言えなかったこと
更新します
『『いいな〜いいな〜!皆だけず〜る〜い〜!!』』
頭の周りをネモとペーレがぐるぐる空中で回り、大声で駄々をこねられる。
「言っとくが、お前らは『警備』の仕事だからな。」
『『 え〜!ネスゥ〜つめた~〜い!』』
この二日間の事を少し話しただけでこの騒ぎ様。二人は精霊の中でも特に好奇心強いようだ。元々精霊は自然の中から生まれるため、人工的に作られた街や都には憧れがあると二人から聞いた。その事も相まって二人共不満たれたれの様子。
「ここの人達が安定した生活ができるようになったら連れてってやる。だから今は我慢しろ」
ここ二日でまだ村と言える程充実はしていないが、仮住居はあらかた出来上がった。ハニワ達(精霊)の力を借りれば、数日で森だった部分は開拓されて綺麗に整えられている。
「………あれ、何教だよ……」
視界の端に視線を移せば、ハニワ達が連れて来た村人達に両手を合わせられている。どこかの宗教の開教に立ち会っている気分である。
何はともあれ二人がうるさいのでそろそろお暇しよう。昨日調達して来た物は渡す事が出来た。
『ねぇ!今すぐ連れてって!』
『ペーレも!ペーレも連れてってよ〜!』』
実際、エルフであるルリを連れて歩いただけで結構な注目の的にされていた。二人を連れて行けば、取集が付かなくなって、治安隊のお世話になるのは確実と言っていいと思う。ネスクは首を横に振る。
『え〜い〜や〜だ!ぜっ〜〜たい〜行〜〜く!』
「痛い痛い!耳を引っ張るな!」
『い〜や〜〜!』
二人が両耳を引っ張って耳が伸びる。このままでは擬似的なエルフになってしまうのではなかろうか。
「ネス、困ってる。これで許して?」
『『わ~い!許す〜!』』
ルリが二人に飴玉を一個ずつ渡すと喜んで食い付いた。上位の精霊ではあるが、頭の中は思いの外幼い。
後、ルリの言う事であれば何かと言う事を聞く。
「ルリ先に戻ってるぞ!」
「ん……」
ペルメス王都へと赴いた日から数日、未だにミレドとクーシェが連れて帰ってきた少女は目覚めていない。
その少女の事もそうだが、何よりクーシェの様子も気になる。
* * * *
「………眠れません。」
真夜中の時間帯に目が覚めてしまった。それは、一族に関わる重大な内容を聞いたせいである。
―――― タスケテ
またあの声が聞こえる。昼間に聞いた時よりも、聞き取りづらくなっている。
この声は神器が助けを呼ぶ声なのだろうか。
静かにベッドから下りて扉から出てそのまま一階のリビングへと下りる。
「ネスク様?」
「クーか?どうした?」
下りると真っ先に灯りの灯った部屋に椅子に腰掛けるネスクが目に入った。てっきり誰もいないと思っていたため心臓が跳ねた。
「ネスク様はどうされたのですか?眠れないのですか?」
「こんな時間に目が覚めてしまってな……。その後は悶々としてた」
「私も同じです」
同じ理由で部屋から出てきた事に思わずお互い笑ってしまった。席を立ったネスクがコップ一杯に入った飲み物を作って持ってきた。
「………飲むか?」
「ありがとうございます。戴きます」
渡された飲み物を口に入れると、爽やかな味わいと共に甘酸っぱいオレンジの味が口の中いっぱいに広がる。
「ポーアが好きな蜜蜜柑のジュースだ」
「……美味しいですね。いつの間にポーア様と飲んだのですか?」
「まぁ、……最近だ。最近……」
一瞬固まった後ぼかしたネスクを怪しいと思いつつもそこはスルーする。何でもかんでも他人の秘密に足を突っ込むのは、お世辞にも良くない。
「あの子、大丈夫でしょうか?」
上の階で寝ているカプシモの少女。見えない所に無数の傷があった上、頬は血色を失い痩せていた。よほど酷い扱いをしていなければ、ああはならない。
「ミレドが見ているんだ。心配ないだろ。それに、あの子も戦闘民族なんだ。それほどヤワじゃないだろ。」
カプシモの体は頑丈。滅多な事で病には罹らない上に、ある程度の傷は勝手に治ってしまう。力も人間の男の倍くらいはある。魔法に関しては空っきしだが、肉体は神器が影響してか、世界でも指折りに入るくらい強い。
「そう……ですよね。………そうなんですね。あの、ネスク様……」
「ん?何だ?」
考え事をしていたのかネスクは一拍遅れて返事をした。
「あ………いえ…何でありません。」
言おうと思っていたが、言葉に出す前に喉で詰まってしまう。カタカタと受け取ったコップが震える。
自分が寝付けない理由は、重要な話を聞いた事以外にもう一つある。それは、自分の存在が根底から覆ってしまうのではないかという不安。
私はその事実を言うのが怖い。
真実を知った瞬間、ネスクや他の人達がころっと変わってしまうのではないか。その事を思うと不安で眠れなくなってしまった。
「クー本当に何も無いのか?顔色が悪いぞ?」
「いえ、本当に何でもありません。今日は遅いのでもう部屋に戻ります。お休みなさい。」
慌てて部屋に戻るクーシェの背を不思議そうにネスクは見送った。
再び部屋へ戻ってきたクーシェは扉を閉じるとそのまま床に座り込んだ。
二日前。暴走してから炎が出せなくなったこと、そして今日の神器の事で判明したが、神器は炎は使えても水は使えない事。
「………【水球】」
掌サイズの水の球が手の上に出来上がった。やはり、自分はカプシモではないのかもしれない。
手の平をぎゅっと絞った瞬間水で出来た球はシャボン玉のように弾けて魔力に変換されて消えた。手の上に残ったのは魔力行使による残滓のみがキラキラと光っていた。




