値引き交渉
久しぶりに更新します。
「おい聞いたか?東の路地裏の話」
「お!聞いた聞いた!事故の話だろ?
誰もいない路地裏で爆発があったって噂の話!」
そこかしこで様々な噂の話が聞こえて来る。路地裏の怪奇めいた話、東の平原が丸一日で焼け野原となった話、そして、その近隣の村で聖獣と呼ばれる獣が出現した話。他にも、王城で異世界から召喚された者達とするパーティーの話などなど。挙げればキリが無い。
話題に持ち上がりそうな好奇心を刺激する物が噂になって聞こえる。人の口に戸は出来ない物だ。
一部心当たりがある物があるためドキリとしたが、それほど重要視はされていないようだ。あくまで噂らしい。
「これとかポーア様に似合いそうです!着てみませんか?」
噂話に夢中になっていると声をかけられた。振り返るとキラキラと目を輝かせるパルメルスがいた。
手に持つ服は絶対に自分が選ばないような色である。
「いえ、流石にそれは……」
「……ダメですか?」
上目遣いからのおねだり。可愛いモノセンサーが振り切れそうな程。ぐっ、と何かが来る。兄はいても自分に妹はいない。
妹がいれば、こんな感じだったのかな。と思いつつ思わず二つ返事で了承してしまった。
「お客様よろしいですか?」
試着室にて着替え、仕切りの幕を開く。幕を開くと、猫の店員さんが鏡を持ってきていた。自分の姿が鏡に映る。
いつもの自分が鏡の中にいる。だけど、その衣装は先程パルメルスが手に持っていた服を着ている。
「わぁー!やっぱり似合ってます!とても綺麗です!」
「とてもお似合いですよ!お一つ、いかがなさいますか?」
青色をメインにした服。膝丈まであるドレスコードではあるが舞踏会で着るような盛りに盛った物では無く、比較的簡単に袖を通す事が出来る作りになっている。
「こちらなんと!異世界からやって来た物なんです!」
「そうなんですか?」
「はい!大賢者様が一月程前に召喚の儀を行ったそうで、今貴族間では勇者様ブームが起きているのですよ!」
初耳だ。召喚の儀が行われたことも、異世界の者がいる事も初めて聞いた。
『異世界』ということは、ネスク様と何か関係あるのだろうか。前世の話を聞いた時、こちらの世界とは全く異なる事をおっしゃっていた。
「ポーア様どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。こちら、おいくらになりますか?」
「銀貨三枚になります。」
営業スマイルの猫耳の店員。これは結構質の高い物だ。質の良い物ならば、このぐらいの値段で打倒だろう。
「では、それ―――」
「銀貨二枚になりませんか?」
どこからかひょっこりとマロンが現れた。いつになく真剣な目をしている。その目は、何を見ているかは分からないが、まっすぐに店員さんを見上げる。
「そうですね……可愛いお嬢さんの頼みですし、銀貨二枚と大銅貨八枚でいかがでしょうか?」
「もう一声お願いします!もう一声!」
店員さんがうむむ。と唸っている。
「分かりました!では、奮発して大銅貨五枚!」
「お願いします!!」
「ありがとうございました!」
二人について行けないポーアは呆然と二人の会話を聞いていた。何が起こっているのか分からないままパルメルスに服を引かれた事で我に返った。
服の代金を支払いパルメルス、マロンを引き連れて店の外へ出る。
「マロンちゃん、さっきのは一体………」
「ポーア様は値引き交渉をして下さい!物によってはちょっとした交渉で安く買える所があるのですから!」
「あれが、値引き交渉……」
今まで値引き交渉をした事が無かったため、ああいった場は知らない。初めて見た。
「前から思っていたのですが、ポーア様はドルイドのご令嬢ですか?値引き交渉は皆やっていますよ?」
マロン達には自分の正体については内緒にしている。気軽に話し掛けてくれることも嬉しい。いずれ知られる事になるかもしれないが今は子どもらしい口調の方が話しやすい。
「ええ、そんな所です。」
「仕草からそうかなとは思っていました。」
「マロンちゃんはああいうのに慣れていらっしゃったようですが、ご実家は『商家』なのですか?」
「はい!キツネ人は商売を営む家が多いですから。値引き交渉は慣れています。」
確かにキツネ印の商家は繁盛している所が多い。
「そういえば、パルちゃんもポーア様と似た感じがします。」
「そうなんですか?」
「あ、はい。私の家もポーア様と似た感じですね。」
服に夢中なパルメルスが服を見ながら微笑みながら言う。手に持つ薄水色のドレス。どうやら気に入ったようだ。先程お願いした猫人の店員さんにそれもお願いする。
「ポーア様、そろそろ……」
「行きましょう!。」
カレンがそろっとやって来て小さめの囁きで教えてくれる。長居し過ぎたせいか沢山の人の目が集まっている。その視線には興味を持つような視線もあるが、あまり良くない物も混ざっている。
近くにいるパルメルスとマロンは気づいていない様子である。
「そうですね。わたくしは二人を見ておきます。カレンは、これでお会計をして貰えますか?ルリちゃんと他の子も近くにいる筈ですので終わればそちらへ。」
「畏まりました」
「はいお願いします」
持っていた銀貨を代金分渡す。パルメとマロンを引き連れて店を出た。
「この近くに美味しそうなお店があります。皆が揃えば行きましょう!」
「「わ〜い!」」
はしゃぐ二人を引き連れて表に出ると騒ぎが気になる。
「何かあったのでしょうか?」
一際人だかりが出来ている部分がある。人で溢れ、通りが滞り、人のバリケードのようになっている。
「あ、ポーア」
「ルリちゃんいらしたのですね。これは何の騒ぎですか?」
「……火事、らしい。 お店で」
こんな昼間に火事が起こる物だろうか。夜ならともかく、日照が出ている時間帯のため今使うとすれば、料理の際に使う物だけのはず。火の扱いをする者であればそんな初歩を誤るとは到底思えない。
「あ!ポーア〜いた!」
「フルールちゃんに、フィアールちゃんも。合流出来て良かったです!……あれ?ミレド様とクーシェ様は一緒じゃないんですか?」
フィアールとフルールが顔を見合わせた後、二人して首をかしげている。ネスクがネアとどこか行っている今、二人共がこの子達を置いて離れる事はあり得るのだろうか。
「何もなければいいのですが……」
日が照る高さが一番高い時間。空には雲一つ無い。快晴だ。だが、心の内はどこかモヤッと翳っている。
(ポーちゃん、ポーちゃん!)
頭の中にヒサカキの声が響く。
(ひーさま?どうかされたのですか?)
(スーちゃんの反応!間違いない。)
「………え。」
ヒサカキの言葉に頭が追いついていない。凝固したままのポーアはパルメルスとマロンに服を引っ張られその場に固まってしまうのであった。




