獅子の輝き
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「はぁ……やはりこうなったか……」
疲れた様子でミレドが重いため息をつく。小夜達が召喚されていた事へとショックが抜け切らないまま聖国と王国が言い合いをしている様子を眺めている。
竜達は、――というと、上空で翼を羽ばたかせたままそのまま滞空している。
「聖国の方々が聖域へ何の御用でしょか?聖域は通常の行き来が禁じられた場所。ここへ来ると言う事はさぞ、重大な事なんでしょうね?ヘラザード司祭殿」
片眼眼鏡を指で押し上げる仕草をする男が眼鏡の奥の眼を光らせて聖国側の豪華な白い祭服を着る男に話しかける。
両国軍どちらも臨戦態勢。いつ飛び出してもおかしくないように険悪な雰囲気を出す。
(お国同士の競り合い、か……)
背後の家に目を向ける。こんな所で流血沙汰はやめて欲しい物である。教育上、最悪と言っても過言ではない。
「我らは御神へ巡礼へと参ったまで。この真なる信仰を以て彼の聖龍様を敬拝するべく馳せ参じた。」
「彼の信仰を刺激する事は今の世、そちらのお国柄上、悪手とお見受けしますが……」
『彼の信仰』とは女神信教であろうか。
聖王国イブは、大まかに分けて二つの信仰の元にある。
――――聖龍信教。ミレドを崇める信仰。
―――もう1つが女神信教。女神セレネを崇める信仰である。
「我らが御神を迎え入れる事は我らが悲願。彼の信仰が邪魔するような事があれば我らは武器を取り、その御力を知らしめてみせようぞ。」
「その行為は『大陸聖教法』に反します。神に身を使える者が神が定めた法を自ら破る事は罷りかねない。それは、国としての低下その物。いま一度、改められよ!
………団長殿、お任せします」
「御意」
金髪碧眼の若い男性が剣を抜いた瞬間、ビリッと空気が冷たく鋭くなった。―――殺気。
幾つもの修羅場を乗り越えたためこういう空気の変化は嫌でも分かる。
その男が跨っていた馬から下りた後、眼鏡男と交代するように立ち位置を入れ替え先頭に進み出る。
「私は陛下より軍総統を任せられたアルゲルト・フェータル・レオルギートである。アンデルト大臣の言の葉の後、私からいま一度問う。先程の言質、弁解するつもりはありませんか?」
小説や乙女ゲームに出てきそうなくらいイケメンなその団長が再び聞き返す。聖王国側の解答は、「NO」。何も答えず、その司祭が片手を上げる。
あれはジェスチャーでいうと"待て"である。ちなみにその手を振り下ろすと、"突撃"という意味になる。
「……人の子にしては、凄いのう。」
感心するミレドに同意する。練り上げられた体に纏う濃厚な魔力が黄金の輝きを秘める。魔力を"視る"限り、その領域まで達するには常人以上の努力と能力が必要である。
今の段階で彼に敵う相手は恐らく聖王国にはいないだろう。
張り詰めた空気の中、黄金に輝くその光の中、獰猛な獅子、もしくは虎のような威圧で肌が痛い。
――― 虎と竜が『王』に会いに来る。
ソフィアが先程言っていたのはこの事だろう。
「ネスク!」
ミレドに呼ばれると自分の前に差し出されたそれを受け取り駆け出す。
その瞬間、司祭が手を振り下ろした。
――― 光が走る。
「なっ!?」
誰が上げたか分からないその声。ミレド以外の誰もがその光景を目の当たりにして驚愕した。
「聖王国と王国の貴様ら、ここがどこかお分かりか?」
団長と呼ばれていた男の剣をネスクが木刀で受け止めていた。
「ぬしらがどのような目的で聖域に赴いたか知らぬが、ここは―――― 和解の場。何人たりともこの場でその血でこの場を汚す事は罷りならぬ場じゃ。
小童ども、そこをはき違えるでない!!」
ネスクの言葉を引き継ぐようにミレドが堂々と話す。
心無しか『龍気』を身に纏っている。
先程とは打って変わった空気が重圧となって肌を震え上がらせる。それは純粋なけれども圧倒的支配者の威厳と威圧。この場の誰も、今剣を交わしているこの男ですら霞むくらいの支配者である。
その場の誰も言葉を失っている。
「分かったらその剣引いてくれねえか?こっちはあんたらと相手してる程暇じゃない」
カンッと木刀で弾いた後ネスクは下ろした。ミレド程威圧を加えてはいないが、せっかくルリ達とわいわいしていたのを邪魔されて虫の居所が悪い。
「………失礼した。」
アルゲルトはそう言うと剣を鞘へ戻した。
ミレドをあそこまでさせたのだ。あれ以上怒らせるのは彼らのためにはならない。そう判断したのだろう。
「おお!聖龍様!我らの御神!」
もう一方は……というと、あの威圧を受けてもまだあんな事を言っている。その根性だけは称賛である。
「我が子らよ!代表をここに!」
そんな聖王国を無視して、ミレドがそう上へ叫ぶと、一体の赤い竜が降りてこようとしている。
「御神よ!我らの願いを聞き届けたまえ!」
そう叫び司祭がミレドの腕を掴もうとする。
――― パシッ
ネスクが加減をして男の手を弾いた。先ほどまで団長の前にいたネスクが一瞬でミレドの前に現れた。
「神云々の前に、"常識"を身に付けて下さい」
黒い笑顔でネスクがそう告げた。その笑顔を以てその司祭を黙らせる。
格が上の者ほど先に用件を聞くというルールが基本。それを守らない者は世間からは白い目で見られる。
この場でいうと、龍の子である『竜族』が先である。そして、その下に両国が続く。本来は竜族の方が先なのだ。
『我が君よ、お久しゅうございます。変わりないお姿を拝見でき私ども一同。歓迎の極みでございます』
頭を垂れる竜。その大きさは、頭だけで人の大きさくらいはある。饒舌な挨拶からしてその辺はまともに勉強している様子。
「うむ、苦しゅうない。我が子よ、よくぞ戻った。我が務めも終息し、今は隠居をしながら次世代の育成をしておる。」
『……では、怨敵を……』
コクリとミレドが頷く。そして、竜族の代表は次の言葉で驚く事になる。
「この時を以て、汝らに課した命を解く!
これよりは、―――― 『自由』に生きよ!!」




