ゴブリン殲滅戦 終幕
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以前と違いまだ意識も感覚もある。
不思議な感覚だ。
二足歩行ではなく、四足歩行の状態であるのに、人間の姿で四つん這いをする時と比べ、とても自然体だ。
地面を蹴る。
『グギッ!』『ガッ!』『グギギャ!!』
少し前足を振れば、ホブゴブリンの首が折れて絶命した。魔法を発動させる容量で指向性を持たせて雷を撃てばホブゴブリンは雷によって跡形もなく吹き飛ばされる。
また別のゴブリンが突進してきたため頭を振れば巨大な角に腹部を貫かれる。
そして頭をそのまま降ると、
貫いたホブゴブリンが角から離れ飛んでいった。
ホブゴブリンにオーク、そしてシャーマンゴブリン。
数に物をいわせた事もあり、それまでかなり苦戦を強いられたのが、まるで相手にならない。
『キギッ!!』『グギ!』
二方向からホブゴブリンが攻撃を繰り出す。
しっかりとした狙い、どうやら目眩ましも完全に回復したようだ。
一匹が棍棒を。そして、もう一匹は槍を持つ。棘のような出っ張りを付け、威力を高めた棍棒である。
ただの人であれば、打ち所によっては危なかっただろう。
『グギ!?』『!』
硬い鱗に棍棒と槍弾かれた。一撃が加えられた瞬間、
その一瞬の接触で電流が発する。電流はそのまま二匹を黒焦げにする。
自分は無傷。
全方位から一斉にオーク、ホブゴブリンが襲い掛かる。襲い掛かる敵に怯むことなく、ぽつりと声ではない声が響いた。
『【落雷】』
ネスクを中心に直径100メートル地点全域に放電。空から雷が落ちたような大きな轟音が響く。
白い電流がパチパチと空気に流れ込んだ後収束した。
『ギ!???』
シャーマンゴブリン一匹にオークが一匹。
それだけを残してシャーマンゴブリン一匹とオーク一匹だけを残して、上位種のホブゴブリンとオーク達は全滅した。正確に言えばまだ只のゴブリンが多数残っているが、期待出来る程の強さは持ち合わせていない。
人の姿であった際に使用した時は、人に使っても全身を黒焦げにする程の威力が無かった筈のこの魔法が今は、オークもホブゴブリンも灰にしてしまうくらいの高電圧、高威力の魔法に変化している。
『後ハ…………オ前等ダ………』
低い声で淡々と告げるネスク。黒い眼には"敵"であるオークとシャーマンの姿が写る。
全身に真っ白な鱗。四足の先は蹄ではなく、鋭い爪がある。まるで猛獣の持つ鋭く尖った爪だ。
だが、頭には鹿の立派な角が生える。
肉食と草食の獣を足して2で割ったような見た目のその姿は紛れもない龍化したミレドと激戦を繰り広げたその姿である。
ゴブリン達を仕留める毎に意識が蝕まれる。
はっきりとしていた意識が赤く塗り潰れる。
……………ネス――――聞こえる?
赤い視界がその声が届いた事で少し鎮静化した。
周りには聞こえないくらいささやかな声だが意識がある分聞き取る事は出来る。
風の魔法を使って声を届けているのだろう。
『………ソノ声ハ…………ルリカ………』
…………うん、………全員救助……した
『ワカッ……タ………ソコカラ離レテロ」
………うん、………………後で…聞かせてね
それ以降ルリの声が届く事は無かった。
(後で、か。こっちも、お礼言わないとな。)
本能に忠実な獣のような衝動がルリのその声を聞けた事で明確な"意志"として発現する。
――――――― ルリ、ミレド、ポーアを守る
その意志が歯車が噛み合うように自然と体が動く。角から地面に魔力の糸を伸ばす。
地面から魔力糸を通じて魔力が流れ込んでくる。
『ギギッ!』
最後に残ったオークがシャーマンゴブリンの命令を受けてネスクへと飛び掛かる。がっしりと掴んで固めたオーク。そこに炎の槍がオークごとネスクを貫通した。
自らの味方を犠牲にしてでも殺そうとするその卑劣な行いに黒い何かがこみ上げる。
〈生命活動の危険を確認しました。これより強制的に『禁書庫』を発動します〉
勝手に禁書庫が発動するアナウンスが頭の中に響く。
(いつもありがとう【禁書庫】
……だが、今回は引けねぇんだ!!)
【禁書庫】の自動モードが発動しようとしている所を無理矢理操縦を自らへと主動に切り替えた。
『コレデ……………滅べ!!!!』
ネスクを中心に上へ上へと雷が伸びていく。
魔力によって何重に束ねられた電気が上空で分散した。まるで雷によって生み出された巨大な"樹"が枝を伸ばす。樹から降り注ぐ電気の雨が一瞬で残留していたゴブリン達を全て焼いて行くのであった。
* * * * *
「はぁ はぁ はぁ はぁ」
空を浮いているとはいえ、何十人もの人を連れていれば自然とそちらに魔力が奪われる。
「うっ………」
元々少ない魔力に加え、彼女達の姿を見れば思い出してしまう。
ゴブリンによって乱れた衣服。ボロボロになるまでいたぶられた体。その光景を直視すれば半年前の記憶が芋づる式に思い出される。
堪らなくなり吐きそうになるが、それでも高度を維持したまま緩めない。なぜなら、彼に頼まれたからだ。
今頃、彼もゴブリンと戦っている筈だ。
『―――がんばって!あともう少し!』
「………ん」
自分以外視認できない存在に励まされ弓の弦をポロンと弾く。武器である筈の弓を移動手段に使うのは本末転倒といっても過言ではないが、彼ことネスクからはなるべく戦闘を避けるようにいわれている。
強風に背中を押されて救助した者達とともに動く。
下を見れば、まだ百以上も生き残っているゴブリンがぞろぞろと動いているが、先程のように石を投げての妨害はしてこない。どちらかというと、恐れて逃げ惑っているといった様子である。
「ネス………」
振り返って見れば、巨大な樹に見立てた形を形成した電気が空にその枝を伸ばしてきている。急がなくてはまきぞいになってしまう。
「ルリ!無事か!?」
風を送って進んでいる側から声が聞こえた。
「………ミレド様」
精霊の羽のように透き通った翼膜を広げたミレドがルリの近くまで飛んでやって来ていた。




