朝の修行その三【ネスクサイド】
一週間ぶりに更新します!
斜めから襲う斬撃をしゃがんで躱し、そのまま右足をバネのように弾ませて低滑空からの蹴りを入れる。
クーシェが上へと一回転して避けてから地面を蹴ると、低姿勢で滑走する自分に上から追い付いてきた。
判断力も去ることながら、それを実施する事のできる反射神経も抜群に良い。
ミレドはこの能力を伸ばしたのだから凄い。
「そこです!」
上から垂直に木刀が突いてくる。初めの頃、自分もミレドに『突き』を繰り出す事があったが、ここまで洗練された動きはできていなかった。動きに速さがあり、無駄が無い。避けられない上から下への『突き』は実に有効な一手である。
――― だが、まだまだ。
クーシェが突きを放つが、ネスクの姿がふっ、と消えた。突如の事に混乱するクーシェの耳が空気の切れるような音を耳に捉えた。
―――― 発勁 !!
咄嗟にクーシェがガードの構えを取るも、防御を貫通してクーシェの身体が吹っ飛んだ。
「っ………う、………ううっ。」
地面に倒れ込んだクーシェは暫く動けないだろうな。
威力は最大限弱めたものの元々の威力が高いため体が頑丈でもそれ相応にダメージはある。けど、やはり反射能力は秀でている。
ガードを構えつつ、後ろへと引いて少しばかり受け流す体勢も整えていた。
その点を踏まえれば、あっちで頑張っている兵士よりも十分才能がある。
「…………注意をクーに引き付けた隙に死角からはいいが………」
背後へ木刀を振る。―――カンッと木が擦れ合う音が響いた。驚いた気配が背後からする。
左手の包帯をわざと外して右手に添えて両手持ちにする。
強引に引き戻し、振り向き様に右から木刀を振る。引き戻した時によろけたのか、体勢が引き気味になっている少女と向かい合う形になる。
「ふっ!」
「うっ……。」
何とかガードしたものの、また一歩後ろによろける。
右から半回転して、左から。左を打ち付けた時、更に後ろへ大きくよろけた。
大きくよろけたタイミングで魔力を介して、木刀と包帯にプラスとマイナスの電気エネルギーをくっつける。
木刀を回転しながら投げる。
―――少女こと、小夜も魔力を込めて投げられた木刀をガードをするがまだ魔力の込め具合が粗雑なようで木刀を弾いた瞬間、ガラスが割れるような音と共に砕けた。
尻もちを付く体勢になった所で握り直した木刀を小夜の首に当てる。
「………終わりだ。」
「みんな、……終わった?」
「終わりましたか?」
小夜とクーシェを正座させて、説教込みの反省会をしていると、森の奥からパルメルスとルリがやって来た。
この二人はよく一緒にいる。
二人は波長が合うようで、二人で話している事も最近はよく見かける。
「ひとまず、終わったが。どうかしたか?」
「魔法、見て?」
無表情でルリが答える。相変わらず言葉はあまり得意じゃないようで、それだけでは分からない。
「えっ、と……。ルリちゃんと魔法の練習をしました。なので、少し……見ていただけないでしょうか?」
「ああ、そういう事……。」
説教を開始して小一時間は回っている。太陽がすっかり上りきり正午になっている。
「一つだけならいいぞ、二人もいいか?」
少し考えてから一つだけにするように伝える。あまり遅くなるとミレド辺りが煩い。小夜とクーシェにも声を掛けるも回答がない。
―――見ると二人は蹲っていた。どうやら、足が痺れたようだ。
「私は……構いません。」
「私も、です。」
涙目になりながら二人はやっと、という感じに答えた。二人の了承を受けてパルメルスがにこっと笑顔を輝かせる。ルリはあまり変わらないが小さくガッツポーズを取っている。
二人が十分な距離を取る。
それほど大きな魔法を使うのだろうか。
二人とも真剣なようで、目を瞑り魔力を溜めている。
それぞれ、二人に合った魔力の『属性』が渦巻き始めた。
「一体、どんな魔法を使うのでしょうか?」
「さあな、二人の事だからそれなり、の魔法を使うんだろ」
エルフもマーメイドも魔法に精通する一族である。その魔法適正は一級で、子供ながら潤沢な魔力を兼ね備えている。
(いざと、いう時は……)
一番の懸念は、"ルリの魔力"である。
消耗の大きい魔法を使い一気に魔力を使い切れば、命の危険も伴う。以前、ポーアが秘術の―――蘇生魔法を使った時のように。
「ルリちゃん行くよ!」「ん、パル。合わせる」
掛け声と共に、パルメルスが溜めた魔力を解き放った。
真上一帯に雨雲が立ち込める。
ポツポツと、雨が降り始め次第に本降りになる。ネスクは以前、ネアと雨宿りした時のように結界を張って雨を凌ぐ。
ザーザーと降り始めた雨が次第に斜めに降り始める。
ルリを見るとかき混ぜるような仕草をしている。ルリ、パルメルスの先に渦巻く風が徐々に竜巻きとなって発生した。
「風魔法【竜巻き】に……あれは何でしょうか?」
「雨を降らす魔法……か。どっちみち凄えな。あの二人」
二つの魔法が重なり合い凄まじい大魔法になっている。それをする二人は繊細なコントロールを必要とされる上に、どちらも一定で無いと二つの魔法はここまで融合しない。
二人が空間に流す魔力を止めると、一気に霧散して消え去った。晴れた空には綺麗な虹が掛かっている。
二人の成長は目覚ましい。ミレドと俺と、で使ったあの合成魔法で容量を得て、二人でここまで完成された魔法を作ったのだから。
「どうでしたか?」「………どう?」
「ああ、凄かったぞ!」
駆け寄って来た二人に賛辞を送る。
二人はにっこりと笑顔になって喜んでいる。
あの魔法には問題点も多少存在するが、今は目の前の二人に水を差すほど無粋ではない。
様子からしてルリも大丈夫なようで心の底で安堵する。
「おーい!昼食ですよ〜!!」
カレンの呼ぶ声だ。
さて、この辺で切り上げ家へ帰ろう。
戻って直ぐにする事は、二人はまず"風呂"だろうな。服がびしょ濡れである………。




