呼び声
久しぶりに更新します。
―――タスケテ
誰かの声が聞こえる。
色んな人が行き交う中、鮮明に聞こえるその声。女の子の声である。恐らく子ども。そのくらいか細く小さな声が自分の体をどこかへと動かす。
「ここは………」
何時のまにか荒れ果てた町の一角に辿り着いた。一年前にいた灼熱の狼の村を思い起こされるが、この町ほどではない。
少し歩けば、地面に座り込む人達がいる。誰もが頬の肉が痩せこけ、服とは到底思えないくらいボロボロの布切れを着ている。
先程までとは打って変わったその場所はこの国の現状を物語っている。
――― タスケテ
また声がした。
体が勝手に声の元へと向かう。何かに導かれるように足が進んで行く。
視界の左端に何かが目に入った。
数ヶ月鍛えただけに体が勝手に後方へ飛び退いた。
「えっ?」
後退して飛び出した何かに気づいた。薄汚れてはいるが、赤い髪に獣耳。周りと同じようにボロボロの布切れを着ていて、手足に千切れた枷が填められている。
「大丈夫ですか?しっかりして下さい!」
駆け寄り体を揺らすが返事は無い。ネスクから教えてもらったやり方で首筋の脈を確認する。
脈は弱いがしっかりとしている。
「おっ!さっそく餌に食い付いたか?今日は収穫があって良かったぜ!」
「……どちら様ですか?あなた方は」
屋根の上に八方を塞ぐように囲まれた。地面にもナイフや斧といった武器を持つ人たちが取り囲む。
「さんざん手こずらせやがって。この落とし前、つけさせてもらうからな。」
「あの、誰かと間違えていませんか?」
この男達に心当たりは全く無い。そもそも、王都へ来たのも今日が初めてのため知り合いがいる筈もいない。
「いーや!その髪が証拠だ!」
急に剣を振り回して来る。足元の少女を抱えて斬り掛かってくる男の攻撃を避ける。
男の剣はそれほど鋭く無く避ける事は容易い。
「この子に当たったらどうするのですか!?」
クーシェだから避けられているが人を一人抱えて攻撃を避けるのは難しい。
「はっ。そいつにはもう用はない!事切れ寸前のそいつにはちょうど良い最後じゃねえか!おいっ!テメェらもやれ!!」
「「「「うっす!」」」
リーダーらしき剣を振り回す男の指示を受けて、八方全てから男達が襲いかかる。流石に分が悪い。
「クーシェ!飛ぶのじゃ!!」
(ミレド様!?)
突如現れたミレドの指示通り地を蹴り上空へ飛ぶ。
「目を塞げ!【ケルス】!!」
クーシェがぎゅっと目を瞑ると同時にミレドの体が発光した。
「あああっ!目があああ!」
「あああ!くそ!くそっ!くそっ!!」
目を開けると、下で顔を抱えて転がる男達が苦しんでいる。滞空時間でいえば数秒だけであったが、その数秒で形勢が逆転した。
やっぱりミレド様は凄い。
「走るぞクーシェ!」
「えっ?ですが、あの人達は……」
「敵がこれだけとは限らぬ!よいから走れ!!」
まだ言いたい事は後にしよう。今は手に抱える少女の事もある。
「はいっ!」
思いっきり地面を蹴る。男達が混乱している。合間を駆け抜けて来た道を引き返す。その後ろでは悔しがる男達の叫び声がしていた。
* * * * *
「くそっ!あんの、アマが!!」
蹴り飛ばした酒樽が転がる。アジトに戻って来た男は怒りを物にぶつけている。
「まぁまぁリーダー、少し落ち着きましょうや!」
宥めようとする大柄な男の顔を殴り飛ばした。
「お偉いから受けたせっかくのチャンスを棒にしたんだぞ!これが落ち着いていられるわけねぇだろこのタコが!」
「しかし、だぜ。兄貴まだチャンスは来るぜきっと……」
「そうだぜリーダー!なんたってあの方が俺らについているんだからよ!」
周りの男達がリーダーと呼ばれる男を宥めた事で多少は頭が冷えた。そうだ。まだあの方がいるのだ。今回はしくったがあの方とか一緒なら、勝機は充分にある。
「この、屈辱。覚えていろよ
――――"ロミナ・ビゾッダ"!!!」
メラメラと燃える男の目の中には、ロミナ・ビゾッダと呼ばれる集団の姿が映っている。彼らの外見は全員が赤髪赤目の狼の獣人である。その外見的特徴から灼熱の狼と推測される。
近年から活動するその組織によって、奴隷商やその奴隷売買をされる会場の幾つもが潰された。
この男達は奴隷商に力を貸す事で益を得ていた物がほとんど。それは上の連中も例外ではない。その目の上のたんこぶのような存在を排除すべく動いている。
排除すれば賞金もたんまりと出る。
「荒れているようだな。キャルッテ」
「あんたか。罠に得物が掛かったんだが、白いリザードマンに邪魔された。くそっ」
キャルッテと呼ばれるリーダー格の男の背後の影からフードを被った男が現れた。音も無く現れるその男は、"白いリザードマン"に反応を示す。
「………他に特徴は?」
「えっ?いや、一瞬だったし、よくは見てねぇが妙な魔法を使ってたな。一言だけ口にして」
「ほう。なら、確定、か。次から俺も同行しよう。餌の準備をしておけ」
そう告げると、男はその場から姿を消した。
「俺はテメェの駒じゃねぇっつうの」
不満をこぼした直後、ボサボサの後ろ髪がスパッと何かに切られたように切れた。首は繋がっている。
その事実に次の瞬間顔が真っ青になっていた。




