暗雲が昇る
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「ポーア、頼んでもいいか?」
「分かりました。では……」
小瓶に入った血を一滴。地面に描かれた魔法陣に落ちた。血が地面に反応して淡く光り出す。
魔法陣が起動した証拠だ。
「【ЩЖЙ(エキザカム)】」
魔法名称を唱えると、以前のように植物が周りの景色を覆い隠すように出現する。
「おお………」
まだ眠気を伴っていたルリの目がたちまちに冴えた。目がキラキラしている。その表情は、初めてこの魔法を目撃した時の自分と同じだ。
「いきなりあの場に出るわけにも行きませんので、到着地は少し離れた位置にしています」
「さすがポーアじゃ。その辺は抜かりないのう。」
「ありがとうございます」
元王族らしく、キレイにお辞儀をするポーア。あの場とは、焼かれた村の事である。確かにいきなり現れれば、驚きのあまり失神するものもいるだろう。
何しろ一般人なのだから。そんなほいほい魔法が使えるわけでは無い。
あれから一夜開けた。まだ太陽が姿を見せていない時間帯である。クーシェ達や助けた村人達にずっと心配掛けるのもダメなので朝食の果物を腹に入れると直ぐにあの場を立った。
伸びた植物が段々収まって行く。
そして最終的には、何もそこには無かったかのように綺麗サッパリと消滅した。
この場所は、ゴブリン討伐に出発した場所である。見覚えのある一角が小さく見える。あの焼かれた村だ。
「無事何事も無く戻れたようじゃな。」
ミレドも辺りを見渡して確認しているようだ。見る限りは、前日とさして変わった場所は無い。
「はい皆様お疲れさまです。」
「ポーアもな。昨日からお疲れ。」
「ポーア様………お疲れ」
「お疲れじゃポーア」
お互いに無事をたたえ合いながらゆっくりした足取りで歩き出す。一日経ったとはいえ、野宿をしたのだ。それなりに気も休まらなかった。
ミレドとポーアが数時間おきに交代しながら警戒を行った。二人の疲労を考えるとすぐにでも家へ帰りたい所である。
「皆様の方は大丈夫でしょうか?もし生き残りがそちらへ向かっていれば………」
「大丈夫じゃろ。確認した限りでは残党の反応も見当たらなったからのう。その辺はネスの能力を信頼して良い。」
「それ褒めてるのか?」
「充分褒めておるぞ?」
全然褒められているようには聞こえない。
制御が甘いと自分でも感じている。もっと精密な制御をしていれば、あんな風に殺風景になる必要は無かった筈だ。
「ミレド様………私は?」
「おお、ルリもじゃ!良くやったぞ!」
「んむ………」
歩きながらミレドがルリの頭を撫でる。撫でられて気持ちよさそうな表情をして、顔がとろけている。
近付くに連れて村の様子が視認出来るようになって来た。
「………おかしいですね。なぜ、あんなに人が沢山……」
「ああ、何かあったのか?」
まだ日も上っていないというのに、焼かれた村の広場辺りに位置する部分に恐らく、助けた村人が群がっているのが見える。
大分距離があるためわからないが、群がる村人の背丈より高い位置に布状の外套のような物が見える。恐らくあれは、クーシェ達に渡していたテントだろう。
一晩経ったのだ。それがあるのは自然なのだが、何故村人達が外に出ているのかが気になる。
「うむ?妙な気配がするのう。………魔物の類では、なさそうじゃが、この魔力。明らかに人の桁を軽々と通り越しておる。」
「………急ごう」
嫌な感じがする。自然と早足になる。
殺気の類は感じられないが、空気がどこか湿った感じ、嵐の前に吹く湿った風によく似ている。
* * * * * *
「先程の言葉…………取り消して下さい!」
ピンと張り詰めた声でクーシェははっきりと言う。
怒りに任せた言葉ではなく、至って冷静に。けれど、決して優しくない声音でそう言った。
「何をだねキミ?
私は本当の事を言ったまでさ、『汚れた血』。キミたちにピッタリだろう。」
「くふっ。卑しい混血に、一族諸とも負け犬。くふっ、くふふ。ゴア男爵流石ですぞ。確かにキミたちの証言など聞くだけで時間のムダですな。
さぁ帰りましょうグリューム伯爵様。」
騎士団を引き連れたその二人組。片方は、背丈が低く、もう片方は変な笑い方をするその人物たちはその後ろに控えた男性に声を掛けた。
「………そうだな」
中世のヨーロッパ風の衣装に身を包んだその人物達は、この国の貴族である。言動からもそうだが、この辺一帯を取り仕切る地主とそれに付き従う貴族達。
日が登らない早朝にやって来て、状況を説明するも全く取り合ってくれない。むしろ、"嘘言"として右から左へ流した後さっさと自分の住居である屋敷に戻ろうとする。
「恐れながら申し上げます。
この村の者達に寛大な処置をお願いし立て奉ります。
この者たちは衣食住を皆失ってます。このまま放置すればこの物達は、家族全員が路頭に迷ってしまいます。最低限の物資で良いので補給をして頂けないでしょうか?」
「ふんっ。どうせ今年の税を除いてくれという嘘言なのだろう。そんな嘘言なんぞ、聞く耳持つだけムダ。
私はね、忙しいのだよ。陛下に魔物の大量出現について報告しないと行けないのでね。」
カレンの提案を鼻に掛けたあと、(三人の貴族の中で)一番背の低いゴア男爵と呼ばれるその人物は見下すような視線をカレンに浴びせてそう言い放った。
「私は『騎士』です。この剣に誓って嘘偽りはございません。」
「くふっ、女の騎士なんぞ認められるわけないのだ。所詮は男に尽くすだけしか能のないのだ。おままごとは別の所でして貰おう。そうだな、孤児院なんぞどうだ?
くふっ。くふふふっ。」
次に口を開いたのは変な笑い方をする貴族である。どこか馬鹿にしたような笑い方をするその人物は終始笑っている。
「……ゴア男爵、ダルニル男爵。もう行くぞ、まだ他の村がまだ残っている」
「「御意」」
「あの、でしたらその村までここの人達を送っては………」
「ええい、くどい!」
「クーシェ様!」
『くれませんか?』と言う最後の言葉に被せるようにゴア男爵が馬用に使うムチを使ってクーシェ目がけて振るって来た。咄嗟にカレンがクーシェの前に庇うように飛び出た。




