"裏"
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「ひーさまどうですか?」
(う~ん、反応は感じるんだけど、弱い?かな。それにあの子とは思えないくらい反応がまばらというか……)
「どういう事でしょうか?」
(あの子スーリルちゃんはね、何ていうか、存在感が圧倒的っていうか……神器を発動すると魔力が燃えるんだよね。)
「魔力が……燃える、ですか?」
(そう!魔法を介さずに使える炎なんだ〜!だから、魔力残滓が数ヶ月は残るくらい濃いんだよ!)
「では、なぜ薄いのですか?」
(さあ?完全燃焼でもしたのかな)
「ひーさま……」
そこは人気の無い路地裏。パルメルスとフィアールが服に夢中の間、ポーアはクーシェ達、灼熱の狼が元々所持していた神器の手掛かりを探し訪れていた。もちろん、常時二人が視えるようにしている為引率もこなしている。
あまり衛生管理が行き届いていないようでその路地には浮浪者と思われる者達がそこかしこに横たわったりしている。ドルイドの街では見たことの無い光景が広がるがあまり興味は注がれない。
来たは良いもののあまり手掛かりという物はそこには無い。思わず、ため息を一つこぼす。
「空振りですね。」
少しは"償い"となるかもしれないと思いを馳せてはいたが、無かった分気持ちの上がり下がりがある。
(そんなに落ち込んじゃダメだよ〜。ここ何百年か、何の音沙汰も無かった子だから魔力残滓が残ってるだけでも進捗したと考えるべきだよ)
「そうなんですか?わたくしはてっきり、昨年起きた騒動の際に奪われた物だと思ってました。」
(神器の加護みたいな物は与えてたみたいだけど、列記とした所持者は選んでないみたいだったよ〜!)
「という事は……」
顎に手を置いて考えるポーアは、途中で考える事を止めた。「動くな」という声と共にノドに冷たい物を当てられたからだ。
「大声を出すんじゃねえぞ。」
柄の悪い男が三人。この辺は治安が悪いせいか、ゴロツキの溜まり場となっているようだ。
「へへへ、中々の上玉じゃねぇか。」
下等な笑い方をしながら男がナイフを舐めながら近づいて来る。
「コイツを売り飛ばせば多少は俺らも食って行けるな。」
「売り飛ばす?この国では人身売買は禁止されているはずですが」
男達が顔を見合わせた。そして、ゲラゲラと笑い出す。
「大方お忍びの貴族様のようだな。売られる手土産に教えてやるが、それは表向きの話だ。裏ではやってんだよ!」
―――― なるほど、"裏"ですか。
「ドルイド、か。カプシモなら良かったが、この国のお偉いさんには関係無いか。」
「なあ、旦那。売り飛ばす前に少し味見したらダメか?こんな上玉に会うなんてこんな世の中じゃ早々無いんだからよ!」
下から上へと撫で回すような卑しい視線に吐き気がする。あの人ならそんな眼で見たりはしない。
「一つ伺ってもよろしいですか?」
「ん?なんだぁ?それに答えたら何してもいいのか?」
「えぇ、ですからこの憐れな生娘に一つ教えて下さいな。」
(ポーちゃん言ってる事と、やろうとしている事があってないよ〜。けど、このサル達には良いかもね)
頭の中でツッコんだ後爆弾発言をするヒサカキに笑みがこぼれる。それが、返って目の前の男達には良く見える。
「ひゃっほ〜い!早く答えてやる!なんだ?何が聞きたいんだ?」
調子の良い男Cがそう答える。
「"裏"の人間に灼熱の狼がだ〜い好きな殿方はいらっしゃるのでしょうか?」
「そりゃいるに決まってんだろ!あんな別嬪に加え、使える力を持つ奴らなんて早々いねぇんだからな!
特に貴族には盛況だな。そういう奴らは金ハケが良い!」
男Cは喋る人形のようにペラペラと話し出す。
「ああそうだとも。出品されればすぐに買い手が付いちまう。全く、貴族共は欲があり過ぎて困っちまうてもんだ。」
相変わらずナイフを舐め回す男Bがそう呟く。
その連中の中にこの人達も加わっている事に気付いていないのだろうか。
「……もう良いか?ならこのまま俺達のアジトまで連行させてもらう。」
ナイフをノドに当て背後から声を掛ける男Aが主張する。前二人はそうでも無いが、そこそこ頭にが回るようだ。人通りが少ないとはいえこんな道のど真ん中だ。
いつ警備隊か、また、いつ一般人が通ってもおかしくは無い。
早めにアジトまで浚い目撃される前に犯行(人身売買)に及びたい。―――そんな所だろう。
所詮はここいらでたむろう者達。これ以上聞いてもあまり意味ない。
「良いですよ。わたくしからの質問はそれだけです。では………」
ニコニコしていたポーアがきゅっと口元を締めて一言。
「――――『縛れ』」
言霊が具現化する。鶴羽衣が一瞬で三人を縛り上げた。
「なっ!?くそ!騙しやがったな!!」
「くっ!抜け出せない」
「テメェ、このア○ズレが!」
カランと喉元に当てられていたナイフが落ちる。手に力を入れられないように圧迫させて縛ったため大の男でも抜け出す事は容易ではない。もっとも、グラスのような人間を辞めているような怪力持ちにはあまり効果は無いが。
「女性に向かってそんな汚い言葉を使う物ではありませんよ。底が知れてしまいます。」
するりと抜けた後、振り返り指パッチンをする。
男達は音と共に鶴羽衣が更に絡み取られ、三人一箇所に背中合わせで縛り上げられた。
「くそっ!お前、嘘ついたな!!」
ポーアが着ているスカートなどに掛かった砂埃を払ってペラペラ喋っていた男Cが怒鳴り散らす。
「そんなに怒鳴らなくても聞こえています。別にわたくしウソは付いておりません。何をしてもいいと……ですがわたくしは、こう解釈してるのです。
何をしてもいいという事は、何をされても文句は言えない―――と。」
「んなっ?!無茶苦茶だ!」
「何と言おうともはや、負け犬の遠吠えです。わたくしに手を出したのが運の尽きです。あなた方はこのまま警備隊に突き出して終わりです。覚悟して下さい♪」
優しく微笑み掛けるポーアに男達は身震いする。先程向けられた笑顔が今では悪魔の笑顔のように見えてしまっている。
「この野郎!!」
背後から声がした。振り返るとゴブリンの棍棒のように粗悪品を持った男が振り上げていた。
(まだいらしたのですね……)
呆れつつ三人と同様に縛ろうとした時、冷たい冷気が足元に漂う。
「なっ…………」
男が振り上げたまま、動かなくなった。
男の周りを氷の柱が囲んだかと思うとそのまま男は氷に閉じ込められ氷の氷像となってその場に取り残されていた。
「この魔法は………」
何が起こったか一部始終を見ても分かっていない頭ではあるが、魔力残滓には心当たりがある。これは、紛れもないペルメスの双璧と呼ばれていた片割れである『冰魔の狼』の魔法の跡である。だが、その通りには誰もにいない。
気配もなければ、魔力反応もない。
「一体………誰が……」
不気味な空気が漂う中、ポーアはその場に取り残されているのであった。




