて………


「ネスク様!!」


 深呼吸をして酸素供給をしていると後頭部に衝撃が走った。


「クーシェ様病人にそのような事をしてはダメです!」

「ネスク様!………あれ?」



 カレンが飛び付いたクーシェに注意喚起するが返事が無い。

「気絶しておるのう……。最後の、クーシェの止めで……」

「ネスク様〜〜!!!」


 カレン、クーシェ、小夜の後から真っ先に掛けてきたミレドの一言でわなわなと慌てたクーシェ。

 そんな彼女らを見つめる男(・)が湖の湖が雨のように降りしきる中で気絶したネスクを見つめる。


 * * * * *


「今回は危うい所をありがとうございました。」


 ネスクは気絶から目覚めると真っ先に、赤毛の男性にお礼を言う。

 クーシェのような赤ではなく、少し赤黒い『赤』の二十代後半の男。ミレドのように鱗を持つ尻尾を持ち、頭上に後ろへ流れる角。


「私は聖龍様へお会いに来たのみです。あなたがどうなろうと知ったことではありませんが、ミレドグラル様の願いを汲んだのみ。礼を言われる筋合いはありません。」


 表情の変わらない顔で男性は淡々とそう告げる。


「私からもお礼を申し上げます。危うくあの子に罪を生み出してしまう所でした。エリュトロン様、本当にありがとうございました。」


 この男は紛れもなく『竜族』である。それも、竜族の長をしているあの赤竜だ。


「………何も変わりありません。『ペルメス連法』に記された通りであれば『未遂』とはいえ、罪は罪。それは"極刑"に値します。貴方もあそこにいらしたのであれば、理解しているはずですが?」


 ギロリとエリュトロンが睨むクーシェくださいビクッとした後固まってしまった。


「まあ、その辺で良かろう。第一、ここは『ペルメス』でもないからのう。それは適合されぬぞ?エリュよ。」


「ミレドグラル様の仰せであればそういう事にしておきましょう。」


 この男の『エリュトロン』の名はミレドが与えたものである。彼はその名を大事にしており、ほとんどの竜族が帰った中彼を含んだ数十頭はこちらに残った。

 そんな彼は、ミレドを崇拝しておりミレドが"承"を出せば簡単に意見を変える。………長が、そんなので良いのだろうか………

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