神器〈業火(ルフス)〉
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「それで、どうしてこうなってるんだ?」
「さあ?」
肩をすくめるネア。目の前の光景に理解出来ないまま二人だけ取り残された感がある。
「あ!ネスク様!」
両手一杯に荷物を抱えたポーア。その周りにいるルリ、パルメルス、フルール、マロン、フィアールは、クレープと思しき何かを食べている。
「戻ったかダメ弟子」
「いきなり辛辣だな〜!こっちはこっちで大変だったんだんぞ!というか一体どうなってんだ!?」
いきなりダメ出しされたことに半ギレになりつつ状況を分析する。ポーアと他子どもは良いとしよう。後ろに控える荷物の山をツッコめばキリが無い。
「それで、その子は?」
「拾った」「救助しました」
おおう、一体どこからツッコむか分からなくなる。なんで王都に来てまでこう、何だか面倒事に遭遇する?
「ひとまず、今日の所は帰るぞ。話はそれからだ」
ズキズキと痛み出す頭を抱えて眉間を押さえる。
【水面鏡】を展開して家と繋げる。そのまま皆と荷物を押し込んで閉じた。
「………そういうこと、か。で、容態は?」
「体の傷は全て完治じゃ。じゃが、精神的な物と魔法の酷使による痕跡が見受けられるのう。傷を治しても目覚めぬのはそのためじゃ。今は休ませる方が良い。」
クーシェと同じ赤髪の狼の獣人。年齢からするとルリたちより少し上クーシェより下くらいだろうか。
といってもクーシェとそれほど変わらないように見える。
「クーは何でそんな所にふらふらと行ったんだ?」
「……ごめんなさい」
「別に責めてない。ただ、気になっただけだ」
耳が垂れ尻尾が萎れる。目に見えて落ち込むクーシェに慌てて説明する。
「誰かに呼ばれた気がしました。」
「………誰に?」
「わかりません。こう、頭の中に響くような感じで女の人の声がしました。」
頭の中に響くということは、『神器』だろうか。
前々から気になってはいたが、灼熱の狼の神器は一体どうなっているのだろう。
「皆様その事で少しお話しがあります。」
ガチャリと扉からポーアが入ってくる。
真剣な表情のポーア。何かあったのであろうか。
「どうしたんじゃ?」
「わたくしは、昨日からひーさまの命で調べ物をしておりました。」
「ヒサカキか。また妾に黙っておったか。あやつは相変わらずイタズラ好きじゃな。」
「ミレド楽しそうだな。」
楽しそうに笑っているミレドはとても愉快そうである。
「それでポーア様は何を調べていたのですか?」
「神器〈業火〉の行方です。」
やはりか。
ヒサカキが関わっている上、彼女の命となると、それ関連以外ありえない。
「神器、ですか?」
「はい。 業火はクーシェ様方。灼熱の狼が管理・所有していた神器です。」
「もっとも、数百年前に喪失したがの。忽然と。」
「ミレド様はご存知なのですか?なら、教えてください!私達が所有していた神器について!」
いつになく真剣なクーシェが囲んだテーブルから体を乗り出す。
「よかろう。どうせ、そのうち教えるつもりじゃったしないい機会じゃ。――――神器〈業火〉は形を持たぬ神器じゃ。」
「形の無い、神器………ですか?」
「神器その物が『炎』でのう、その形は使い手次第で様々な形に变化する神器の中でも最強とされておった」
今まで二つ(ポーアの神器〈盾〉と自分の神器〈叡智〉)を見てきたがどちらも神器と呼ばれるだけにその強さは十二分に理解している。そんな神器の中でも『最強』とは一体どれほどの力を宿しているのか計り知れない。
「最強、ですか」
「業火の力は感情の具現化。感情が高まれば、その力はそれ相応に強くなる。強くなりたいという気持ちであれば、剣のように鋭く、守りたいという気持ちで盾のように全てを防ぐ焔になる。」
「凄い、ですね。そんな力の結晶ともいえる神器を作り上げた女神様。やはり、信仰されるお方だと実感しました。ですが、そんな力が何故喪失されたのですか?」
確かにそんな力であれば、奪われる事はまず無い上に、使い手がしっかりと継承していれば、今のカプシモと状況など無に等しかった筈だ。
「業火は強力が故に、負の面も大きかったのじゃ。力には代償が付き物。」
「……理か。」
「うむ、ネスクの言う通り。誰も理には逆らえん。逆らえば、それ相応の応酬が身に降りかかる。……話を戻そう。
業火には負の感情を継承の際、引き継ぐという側面がある。」
「負の感情、ですか」
クーシェが唾を呑んだ。
「そう、例えばそうじゃのう。死にたくないであったり、殺すといった負の感情は神器に刻まれやすい。その負の感情が長年、チリに積もった末、神器は負の感情に呑まれて『喪失』といった現象へと転じたのじゃ。」
「ん?だけどミレド。クーシェ達には今もその恩恵は続いてんだろ?失くなったのにどういう事だ?」
ミレドの話でクーシェが魔法を介さずに炎を扱えることの辻褄はあった。だが、次に『喪失』したのに何で神器の加護が存在するのかという疑問が沸く。
「おぬし、本当に神器使いか?」
「何だよ急に!」
「神器の成り立ちを覚えておらんのか?」
「成り立ち……あ」
「そういうことじゃ」
神器は、種を護るために存在する。種を失った神器は、名を失う。
それは逆にいえば、種が存在する限り神器として残っていると言う事である。
「今、業火は宙ぶらりんなのじゃ。負の感情の蓄積によって『喪失』、じゃが種は護らなければいけない。それ故に、加護はそのまま残されておる。まあ、その宙ぶらりんのせいで、『暴走』という現象が発現してしまっておるがな。」
二日前に見たクーシェの暴走がここに繋がる。
「そういう事でしたか。」
「カレンか。子らは良いのか?」
「はいミレド様。只今寝かし付けて来ました。」
「あの、カレン様。その、ごめんなさい!」
二日前の暴走の事でクーシェが頭を下げる。カレンはあの暴走で軽くない傷を負った。
「クーシェ殿が負い目を感じる事ではありません。あれは仕方が無かった。故意ではなく、事故です。自然災害のようにクーシェ殿にはどうする事も出来なかった。それだけです。この通り不自由も残っていないので、謝らないで下さい。」
「ありがとうございます」
カレンが格好良く見える。女性ではあるが、カッコいいという言葉が板に付く。
「報告に戻りますが、今日の火事なのですが、ひーさまが言うには業火の反応が強く見受けられたとの事です。」
「……妙じゃのう。神器の反応が強いという事は神器その物を使った事になるのじゃが、既に業火は『喪失』しておる。その反応、本当に業火なのか?」
「はい。間違いありません。ひーさまが言うには一ヶ月ほど前に一度、そして十日ほど前にも反応があったそうです。わたくしも、昨日、その現場に行って参りましたが、確かに神器の魔力痕跡がありました。」
「神器が三度使われたって事か?それにしては町は平和その物だったが………」
街の様子を見た限りでは騒がしくも、事件など起こっていないという感じであった。
「この話は、ここまでで今はお預かりとしよう。これ以上話しておっても、卓上の推論にしかならぬ。どうせ、この女子が意識を戻せば関わることじゃ。
今日の所は解散じゃ!」
ミレドの掛け声で一斉にその部屋を後にした。
既に暗闇が下りた外には虫の輝きだけが遠目で見えるだけであった。




