取り引き
しばらく空きましたが、更新します。
「こんな所に呼び出して今さらなんのマネ?」
右手に持つ黒い羽根を地面に叩き付ける。それは、カラス人にだけ感じ取れる特殊な魔力が編まれた羽根。そこに記された暗号は、読み取ればすぐに自動的に解読される。その特殊訓練を幼い頃から受けて来たため一定期間外れていても、"クセ"として残ってしまっている。
羽根は一度感じ取ってしまうと自然消滅し、証拠は一切残らない。
昔からの"クセ"で武器は持っている。
いざとなれば、それで戦うのみ。
「相変わらず生意気な喋りだな。礼儀も知らないようだな落ちこぼれ。わざわざ来てやった俺に感謝するべきだ!ふへへへっ!」
「……ガーティア、私を連れ戻しに来たわけ?」
「おいおいそんな面倒な事をするわけねぇだろ。
―――今回はお前と『取り引き』に来ただ〜け!」
建物の影からヌルっと現れた男。フードを脱ぐと、長髪の灰色の髪が現れる。ツリ目の目に銀の瞳が印象的な青年。飄々とした態度は人物の特徴を感じさせない。
「……あんた、一体何が目的なの?」
「せっかくの兄妹の再会なんだ!仲良くしようぜ?ネ〜ア♪」
笑いながらも、決して笑っていない笑顔。優しげな笑顔に隠れた本性を知っているため昔からこの男は苦手である。
過呼吸になる呼吸を整えて、心を奮い立たせる。
「わ、私はあんたなんか………兄妹と認めない!」
「別にお前の了承なんて無くたっていい、だが取り引きには応じてもらわなくっちゃな!」
膝が勝手に曲がり、よつん這いとなってしまう。「ああ悪い悪い」と言いケラケラと笑う。冷たい汗が頬から垂れ落ちていった。いつの間にか目の前へとやって来て囁く。
「あの男の"情報"を出せ。代わりにお前に任務をやろう。」
あの男、というのはおそらくネスクの事だろう。
それ以外にはありえない。一体いつから見ていたのだろうか。
「………誰の……こと……を…………っ!」
服の胸倉を持ち上げられ呼吸が出来ない。
「何とぼけてんだ!ちゃ~んと見てたぜ?お前らが仲良くいる事を、な?」
壁に背中を叩きつけられる形で開放された。
「ゴホッゴホッ、ゴホッ………」
痛みと急な開放で咳が止まらない。
「あの黒髪黒目の野郎だよ!ありゃいい魔力だ。抑えてはいるが、俺の勘じゃ、ガッドウルフくらいは余裕だろうな!」
ガッドウルフとは群れで狩りをする習性を持つ魔物。狼型の魔物には珍しく雷の能力を秘めている。
鋭いかぎ爪と素早い動きで撹乱させて獲物を刈り取る危険な魔物。分類でいうと、一匹だけではAランクだが、群れとなるとSランクに分類される。
「あんたが思ってる程……強くない……わ」
この男は、カラス人ではあるがとても狡猾で好戦的である。強いと分かれば、周り全てを巻き込んで自分の強さを知らしめようとしてくる。
「お前が庇い立てするのか。なら余計に興味が出てきたぜ。面白そうだなお前のオ・モ・チャ」
ニヤリと笑うその獰猛な笑顔は完全に獲物として捉えたことを意味する。こうなってはどうする事も出来ない。
「早く情報を出せよ!お前にとっちゃ悪い話じゃねえだろ?もう一度チャンスを与えてやるんだからな!」
この男の話が本当であれば、もう一度里に戻る事の出来るチャンスをくれる。その依頼を達成出来れば……
「……時間を頂戴……あんたに渡せるほど……情報がないの。」
鷹のように鋭い目つきで見下される。思わず身体が震えてしまう。やっとの思いで壁に背を預けながら立ち上がる。
「……いいだろう、明日の昼までだ!場所は……そうだなここから西へ行った町外れの森だ。くれぐれも遅れるんじゃねえぞ!
あとあいつにチクったり、逃げた場合は………分かるだろう?」
「あんた……断っても殺すつもりでしょ」
「せいか〜い♪ま、せいぜい短期は起こさないことをすすめてやる。感謝しろ!」
男はそう言うと、再び影の中へと消えていこうとする。それは、カラス人が使う『影渡り』と呼ばれる技法でかなり熟練した者でなければ、発動すら出来ない物である。
『俺は常に見ている夢々忘れない事だ。くひひひっ!』
気味の悪い笑いだけを残してその男はいなくなっていた。あの男は、異母兄弟の一番上にあたる兄。
性格はあの父とは全く似通ってはいないが、思考そのものは父その物である。逆らえば、消される。
(何が……取り引きよ。こんなの……)
どこから見ているか分からないその目で恐怖のあまり身体が小刻みに震え止まらない。
* * * * * * *
風が撫でる。びしょびしょになった身体が冷えてきた。未だにあの底知れない恐怖が纏わり付き震えが止まない。
「何しに来たの。あんたと話す事なんてないわよ」
強い風が吹いた後背後に気配がした。
時計塔の巨大な鐘を挟む形でネアはネスクとルリと向かい合う。脳裏にガーティアの顔が浮かぶ。
ネスクの情報を明日の昼に渡せば帰るための手段が手に入る。だが、その情報を渡してルリ達に被害が及ぶ可能性がある。
「お前に無くても俺にはある。ネア」
「放っておいてよ!」
いつにも増して魔力が荒ぶる。黒い影のような魔力。ねっとりとしていて、粘り気のあるその魔力は本来のネアの魔力である。
「………何があったんだ。お前らしくないぞ」
「はあ?いつもの私に決まってるでしょ?どこをどう見ても私」
「………いつものネア……なら……私達に、そんな魔力は向けない」
表情の変化が無いルリが珍しく長い言葉を紡ぐ。ネアがいつも魔力を向けるのは『魔物』や『敵』である。決して、今までにルリや他の四人には魔力を向けた事は無い。それどころか、いつもは魔力を抑えているくらい気を遣っている。
ルリのその声にはネアを心配する思いが込められている。それが分かっているからこそネアは困惑する。
「………悲しいオーラ……ネア、抱え込まないで……私、達……はその気持ちが分かる、から……」
「あんたなんかに……あんたたちに私のこの気持ちが分かるはずないでしょ!ルリ!」
『ルリ』と言う言葉に反応してネアの魔力がルリへと向かう。それを咄嗟にネスクが反応する。
魔力を込めて拳で影のように地面を滑るネアの魔力に叩きつける。魔力には魔力をぶつける事で中和され消滅する。狙いとタイミングはリズムに合わせるようにネアの魔力へと叩き付ける。
「なっ!?」
驚きと衝撃が同時に起きた。
ネスクは確かに叩き付けた。だが、それはただの地面。
一つだった影のような魔力は二手に分裂し一つはネスクの身体を拘束し、もう一つはルリへと向かう。
ぐるぐるとルリを縄のように縛り付けるとその場で二人共動けなくなる。
「あんたみたいに国で宝のように大事にされ"全て"を持っていた奴なんかに、何も持ってなかった私の気持ちなんか分かってたまるものですか!」
更に増した魔力で立っていた体を地面に組み伏せられる。徐々に力が抜けて行く。それはまるでクロが使っていた魔法を彷彿とさせる物であった。




