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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
3章 勇者召喚編
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夜襲

更新します。


 あれからぽつりぽつりと、クーシェと言葉を交わした。昨日の誤解というか――――勘違いは無事解くことが出来た。それ以降は話していない。

 ネスクが吹く草笛が暗闇の草原に響き渡る。ゆったりと気持ちが安らぐ曲を選曲しているため。自分でやってても心が和む。現在の時刻は、草木も眠る丑三つ時。―――つまり、午前に二時ごろ。


 今の所、何の襲撃にも遭っていない。


 このまま、何事も無ければいいが……。


「ネスク様、気付いていらっしゃいますか?」


 クーシェの耳がちょこちょこ動く。普通にそれだけであれば、可愛い。だがそれは、クーシェの五感(センサー)である。


「まあそう簡単には終わらせてくれないのがお約束だな。」


 静かに【探知(サーチ)】で魔力を探る。暗闇に潜む者達は、ネスク陣営を取り囲むように展開している。統率の取れた動き。獣や獰猛(どうもう)な魔物の類いでは無い。知性を持った行動だ。

 狼のように群れをなす猛獣も考えられるが、それにしては反応が小さい。


「すまんが、ちょっと手伝ってくれ。クーは見えても、俺は夜目が効かん。」


「はい!」


 クーシェの尻尾が嬉しそうにブンブンと音を鳴らして振られる。獣人はよく、感情が尻尾や耳に表れて分かりやすい。


「【浄光(パージング)】」


 光魔法である【浄光(パージング)】を発動させ、光代わりにする。この魔法は、光球を生み出すだけの魔法。

このままでは、手元が照らされるだけである。


「ここに何でも良いから。火の魔法を頼む!」

「分かりました。では、【火花(リトルフラワー)】!!」


 小さな小さな炎の花が光球と混(・)ざ(・)る(・)。球に吸い込まれ―――ボンッ!と膨張を始める。ネスクは球を空へと高く投げる。

 ネスクが生み出した【浄光《パージング》】の光球は、特殊な球である。属性が『光』ではあるが、同種の魔法が加わると……球が弾けるのだ。


 一つの光球からいくつもの光球が生まれて散り散りに拡散する。


「綺麗ですね!」 

「イメージは『花火』だったが、うまく作用して良かった。さて、敵さんは―――と、」


 取り囲んだ敵の姿が光に当てられて顕になる。


「子鬼(ゴブリン)ですね。」


 緑の特徴的な肌に小柄な体型。よくRPGのゲームなどに登場する典型的な魔物である。 


『グギゴガガッ!』


 何か喋っているが、なにぶんゴブリン語は知らない。  棍棒を装備した醜悪な姿をした子供くらいの背丈。人型をした魔物である。


「皆を起こすのも悪いからさっさと片付けるぞ!!」

「はい!!」


 手元に置いていた斧を手に取り、走り出す。ゴブリン達は、【浄光《パージング》】の光に気を取られていて隙だらけ。


 斧を両手で持って自分の魔力で斧の柄に膜を生み出す。そして、そのまま首へと斧を振る。


「まず、一匹!」


 ゴブリンの血は世界で一番落ちにくいというため、あまりに返り血は浴びたくは無いが、あちらがやる気で取り囲んでいるのだから仕方が無い。

 ざっと数えて20匹。ゴブリンは繁殖力が強いため、もっといても可笑しくない。20匹いや残り19匹くらい。

―――ならば対処する事など造作もない。


「【蒼炎の円刃《サークル・キアノ・フレイム》】」


 蒼炎を円盤のように伸ばし回転させる事で切れ味を高めた炎を両手でクーシェが二つ投げる。近くにいたゴブリンも少し離れたゴブリンも5匹の首が綺麗に飛ぶ。

 ゴブリンは生命力も凄まじいが首をはねられば絶命する。生物である以上、首は弱点なのだ。


『グギゴッ!!』


 一匹のゴブリンの命令らしい叫び声で7匹のゴブリンが一斉にクーシェへと殺到する。口から垂らすヨダレ。悪臭を放つ緑の生物がクーシェを取り囲む形で襲い掛かる。


「クー!」


 ゴブリンのその行動にネスクが慌てた様子で駆け寄ろうとするが、妙に統率の取れた動きで阻まれる。


「大丈夫です!はぁ!!」


 クーシェの体から熱気と共に炎が溢れ出す。一瞬で炭にされた後、塵になるゴブリンもいれば、吹き飛ばされた事で難を逃れるゴブリンもいるが、炎にこんがりと焼かれ苦しみもがいている。


 炎を操ることに長けた『灼熱の狼(カプシモ・ウルフ)』。出会った当初は、熟練度の未熟さから魔法を介しての炎のみであったが、最近は上達したこともあり短時間であれば魔法を介さずに操れるようだ。


『ギギヴ!』


 残り7匹。―――リーダー?と思われるゴブリンの合図で一斉に撤退を始める。


「あ、待ちなさい!」

「止めとけクー!深追いはするな!」


 深追いはこの場合不利に働く。

 ゴブリンは知性こそ低いがバカではない。ずる賢く悪知恵が働く。元々は、精霊の一種であったようだが、"妖精"へと墜ちた種に分類される。

 妖精―――人を惑わし貶める種。


 見た目こそ精霊の姿をしているが、無垢で残酷な行いをする。魔素を取(・)り(・)過(・)ぎ(・)た(・)精霊が変化した姿。

 取り替え(チェンジリング)と呼ばれる能力を使う羽妖精(ピクシー)。人を困らせてその反応を楽しむ悪戯妖精(ボギー)。子鬼(ゴブリン)や鬼(オーク)もこれに該当する。

  奴らは本能に従順である。知性こそ乏しいが獲物に武器や罠、状況に応じて能力を使うといった芸当を取る。


「ですが……」


 クーシェの言いたい事も分からなくは無い。

 子鬼(ゴブリン)は妖精の中では一番執念深い。

 一匹でも残してしまえば、戦い方を学んだゴブリンはその狡猾さに拍車が掛かる。状況によっては、呪魔法子鬼(シャーマンゴブリン)や子鬼将軍(ゴブリンジェネラル)といったゴブリンへと変化する。種の中で突発的に今までの力を遥かに超える力を持つようになる事を

―――"進化"という。

 歴史を紐解けば、この進化によって『子鬼の王(ゴブリンキング)』と呼ばれるゴブリンに進化したケースもある。そして、そのゴブリン一匹で国が滅びかけるくらいの戦力になってしまう。


 ゴブリンだからといって、侮っては行けない。


  既に残ったゴブリン達の姿は、【浄光(パージング)】の域外へと姿を消していた。


「奴らはおそらく『先駆け』だろうな。数が少な過ぎる。」


 ゴブリンは、『先駆け』と呼ばれる戦法を用いる事が多い。ようは―――偵察である。

 襲う村を数匹のゴブリンが偵察した後、本体が動く。

規模からして大群といっていい程のゴブリンの集落がどこかにあるのだろう。先駆けに20匹も割くくらいなのだから。


「それマズいではないのですか!早く討伐しないと村落に被害が……!」


「あっちは街側だ。街に待機した兵連中がどうにかするだろう。」


 最後に確認された魔力反応が向かう先。

その方角は、王都の方角。


 ぎゅっと握り込むクーシェの拳に力が入る。


「だとしても……!助けに行くべきです!

何かあってからでは遅いのです!!」



「……………」


 流石に今動く事は出来ない。日も上がらない真っ暗闇が続く夜道。街灯も無ければ、光が通らない先は夜目が無い者からすれば奇襲を受ければその先は『死』。【探知(サーチ)】の『応用』を使えば、そんな状況でも対処出来なくはないがそれをすると、しばらく武(・)器(・)を(・)振(・)れ(・)な(・)く(・)な(・)る(・)。


「ネスク様!!」


 一つまた一つと。空に浮かぶ弾けた【浄光(パージング)】の光源が消えていく。暗闇へと戻りつつある中でクーシェの呼ぶ声がネスクの心の中へと浸透していく。


「…………日が出てからだ。これ以上は譲歩出来ない。」


 ネスクはクーシェを背に、焚き火が灯る場所へと戻る。手に持つ斧に付着した血を持っていた布で拭き取る。

 ネスクの鼓動が高まる。心臓がドクドクと口から飛び出したようにうるさく脈打つ。

 戻る途中で殺したゴブリンの死体が転がる。死体から流れ出る赤い血が血溜まりとなって広がっていた。

 その光景が呼び水となって、似た状況に類似した記憶が呼び起こされていた。

―――― 一年前、クーシェを失いかけたあの光景である。

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