ゴブリン殲滅戦 その1
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「うぅ〜、置いて行かれました………」
ネスク達、救援隊が狼煙を上げて出発した頃、カレンは置いて行かれた事にへこんでいるクーシェと対面していた。
焼け落ちた家が連なる片隅でポツリとしゃがんで『の』の字を永遠と書き続ける。涙が薄っすらと溜まり、真っ赤な瞳から今にもこぼれ落ちそうである。
「ほらそこ!ちゃんと列に並びなさい!!」
ネアが声を張る。子供達が助けた村人達を一列に並べる。手持ちの食料を使って何か作るつもりなのだろう。
おそらく襲われて以降は何も腹に入っていない筈だ。
何しろ全員重傷者だったのだから。
治ったとはいえ、体のケアは必要だ。
体の再生は体に負荷を掛ける。それを緩和させるのは、食事による栄養摂取である。
「クーシェ様大丈夫ですか?」
先ほど引き抜いた剣を腰に丁度いい具合に刺し直しながらクーシェへと問い掛ける。獣人の中では稀有な『赤い』毛並みの尻尾が地面へと萎れて垂れ下がる。
「私、いらない子なのでしょうか……。
『獣化』も満足に出来ませんし、ネスク様に置いて行かれました。」
「そんな事はございません。
クーシェ様は、充分皆様から大切にされていらっしゃいます。現に、ここまで導いて下さったのは、
――――『クーシェ様』なのですから。」
クーシェがいなければ、今もまだ道中の上、助けた村人達もその命を落としていただろう。
「あんな大見得切った手前、自らがその救援に加えて頂いけなかったのですから。やはりネスク様は私に……」
「それを言うのでしたら私もです。
ですが、留守を任されましたから。
皆様は、私達に信頼をおいてこの場を任せてくださったのでしょう。さぁ、クーシェ様。顔を上げて下さい。
今も、クーシェ様を必要とされていらっしゃいますよ。」
クーシェがカレンに施され俯いていた顔を上げた先では子供達が火を起こそうと躍起になっているが、一向にうまく行かない様子。
「ネスク様は先の事を見越してクーシェ様を残されたのでしょうね。ネスク様は、クーシェ様に失望などいらっしゃらないでしょう。むしろ、心配していらっしゃる筈です。」
「………なぜそのように思われるのですか?」
「―――彼の目です。」
「目ですか?」
「彼がクーシェ様を見る目はとても優しい物です。失望した者の目は、優しさなど欠片も帯びておりません。
出立される際も優しさを帯びた目をしておりました。決して、クーシェ様に失望などしておりません!」
クーシェは驚いている。
いつもは従順なカレンがここまではっきりとした自分の見解を述べた事は今まで無かったからだ。
「…………そうなのですか。そうですよね!ありがとうございますカレン様。こうしてはいられません!」
カレンの励ましを受けてクーシェが立ち上がった。
小走りで駆けて行くクーシェを目で追った後、自らも与えられた役割を果たそうと立ち上がるのであった。
* * * * *
「………こっち」
ルリの青い瞳がきらきらと輝いている。いつもの透き通る色とは異なり、まるで宝石のように七色の光が宿る。
「うっ。この異臭は……!」
ポーアが異臭に顔を歪める。何かが腐ったような異臭。その状態はすぐに判明する。
前方に何かある。
「ルリは見ぬ方が良かろう……」
「………見えないと、進めない」
ミレドがルリに見せないようにするが、ルリはそれを拒否する。
「………惨い」
その先にあったのは、恐らく家畜であった牛の残骸。
それがまるでゴミのように大量に折り重なっている。言葉にするのも避けたいくらいの惨状である。
村人の言った通り。割かれた腸が飛び出て、まるで自らの縄張りといわんばかりに、その頭が棒の上に掲げられている。見ているだけで吐き気を催す。
「………可愛そうに……」
ぼそっと呟いたミレドの視線の先に、人……とおぼしき遺体も家畜達の中に混ざっている。
数からして五くらい。
正確な数は分からない。何せ、牛の下敷きになっている可能性もある。
「………先を急ごう。さもなくば、救える命も救えぬ!」
悲しみを帯びた声音がミレドからこぼれるが先を進む。握った拳に力が入っている。
「………この先」
「【長距離・探知】」
【長距離・探知】で魔力反応を確認する。数キロ先に無数の反応が見受けられる。
一つ一つが昨日感じ取った魔力の大きさと類似している。
「………当たりだ!」
「作戦はどうされますか?」
「前衛は、妾がしよう。ポーアは後衛から遠距離砲撃じゃ。ネスは………まだ無理か。ならば、ルリと共に遊撃をせい!」
数にして、100匹以上。戦力は、こちらが四人。圧倒的に数で負けている。一撃で全てを葬ろうにも、人質がいるためそれは出来ない。
そうなれば、奇襲をしながらまずは、
――――― 人命を優先した方が良い。
ネスクが魔法の袋からある物を取り出す。
「ルリこれを使え!」
「?」
渡した物にルリが可愛らしく小首を傾げる。
「ネスク様それは?」
「………ルリの弱点をカバー出来る武器だ。あと短剣も。狙う時は首のここを狙え!」
ネスクがルリに短剣を渡した後、首筋の動脈を指差す。ゴブリンの弱点は、首、もしくは血を大量に伴う大動脈か心臓である。さすがにいきなり心臓を狙うのは難しいので、首を狙った方が確実である。
「子どもには酷じゃと思うがのう………。」
「ミレドが言うか?テウメッソをあんだけ相手させておきながら……」
ネスクのジト目を受けてミレドがささっと視線を逸らす。ミレド自身もやり過ぎたと思う気持ちがあるのだ。
「……ありがとう。大切に使う。」
「おう、ルリの腕前ならゴブリンくらい余裕だ!」
ルリがそれを担ぐ。―――それは、『弓』である。
小柄な体型のルリでも扱う事が出来る。大人からすれば、おもちゃの弓矢のように小さい。
最近はよくルリに弓矢の扱い方を伝授している。ルリは元々、魔力量は極端に少ないが器用さはあった。
それは、テウメッソ戦でも見せてもらった。
ルリの頭を一通り撫でると、ゴブリン達がいる方を見据える。先ほどの惨事といい、焼かれた村の人達といい。ゴブリン達は、やり過ぎた。
「さて、行くぞ!ゴブリンに仕置きの時間だ!!」
「うむ!」「はい!」「ん!」
ネスクの掛け声で三人が動く。ゴブリンの殲滅作戦開始である。




