焼かれた村
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――――早朝
早速、昨夜のゴブリンの足取りを探りながら草原を進む。獣の足取りを探るには、広すぎる草原だが、そこはクーシェがいるから大丈夫。
「こっちです!匂いがします!」
クーシェを先頭に進む一行。早朝過ぎて、朝に弱い組(ルリ、マロン、パルメルス)は半分目が閉じた状態で歩く。平坦な道だから良い物の足場が悪い所であったならば危険である。
ポーアを先頭によたよたと三人が服の端をつまんで歩く。まるでペンギンみたいだ。
「人の国にゴブリンが潜り込むなんて有り得るのですか?」
「有り得ん事もない。魔物がどこにでも出現するように、"妖精"も魔物のさして変わらん。」
ふとしたポーアの疑問にミレドが答える。
魔物がどこにでも出現する理由。それは、『スポット』と呼ばれる魔素の溜まり場がどこにでも存在するからだ。
魔素は正と負の性質をあわせ持つ。通常の空気に漂う魔素は、この『正』であり、『負』の魔素は魔法を発動させた時に出"酸素と二酸化炭素"の役割のような物だ。
スポットとはこの負の魔素の溜まった場所である。
魔物はこの『負の魔素』のエネルギーが形を生物に変えて具現化した生物である。
「ネス………大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫………大丈夫。気にすんな」
目が覚めたルリがネスクの心配をする。徹夜明けというのもあるが、顔色があまり優れない。その理由は、やはり昨日のゴブリンの姿がクーシェとダブって見えたことにある。
「気分が優れないようであれば、申して下さい。体調不良は、戦闘にも響きます故」
「カレンさんもありがとう。朝で血の循環が悪いのだろうから。時期に良くなるさ。」
「ネスク殿がそう仰るのでしたら、……ですが無理して体を壊されては皆が悲しみます。これをお飲み下さい。」
カレンが何かを取り出す。緑色の丸い球のような物である。
「これは?」
「ポーア様お手製の『丸薬』です。水無しで飲む事が出来る一品物です。そのまま口の中に放り込んで下さい」
受け取った丸薬を口の中に入れる。
「効果に関しては良好なのですが………味のほどは」
「!!!?」
噛んだ瞬間、言葉に言い表せない苦味が口の中を支配する。急いで魔法の袋から竹筒に入った水を取り出す。
水を飲み干した後もその苦味は健在。味覚がおかしくなりそうだ。
「り……良薬は口に苦いって言うが、これは……。うっ。」
「やはりですか……。今度ポーア様に味についての改良を提案しておきます………」
丸薬一つで今朝食べた朝食をリバースしそうになったが、確かに効果はあるようだ。先ほどより頭がスッキリした上、体が軽くなった気がする。
「カレンさんも、薬の調合とかするのか?」
「いいえ、私は出来ません。
幼い頃より剣一筋でしたので」
「へぇ、ドルイドって皆、薬草の調合とか出来るのかと思ってたが、人間と変わらないんだな。」
ポーアほどでは無いにしろ、多少の薬学は全員が身に付ける物ばかりだと思っていた。実際、ドルイドの街では薬を使った調合をよくしている所を見掛けた。兵士の人達も、傷は自分で即席の塗り薬を生えた草から作っていた。
「ポーア様が特別なのです。おばば様から直接指南を受けられましたから。」
「おばば様?」
おばば様とはおそらく『お婆さん』なのだろうが、誰の事か心当たりは無い。
「先代の秘術の継承者の方です。数年前にお亡くなりになってしまいましたが……。
類い稀な才をお持ちで、通常は王族のみに伝わる秘術をその血族ではない者でありましたが自由自在に操ったと伺っています。おばば様は、ポーア様の良い先生で母親のような方だったと。」
「………俺が聞いて良かったのか?」
「ネスク殿ならば、問題ありません。と言いいましても、私も当時事は又聞きでしか知りませんが……」
話の続きを聞こうとした時、鼻をくすぐる何かが焦げたような匂いが鼻を突く。人間の鼻であるネスクですら臭う。
「ネスク様!!」
先行していたクーシェの呼ぶ声でネスクはカレンと見合わせた後、急ぐ。
だんだんと臭いがキツくなる。
「ネスク様!こっちです!!」
「遅いぞネス!」
焼跡が見渡す限りに広がる。状況は酷い物である。
焼け落ちた家の近くには判別が付かないほど焼かれた遺体が転がる。
「うぅ、…………ううう」
まだ生きている者達がうめき声をあげる。
ポーアが年少組に見せないように蔓羽衣で目を覆い隠す。地獄があるとすれば、正に目の前の光景である。
「カレンは、クーシェを手伝え!ネスは妾の補助じゃ!」
ミレドの指示通りに散開する。クーシェとカレンはまだ生きている者を探したり、家屋に潰されている者の救助。ミレドとネスクは、重傷者の治療にあたる。
「おぬし平和ボケして鈍っておらぬじゃろうな?」
「『呪い』が発動しない程度には毎日やってるさ。それより、そっちもボケてないだろうな?」
「妾を老人扱いするでない!まだピチピチの1000歳じゃ!」
(それはピチピチとは言わねぇよ!)
内心でツッコむも口には出さない。今は、治す事に集中する。
どの者達も、火傷以外に刃物で斬りつけたような傷が見られる。その他にも打撲痕であったり、何かに握り潰されたように片腕が複雑骨折をしている者もいる。
「まずは、除菌して、それから細胞を再生させないとな。」
【再生】を繰り出しても、内へと入り込んだ菌までは排除出来ない。まずは、浄化魔法で清める必要がある。
だが、浄化魔法を使用するとその分時間を取られてしまう。となれば、同時にこなす必要が出てくる。
「あの、何か手伝う事ありますか?」
考え込んでいると、パルメルスが聞いてきた。
「水………水。…………そうか!そうすれば!パルメ手伝ってくれ!!」
「え、あ、は、はい!」
パルメルスの肩を掴んだせいでパルメルスがビクッと体を震わした。
「それからルリ?」
「―――呼んだ?」
「二人の力を貸して欲しい」
「なるほどのう。考えたのうおぬし」
「次連れてきました!!」
パルメルスが巨大な水球を維持する。彼女は力こそ他の年少組より非力ではあるが、魔力操作に関していえば断突だ。
クーシェが運んで救出した者達をその水球へと放り込む。
「ちょっと………キツい」
「補助はする。ルリ全力で頑張ってくれ!」
「ん………頑張る」
ボコボコと水球の中に泡が立つ。ぷかぷかと浮かぶ負傷者達の口の中に入り込んだ泡が肺へと酸素を送る。
完治した者から順番にネスクが魔力糸を使って外へと引っ張り出す。パルメルス、ルリ、ネスクさらにミレドの力を使っての合わせ魔法。
――――魔法式・治癒ポッドとでも名付けようか。
ミレドの傷を癒やす魔力を利用しながら、水球に流れる水にネスクが浄化魔法で菌を取り除く。空気を送り込んで窒息しないようにしながら回復させるこの魔法は、最大五人まで入れる事が可能な大きさである。
「これでおそらく最後です」
二十人を越えた所でカレンが最後の一人を連れてきた。
「後は俺達がやる。二人ともお疲れ休んでてくれ」
「はい」「分かった」
ルリとパルメルスが地面にへたり込む。二人が魔力をせき止めた瞬間水球が弾けて崩れた。ギリギリ持ったという感じであった。
「これはまた、酷い具合じゃのう。」
「……ああ」
大きさからして子供を連れてきた。
「全身火傷、さらに切り傷。その上、折れた矢尻が刺さったままじゃ。このままでは治療は出来ぬぞ。どうするのじゃ?」
「痛いかもしれないが、何とか引っ張り出す。その間、生命維持任せた。」
呼吸するのがやっと、といった感じ。黒く焼けた肌から血液が流れ出て生命危機に瀕している。
「手伝います!ネスク様!」
ポーアがやって来た。年少組を任せていたが、彼女達は、治した者達の方を世話している。
「なら、以前使った感覚麻痺させるヤツ頼んだ!」
「お任せ下さい。では、ネスク様、ミレド様。参ります
!」
二人が頷いた所を確認して、神経を麻痺させる魔法【神経麻痺】を発動させる。
「ネスク殿、こちらをお使い下さい」
「ありがとうございます。」
カレンに手渡された短剣を受け取る。変に汗が出てくる。折れた矢の棒が体から突き出る。短剣で軽く傷口を広げる。そして、気持ち悪い感覚を抑えて、広げた傷口に手を突っ込む。そして、矢尻を抜き出す。
「よくやった!これで………!」
ネスクが矢尻を抜き取ると同時に、聖の魔力を纏ったミレドの魔力を流し込む。
どんどんと、皮膚が再生する。時間が巻き戻るかのように焼かれた皮膚が直っていく。
「ふぅ、疲れたのう。」
「ポーアサンキュー!」
「いえ、大した事ありません。ですが……やはり」
「ああ、このやり口は、ゴブリンどものやり口じゃ。」
助ける事が叶った者達は、全員男性である。(子供を含めて)女性が一人もいない。それはゴブリンどもが攫ったからだ。そして、見た限りでは、家畜も全く残されていない。
焼き払われたか、逃げたか、食料として簒奪していったのであろうことは容易に想像できる。




