思考と試行
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「そちらの皿はあちらの卓へお願いします!」
ネスクは忙しく料理を作っているポーアに「分かった」と返事をして表へ出る。
表では戦場が繰り広げられていた。
先程山盛りに盛ったおにぎりの山を皿で運んだはずなのだが、既に米粒一つも残さず消えていた。
「うめ~!」
「おいっ!それ、俺の!」
「米がこっちでもあるなんて………!」
涙を流しながらも両手のおにぎりを交互に口に入れて頬張る転移者達。よほど故郷の味が恋しかったようだ。
「飯だ〜!また飯が来たぞ!」
皿の残骸が残るテーブルへ足を運ばせていると兵士の誰かの声で一斉に光る目がギラギラと、こちらへターゲットを絞り込んでいる。
そんな視線を無視してさっさと皿を置こう。
「「「「「よこせ!!!」」」」」
ことん、とテーブルに皿を置くと全方位から一斉に飛び掛かってきた。
「はぁ……【重力】」
素早く空になった皿を重ねて、【重力】で動けなくなった兵士達を踏んづけて家の中へと戻る。渡り終えたタイミングで解除をすれば、踏まれた事など気にしてない様子で猫が好物の魚を目の前にしたようにまっしぐらに駆けて行った。
「何なんだよ、あの連中。これで何杯目だ?」
往復をした数は十回以上にわたる。
米はかなりの量を収穫してあるものの、ハイスピードで胃袋の中へ収まっていく様子を見ていると心配になって来る。
「ネスよ、早う座らぬか!妾達が食べられぬではないか!」
靴を脱いで家の中へ戻ると、全員いつも通り席に座っていた。
「先に食ってていいぞ?」
「そんなわけいかぬわ!ほれほれ早うせい!」
「早く早く〜」「お腹ペコペコです!」
全員に急かされながら持ち帰った皿を流し台へ置いたあと席に座る。
ミレドから時計回りにクーシェ、一つ空席を空けてポーア、カレン、ルリ、フルール、パルメルス、ネア、マロン、そしてフィアールという席順である。
あとはネスクのいただきます、という掛け声で食事を開始する。パルメルスとルリは、風呂上がりなのか頬がぽっと、りんごのように赤くなっている。
「二人共、ちゃんと乾かさないと風邪ひきますよ?」
「食後にしっかり乾かします」「………同じ」
カレンの注意を生返事で返してテーブルの上に積まれたおにぎりに手を伸ばして頬張っている。
ひとえにおにぎりと言っても、二種類が混合している。ポーアのお兄さんから送られてくる調味料から作った『焼きおにぎり』と『塩おにぎり』である。
あとは食べられる野草から作った添え物とデザートのリンゴットである。
「はよう……もぐもぐ…食わぬと、妾が……もぐもぐ、全部食べてしまうぞ?」
「ミレド様、行儀がよろしくありませんよ?」
手が止まっていた自分にミレドがそう言うと、次から次へとミレドの胃袋へ収まっていく。そんな食べながら喋るミレドをポーアがたしなめると、自らも食べ始める。その食べ方はお上品で、ナイフとフォークを起用に小分けして一口大で食べていく。
「………クー付いてるぞ?」
ミレド、ポーアと、二人を順に見た後、自然にクーシェに目が止まると頬の口元にご飯粒が一つ付いていた。
そのご飯粒をつまんで取ってあげる。
「っ! ありがとうございます……」
いつもより静かなクーシェに首を傾げながらも盛られたおにぎりに手を伸ばす。………うん、美味しい。
そんなさりげないネスクの行為にジト目を向ける者が複数いる事にネスクは気付いていないのであった。
さて、昼食を食べ終えたことだし仕事をするか。
クワを片脇に置いて、何も無いただ耕された畑を前に一人。最少組は、今、ポーアとカレンにみっちりと勉学を教えられ、ミレドは、というと………。
「ほれ!走らぬか!ぬしらしっかり昼餉を食わして貰えたのじゃ!さっさと走れ!!」
背後で怒鳴り声がする。どこから生み出したのか、鞭のようにしなる何かを振り回して追い回している。
あんなハイペースで走らせていれば、そのうちリバースする者が出てくるのではなかろうか。
ミレドの事だから分かっているとは思うが、それは止めて欲しい物である。
腰に下げている魔法の袋に自然と手が伸びる。
その中には、王都で買って来た植物の種が入っている。季節に合わせた野菜に、予定通りじゃがいもの発芽用の種子。
聞いた所によると、こちらの世界の野菜はあっちの世界の野菜と異なり、気温があまり上がらない夏にでも育つらしい。
…………さっきから視線が気になる。
「何かようか?」
背後でビクッとした気配がする。振り返ると、小夜と何故かクーシェが一緒にいた。この二人、ということは………。何となく、想像が付いてしまう。
「あの、もう一度試合をお願いしたくって………」
小夜に同意するようにクーシェもウンウンと首を縦に振っている。
「何回やってもおんなじ。………明日にしろ」
一日考えれば、多少は持つようになるかもしれない。
彼女達に今必要なのは、自分で考えることである。所詮、試合なんて物は、練習。―――― 戦場に出れば、殺し合いになる。その練習だ。
戦場では一度斬り合えばどちらかの命を奪うまで繰り返す。
朝の試合で彼女達に"弱点"は伝えた。
それをどう考え、どうカバーするかは思考と試行の繰り返しである。
「それじゃ……ダメなんです!」
小夜が叫ぶ。ネスクは思わず、怯む。
まるで生き急いでいるかのような悲痛な思いがこもったその一言。まっすぐに見たその目には以前には見たことのなかった暗い"何か"を感じ取った。




