夢幻の中で
久しぶりに更新します。
「……………?」
(…どこ……だ………俺は確か………)
黒く染まった雲の上で雷が光っている。
荒れた大地には、自分以外の人影はいない。
記憶通りであればゴブリンを殲滅させるところだ。だが、周りを見渡しても、ゴブリンの痕跡は一つも無い。
それどころか、ゴブリンと戦っていた平原とは全く違う風景をしている。近くに廃墟と化した家がある。
レンガで組まれたその家の屋根は崩れ落ちてしまっている。
『ふふふふっ………』
今、誰かが笑った。
声からして女の子だろう。だけど、やはり自分だけしかいない。
ピチャリと足元に液体状の何かが広がる。
真っ赤な液体、―――血だ。
手に異物が付着する気持ち悪い感覚がする。両手をふとみると、両手にもヌルヌルとした真新しい血がべっとりと付着している。
血自体は狩りで見られているため嫌悪感は以前より薄れたが、何故付いたのか。何時付いたのかの心当たりが全く無い。
ゾクゾクと背後が寒くなった。
「あ………ああ………………ああ…あ………」
後ろに振り返った先の声に血の気が引いて、よくわからない声が喉から飛び出た。
―――山だ。
真っ赤に染まった山があった。いや、ただの山ではない。"死体の山"である。
夢なのか、現実なのかは分からない。
だが夢にしては現実的過ぎる光景。悪夢のような光景が広がる。
『ふふふふっ、やっと………触れられた』
耳元で聞き覚えのある声が聞こえた。
後ろからひんやりとした小さな手が両目を覆い隠す。
「…………ソ、……フィ…………?」
脳内にある少女の声と比較すれば違い過ぎるが間違う筈も無くソフィアの声、その物だ。
背筋を撫でるかのように冷たい声で背筋がゾクゾクと震える。
『ふふふっ!半分正解。
また会いましょう。じゃあね」
耳元でそう囁かれ、その手が引っ込んだかと思えば、首筋に痛みが走り意識が沈んでいく。
沈んでいく意識の中、最後に見た少女の姿がその回答を物語っていた。
返り血を頬に付けた見た事のある少女の姿。
だが、違う部分がある。―――目が紫色の光彩で妖しく輝いていた。
* * * * * *
「陛下、メルヴィが先程、『器』の反応を確認いたしました。あの雑兵軍でもお役に立ちました。」
「……そうか、では我らも再び動くとしよう。
キーギス、皆に"準備"をするよう伝えよ。
ハエ共もいずれ攻めてくる。
その前に我が力――――『器』を手に入れよう」
「畏まりました。魔王・デーゴンの子にして我らが王。
―――ペルタゴ様の導きに深い忠誠を……」
「よい、期待しているぞ。キーギス」
「はっ。必ずや!」
角を生やしたその人物は足早に退出していった。
「ようやく見つけたぞ、私の妃。ふふふ、ふふふふふ………!」
暗闇の中、玉座に腰掛けるその人物の魔力が溢れ出る。花瓶に生けられた花が腐食していく。
珍しくご機嫌なその人物の名は初代魔王の子にして、彼の力を受け継いだ次代の魔王。
* * * * *
………す………ス……………ネス!しっかりせんか!
意識が戻って来た所で鋭い痛みと共に覚醒した。
「………ここは………」
「おお良かったのじゃ!意識が戻ったようじゃな。
痛む箇所はないか?」
赤く染まった空に妙に近い白く輝く髪。
金色の瞳の少女の顔が見える。
「ちょっと怠い………」
「……それは仕方なかろう。おぬし、今魔力がすっからかんなのじゃから」
呆れたように言うミレドに言われ理解した。
全く魔法を発動出来る感触が無い。久しく感じていなかった魔法を使えないのが、当たり前だった向こうと同じ感覚を今感じている。
「そうだ、ルリは?」
「無事じゃよ、じゃが、………魔力欠乏の一歩手前まで来ておる。ほれ、隣で寝ておるじゃろ?」
ミレドにいわれて横を向くと、ルリが眠っている。小さな寝息。安らかな表情をしているが、顔色が白い。
「……悪い………無茶させた……」
「それについては、色々責めたい所じゃが今は回復に差し支えては困るからこれだけにしておこう。」
ミレドが額に指を突き出して軽くデコピンをした。
「それで、状況はどうなった?」
「おぬしのう…………まあ良い。敵のゴブリンは、おぬしの広範囲攻撃によって、全て跡形もなく消滅した。連れ去られた者達は皆、ルリのおかげで救助出来た。
おぬしのおかげじゃ。よくやった。」
ミレドが優しく頭を撫でる。まるで母親に撫でられているかのようだ。
「ミレド様」
「おおポーア!どうじゃ?まだ使えそうか?」
「かなり使用しましたので、明日の朝になってしまうかと思われます。」
「そうか、では一晩ここで野宿か。」
「………ポーア。無事で良かった。」
やって来たポーアの姿は神器を展開した姿をしている。淡く光る緑の魔力が幻想的である。
いつもの緑も良いが、深緑の髪も似合っている。
彼女には傷と思われる箇所は一切見当たらない。
「痛い所はありますか?お目覚めになられて良かったです。」
「痛みは……ないな。両手も全然…」
「しかし、無事に代償もなく元に戻れて良かったのう。また、鱗の箇所が増えてるのではと、心配したぞ。」
「えっ?」
驚いて首だけ持ち上げ確認する。
確かに、両手は代償の影響を受けているようだが、それ以外ではどこも変化をしていない。どういう事だろうか。
「恐らくじゃが、『両手』が代償なのじゃろう。既に払われた代償じゃから、おぬしが再び『獣』になっても、どこも奪われておらぬのじゃろう。」
「ネス様は休んでいて下さい!火起こしなどはミレド様とわたくしでしますので。」
「ポーアおぬし何時から『ネス』にしたんじゃ?」
「ふふふ、内緒です!ネス様に聞いてください♪」
ポーアと二人で話す時は『ネス』と呼ばれている。ミレドは知らなかったようだ。
最近は、ポーアが以前より積極的になった。そんな気がする。
二人が仲良く野宿の支度をする中、ふとあの夢について考える。あの夢にいた少女は確かに『ソフィア』。だが、冷たく微笑むあの表情を見ると、まるで別人のように考えてしまう。
姿も顔も同じだが、ちらりと見えたその雰囲気は、全く別としか言えないような雰囲気であった。




