修行は"畑いじり"で‥‥‥
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歳下の少年に負けた。
その事実は自分の中で衝撃であった。
「一、ニ、一、ニ、一、ニ…………」
1人で借りた木刀を振り続ける。自分には休んでいる暇なんて無い。
チームがドラゴン退治を成し遂げた中で、自分だけ『お荷物』と陰で呼ばれていた。
………それは自分が弱いからだ。
だから、人一倍努力をしなければならない。
―――でないと、また失ってしまう。
* * * * * *
まっすぐ見たその目に宿る物。それは言葉に言い表せない。だが、その本質は以前にも見たことがある。
あえていう言葉で一番に近い物―――それをあえて言い表すのであれば、『執念』に近い。
「あのネスク様!私からもお願いします!もっと強くなりたいんです!」
ペコリと頭を下げるクーシェ。
「そう言われてもなぁ………」
頬を掻くネスク。朝の修行は日課。その一貫で見たのであって、決して無理をしてまで一日中を費やすような物ではない。
あんな修行を毎日繰り返せば身体も故障を来たす。
「ではネスク殿の仕事を手伝うのはいかがでしょうか?」
考え込んでいるとカレンさんがやって来た。
片手にクワを持ち、畑仕事に適した服を着ている。緑色の上下の服に長靴に似た靴。
その服は数日前の買い出しで購入した服である。
「カレンさんは………今から何を?」
「見ての通りネスク殿の手伝いです。畑仕事も修行には打って付けですから。」
確かに畑仕事もとい、畑いじりは体力に加え、力も必要である。
「うーん、そうだ、な。クー、それからあんた、今から着替えて来い。これから二人には仕事を手伝ってもらうからな。カレンさんの言う通り」
「ですが!」
何か言いかけるクーシェの口に人差し指を当てて静止させる。
「そ・れ・に!いつも食って、修行しかしないじゃ。
俺の労力に合わないと思わないか?せっかくだから自分達が食べている食糧は自分で作ってもらおう。」
「………分かりました」
クーシェは、『食糧』という言葉で引き下がった。その足取りで再び家の中へと戻って行った。
「あんたも、クーに付いていけ。確か、作業に適した服を余分に置いてた筈だから。クーに聞けば分かるだろう」
残った小夜に指示すると無言でクーシェに追従して行った。
* * * * *
昔の記憶があるとはいえ、既に赤の他人。小夜を『あんた』と呼ぶのは自然である。何せ小夜からすれば初対面なのだから。
だが、しこりがあるようにどこか呼びにくい。
………なぜだろう。まあ、いいや。そんな事はさておき。
頭を振って頭の片隅に追いやった後、カレンの元へ近寄る。
「カレンさん、良いアイデアをありがとうございます。おかげで助かりました。」
クーシェは、一度決めたことをテコ入れをしても考えを変えない上に意地が強い。そのクーシェの意地強さは長所であり、短所でもある。
「いや、私は大したことは言っていない。クーシェ様や、あの方の気持ちも分からなくもない。……だが、無理は良く無い。」
カレンさんは、敬語から普段使いの言葉へシフトした。二人きり話す時はいつもこの喋り方。ミレドやポーアにもこっちの話し方の方が良いのではないかと、以前助言した事があるが、どこに目があるか分からないためと断られた。
「………カレンさんから見ても?」
数日前から、クーシェは鍛える事に熱中している。
いや、どこか必死に見える。
数日前は、王国へ買い出しに行った日であるが何かあったのだろうか。特にそんな報告は受けていないが。
「昔、騎士見習いの中で、身体を鍛え上げる過程で逆に身体を壊した者がいました。その方はとても真面目で、早く一流の騎士になるため日頃の鍛錬に加え自主的にトレーニングをしていたと伺ってます。
今のクーシェ様はその方によく似ています。
……私も気を付けるが、ネスク殿もご注意を。」
「カレンさん、……ありがとうございます。注意しておきます。」
* * * * * *
緑の上下の服に着替えて戻って来たクーシェと小夜にクワを耕して貰いつつ、種を撒いていく。
カレンさんの助言は非常にありがたい、
ポーアも植物に関して博識だが、カレンさんもその手の事について詳しいようだ。
「カレンさんは野菜を育てたことがあるんですか?」
「ドルイドの森では森の恵を頂いてそれを食物にしているが、それだけでは賄え無い物もある。
そういった物は他族と交換する事が多い。
野菜や他の食物はその種と交換して育てて食べる事が一般的だ。」
「そうなんですね。ですが、野菜ってあそこで育つのですか?」
あんな日を通さない森の中で野菜が育つ姿が想像できない。
「ディル様が神木様の御力を結界に混ぜているそうだ。あまりその辺りは私には分からない。ポーア様なら、何かご存知かもしれませんが。」
知っているも何も。ポーアにはヒサカキ本人が付いている。本人に伺った方が詳しくわかるやもしれない。
………ん。なんだ?
ドカンッ!!!
気付いた時には既に遅く、家の二階が派手に吹き飛んだ。
爆発の砂煙が吹き荒れる中、下にちいさな影が落ちて来た。獣のように低く唸る。だが、列記とした人の姿をしている。
「うう………ううう……!」
真っ赤に逆立つ尻尾と耳が興奮している事を告げる。
無造作に伸び切った髪の奥でギロッと睨む目がバッチリ合った。
「ニン、ゲン………!!」
驚異の跳躍で襲い掛かって来た。包帯の腕に鋭い痛みと共に血が滲み出る。勢いはそのまま。後方へその獣じみた少女と共に引っ張られる。
――― 後ろは湖だ。
「ネスク殿!」「ネスク様!」
傍にいたカレンさんが珍しく焦っている表現が見える。その後ろではクワをそっちのけに放り出して駆け出して来るクーシェと、驚きのあまり固まっている小夜の姿が見える。
「グワッ………!」
水面に叩き付けられた拍子に肺の中に合った酸素が全て吐き出されてしまった………。




