取り引きと賭け引き
更新します。場面は、一日後の昼に飛びます。
「ちゃんと来たようで安心したよ、ネ〜アちゃん♪」
「……その呼び方やめて。聞くだけで虫唾が走る。」
「おいおい兄に向かってそれはねぇだろ?」
震える体を抑えて今この場に望む。微笑みながらキツネ人のように細くする目は背筋にぞくっとする。
辺りは気に囲まれる森の中。この辺り一帯の森は魔物が比較的少なく発生してもスライムのような弱小の魔物のみ。そのため冒険者も来ないし、特に旨味のある物も何もないため村人も来ないような場所である。
「で、持ってきたんだろうなあ?」
情報を暗号で書き留めたその羽根を投げ渡す。
魔力を介し暗号の読み取りが終わると、羽根は自然発火し、消えて炭となった。
「へぇ、タダの人間にしてはやっぱり強い。魔力もそうだが、何より………くふふふ!興味がそそられちまうよ!」
その笑顔は家族に向けるような作り笑いめいた物ではなく本心からの笑いだろう。
「………はぁぁあ!こんなに愉快な事は久しぶりだぁ!」
「……取り引きには応じたのだから、そっちもちゃんと話しなさいよ。まさかとは思うけど、破綻させようなんて思ってないでしょうね。そんなことすれば、『商人』の名折れ、よ?」
「お前を殺せば問題ねぇ……よな?」
背筋のぞわりとした冷たい感覚が止まない。
この男や族長である父親は自分の身内にしてもこうだ。何かあれば切り捨てるそういう性分だ。
「へぇ、昔よりは人間味が出てきたなお前。それも経験のせいか?」
「………何がいいたいわけ?」
「んーや、まあいい。俺の知ったこっちゃねえ。
さて、お前の命……どうしてくれようかねぇ?」
どこからか小型のナイフを取り出した。この男、冗談ではないらしい。次の返答次第では結末が決まる。
「私を殺しても意味ないわよ。今日の夕刻には皆で集まる予定だから。私がいなければ死ぬまで探し続ける連中だから覚悟しておきなさい!」
「ネアお前そんなことで俺がやめるとでも?」
「あら、最後まで効かずに殺すつもり?なら別にいいけど……その代わりあんた達はあちらで吊るされる羽目になるわよ?私としてはこっちの展開を希望させてあげる。」
「どういうつもりだ、ネアぁ?」
睨み付けると同時にきつく締め上げられた。
足元から伸びた影が螺旋状に描いて拘束して魔法すら出来ないようにさせる。その技を見るだけで自分より格上な事は理解できる。
「あんたらが意図的に『カラス』のペルメスでの順位を隠してるのは私でも知ってる。私が死ねばそれを全世界にばら撒く事になってるのよ」
「そんなハッタリが通用するとでも?」
「やっぱ見えてなかったのね。なら、教えてあげるそのハッタリを現実にする事が出来るのよ?ほら、アンタに渡した人物ならね」
「!っ、ネアお前……!」
首がぎゅっと締め上げられ呼吸が出来ない。
「がっ…………あ………あぁ……」
このまま死ねば、ネスクが持つカラスの全部が間違いなく漏れる。そうなれば、ペルメスにあだなす逆賊となってしまうが、そんなの関係無い。
何せその時はこの世にいないのだ。
自爆攻撃だと言われかねない取り引きモドキではあるが、この男に自分を殺して得られる得と生かした時の得を天秤にかけさせる事が重要。(ネスクからの受け売り)そして、あわよくば目の前の男にひと泡吹かせられる。
情報の流出を引き起こした本人なのだから。その事も流す予定のためその場合は、時期族長の座を失うことになるに加え、恐らく『カラスの最も深い者達』に消される事になるだろう。
「チッ………わあったよ、取り引きには答えてやる。」
殺意と影を引っ込めた。賭けに勝ったと見て良いだろう。
「ケホッケホッ…………ゴホッ」
首の骨を折られるか、窒息死させるかのような力加減などない本気で殺される物であった。滲む視界の中で兄が告げる。
「失敗しようが、なんだろうが良かった任務だ。面倒だから適当にやって戻るつもりだったが、代わりにお前がしてくれるのなら好都合だ。感謝しろよ!」
実の兄に首を締められたばかりだというのに謝りもしないその態度に腹は立つ。体勢は動かさないまま音も無くやってきて耳元で囁いた。
「っ!」
その任務に思わず、声を出さないまま二度見してしまう。先程のように作り笑いを浮かべて頷いた後、立ち上がって木の陰に隠れるようにしていなくなった。
その情報はたしかなものである。だが、信じられない。そんな事があるのだろうか。
「帰ったようだな。あいつ、めちゃくちゃ黒いもんがダダ漏れ。顔は隠せても魔力の色は隠せてない辺り素人だな。」
「あんたにいわれたら癪しかないわよ!」
「お前もいい加減丸くなれよネア。ちっとはルリやフルールを見習え!」
「あの子達は警戒心がなさ過ぎるのよ!この害虫に!!」
「お前口の聞き方見直せよ!人の事を使うだけ使っておいて!!
茂みからヌルっとネスクが現れた。【隠形】で気配と姿を消して、魔力を空気に浸透させるようにして自然に紛れ込む。さして、【無効の眼】を更に駆使して何も"聞こえない"ようにさせていた。
【隠形】と【無効の眼】。2つをかけ合わせた新たな魔法―――【擬態】である。
ダンジョンなんかの箱に擬態してやって来た冒険者を食べてしまうあの魔物から名前を拝借させてもらった。
「それで、もう大丈夫なのか?」
大丈夫とは震えの事である。あの男と話している時、震えを堪えている場面が見受けられた。
「始めから何もないわよ!私があんな男に怯えてるように見えたわけ!?」
「うん、見えた」
「はあ?そんなわけないでしょ!」
何に怒っているのか分からないがネアは簡単に言うと『天邪鬼』な性格である。こういう時は、さっさと街に戻って食べるにかぎる。
「怒ると腹が減るぞ?街に戻って何かたべよう!」
「あっ、ちょ、ちょっと!」
ネアの手を取り走り出す。ここは森ではあるが、外門から百メートル離れていない。入ればすぐである。
「ちょっと離しなさいよ!」
「嫌だね。話したいなら自分で離せばいい!」
「うぅ〜、バカ!!」
「バカっていう方がバカなんだぞ!」
「どこの悪ガキの言い訳よ!!」
外門に到着するまでそのままネスクとネアはそのまま喧嘩し合っていた。その間、ずっと握った手は離さなかった。ネアの手から伝わる震えもいつの間にか収まっているのであった。




