三国行進
更新します。冒頭がやっと、登場。
我ながら遅いと思いますが、ご容赦ください。
「戻ったかネス!」
森を抜け、家へと戻ったネスクをミレドが出迎える。彼女の様子からして、何が起きているか粗方は、把握している様子。
「クー達は?」
「家に避難させておる。この中ならば何人たりとも害せぬからのう。」
以前の襲撃以来、有事には家の中全体に結界が張れるように作っている。
どんな魔法でも中和する機能に加え、防御面でもガチガチに固めたためどんな城塞よりも強固である。
「………ルリはどうした?」
一緒にいた筈のルリがいない事に気付いたミレドが質問する。
「あっちに置いてきた。信号は出してある。あの二人がいるから問題ねぇだろ」
「ならば、心配無用じゃな。森の中で暮らすエルフならばそうそうに見つかる事もあるまい。」
―――― 『風の隠者』。エルフをさす言葉である。
エルフ達がその気になれば、誰もその姿を見る事が出来なくなるくらい森の中では隠密行動に長けている。また、エルフ達は森を愛する。
『森の番人』とも呼ばれる彼らは森に害をなす存在には容赦しない。
「さて、お出ましのようじゃ。見てみよ」
空を見上げる。快晴である空が一瞬にして曇った。いや、曇ってはいない。正しくは、陰った。
ネスクは思わず、目の前の光景を疑ってしまった。
空には小型の翼膜を広げるトカゲのような生物。その鱗は、色鮮やかに彩られた色。
赤、青、緑、黄、紫
ミレドが龍化した姿をとても小さく。そして色鮮やかに塗ったような姿をしている。
―――紛れも無い『竜族』と呼ばれる彼ら。
ミレドがその血と力を分け生み出した"種"だ。
上空を巨大な影で覆うくらいの数が翼を羽ばたかせる。
「戻ってきたようじゃのう………我が子らよ………」
ミレドの表情を盗み見る。複雑そうな表情をしている。懐かしむような表情をする反面悲しむような表情。
強烈な魔力量にネスクは思わず頭を押さえる。
「なん、だ?」
空から地面へと視線を戻し、妙に気になる東側の茂みへと視線を落とす。
風にしては不規則な動きで茂みが揺れる。
ガサガサと草の擦れた後、全身フルプレート姿の人物達が現れた。
「今日に限って客が多いのう。」
ミレドがはぁ、と一つ大きなため息をした。西側の森からも東の人物達とは異なる形のフルプレート姿の者達が現れた。
西側、東側から人族の軍隊。
全身フルプートにそれぞれの武器。騎士隊が隊列を組む。完全武装を整えた彼らの色は、西は青を基調にした鎧。東が赤を基調にした鎧。
そして、彼らの掲げる旗、
―――双方≪共和国≫と≪聖王国≫の旗だ。
「ネスクよ。何か心当たりでもあるかのう?」
呼び名がいつも通りに戻っている。
「………何がだ?」
「二国がほぼ同時に現れたことじゃ」
考えられること。クーシェが連れてきた子ども、村人を連れてきたこと。その辺りしか思い当たらない。
「王国にあっても、聖国には………無いな」
聖国にはそもそも行った事が無い。その上、関わり自体も近年では一欠片も無い。
「やれやれこういう時はいつも厄介事何じゃよな、きっと……」
再び大きなため息をしたミレドは遠い目をする。過去に何かあったのであろうか。
鼓動がドクンと大きく跳ねた。先ほどから身体の具合があまり宜しくない。再び東、王国側の騎士へと目配らせをしていて思わずぎょっとした。
目の前の視界がぐらっと歪む。
現実を否定したくなる思いに駆られる。ドクンドクンと心臓が早鐘を打って血脈へ流れる血の流れを感じ取る。
「なん、で……」
次に溢れた言葉がそれだった。
「ネスク?大丈夫か?」
一緒に対峙したミレドがそう言葉を掛けるがその返答を返すことが出来ないくらいネスクの中に動揺が広がる。
(なんで……なんで………小夜がここにいるんだ!)
声が出ないくらい動揺しているが心の中ではきちんとした言葉が発せられる。
≪共和国≫側の兵士の中に、他とは背丈が違う者達がいる。
周りがフルプートに対して、守る所だけの装備をしているだけの軽装備。
そして、全員が黒か、茶色の髪色である。
この世界に『黒髪』という者は少ない。
ブロンドか、白。銀といった者達の方が人族の中には多い。ドルイドの若葉色、カプシモのような真紅。そういった鮮やかな髪色は、他種に多い。
もし、黒髪の者だとするならば、
―――それはネスクのように代償のせいか、もしくは異界の者。その血を受け継ぐ者である。
* * * * * *
――― 数日前に遡る。
王城はその日、慌ただしかった。
いつも慌ただしいが、その日は殊更に慌ただしい。
引っ切り無しに訪れる者達を捌きつつ政務に勤しむ王の横に大賢者であるエルメス・フィア・クローズこと、エルメスはその報告書を見て難色の表情を浮かべていた。
理由は、一つ。王国の一部分が焦土となった事にある。ただ災害によりそうなった場合は、まだ理解が出来た。
だが、その痕跡を確認した所、大魔法の痕跡が見受けられたため頭を抱えずにいられない。それと同時に興味も唆られている。何とも複雑な面持ちである。
「へーガスよ、このような事は可能なのか?」
「はい陛下。恐れながら申し上げますと、―――可能です。ですが、それは私のような者が数人がかりで行えばという事が大前提となります。」
「それは、また難儀なことよな。はっはっは!」
温和な笑顔を絶やさない王が正式な場で無いため豪快に笑う。旧知の仲だから知ってはいるが、他の貴族が見れば一つ目に貴族としての『威厳』云々と口酸っぱく言ってくる。
エルメスは報告に目を移し考え込む。
この報告が真の事ならば、一体誰がこのような事をしたのかという疑問にぶち当たる。だが、その回答はもう得ている。
三日ほど前に『急報』として上がった大地を覆い尽くす程のゴブリンだろう。
そして、誰が行ったか。これは、定かでない。だが、可能性の有無でいえば『聖龍様の使い』この者の可能性がもっとも高い。
最もあの伯爵から上がった報告のため眉唾物である。
この国の貴族の勢力は三つに分類される。
国王派と貴族派、そして中立。
例の伯爵は中立と発言しているが、"裏"では黒い噂を囁かれている。そのため、どちらかというと貴族よりの中立のためあまり信頼出来ない。
「これは、……やはり彼に一度赴いて頂いた方が宜しいでしょう」
「我が【閃光の獅子】か、―――良かろう。
各所にはその事を通達せよ。期日は後日」
「御意」
元々はそこまでだいそれた騎士団員を動かすつもりはなかったが、事が事だけに【閃光の獅子】こと、軍総括団長であるアルゲルト・フェータル・レオルギートの同行される事となった。今、彼が北の帝国との境で魔物の大群を相手に大立ち回りをしている事はお茶を飲むこの二人には届いていない『報告』である。




