一日の終わりは君と共に
更新します。
「なんじゃ!なんじゃ!いつからこの国はそんな法を作ったんじゃ!腹立たしい!!」
大変ご立腹のミレドが大きく踏み鳴らして道を進む。
「仕方ありません。ペルメスとヤグラシアは聖域のおかげもあり、敵対はしていませんが。
それでも良い関係とはいえませんから。」
「ポーアの言うとおりだぞミレド。門前払いをくらうよりかはいいだろう。」
「ネス、疲れた」「私もです。」「私も私も!」
ルリ、パルメ、フルールがネスクにぶら下がる。
流石に三人もとなると重い。
平均して30キロだとすれば、三人で60キロ前後。それに背負った荷物もあるから。さらに重い。
「あなた達、離れなさい!」
意外な事にネアが三人を剥がす。
年少組では年長者らしい事をしているようだ。(一名同じ年長者が混じっているが。)
「は・な・れ・なさい!」
「「「やー!」」」
三人を交代交代に引っ張っているが、意地でも離れない。何というか綱引きをしているみたいだ。
「日も傾きましたし、この辺にしましょう!」
既に日は西の空に沈みかけている。
現在地は、第二の検問所と街のちょうど中間辺り。
第一検問所の行列に時間を費し過ぎた。
街まで戻るにしても、明日また始めからスタートすると時間を取られる。ならば、野宿をした方が時間的に早い。
特に急いでいるわけではないがあまり長居して厄介事に巻き込まれるのは遠慮したい。
整備された道を外れ、近くの平原へと足を運ぶ。平らな平原が続いて見晴らしは良い。
川は見当たらないが、山の上での野宿より快適である。それに、魔物や盗賊などが近づけば一発で分かる場所である。
「この辺りでいいか。」
焚き火をするにはちょうどいい広さ。十一人での焚き火を囲むのは、それなりの広さが必要である。
「うん、この場所いいわね」
ネアは諦めたようだ。引き剥がせなかった三人を抱えて動く。良いトレーニングと考えればそれほどでも無い。
「焚き火は私がしますので、ネスク様は夕食の準備をお願いします!」
クーシェが魔法の袋から薪を出す。火の番はクーシェに任せるのが一番。
「おう。それじゃ、任せた!」
「………はい」
クーシェに目線を合わせようとして逸らされた。
昨日の今日だから。無理ないとはいえ、早めにクーシェとも話した方がいい。今日も他愛ない会話は上手くできていたが、昨日の事もあり気まずい節が多々あった。
「魚は任せるがよい!」
ミレドが以前とった魚の調理をする。魚を空に投げてナイフで斬る。身だけを捌いて骨が丸々綺麗に取れる。
「ミレドつまみ食いするなよ〜」
皆には見えていないが切った傍らからつまみ食いをしている。ずっと冷凍完備をした魔法の袋に入れていたため大丈夫だと思うが、ミレドの事だから食には当たらないだろう。
「してほらんよ……!」
(確信犯だ!)
もぐもぐと口を動かすミレド。つまみ食いはしつつもきちんと捌いているから許そう。魚を切り終わると鍋の準備をして米を洗う。ミレドが魔法を駆使してささっと済ませる。
「さて、寝床は………」
「わたくしがしておきます!」
ポーアが魔法の袋から干した米茸の竹を細く割いて編んだ敷物を取り出して敷く。
その上に植物から取った綿を敷く。後は綺麗な布地を引けば、あ〜ら不思議。
―――モコモコの敷布団の完成である。
夏とはいえ、夜は冷え込むため後は掛け布団代わりに獣の毛皮を着れば寝床で寝れる。その作業をカレンがする。
「それじゃ、風呂を………」
ちょいちょい
下を見るとルリがいた。
「……終わった。」
指差した先にはそれまで何も無かった所に立派な『石積みの露天風呂』が出来ていた。
「………どうやったんだ?」
驚くネスクがルリに聞く。
「………皆で頑張った!」
「あんたが呆けてる間に私達でやったわよ!」
ネアが翼を羽ばたかせてやって来た。
――――二人の話によると。
マロンが土魔法で土台となる穴を掘って、【岩石】という魔法で岩を敷き詰める。そして、魔法の袋から『火』の魔結晶を取り出して、空いた穴へと入れて固定。そこにパルメルスが水魔法を入れて完成である。ちなみに参考は、ネスクが作った『風呂』だそうだ。
「ふふーん!凄いでしょ!あ、ちなみにあんたのはあっち」
100メートルくらい離れた所に立派な露天風呂
――――とは段違いに狭い露天風呂がある。
当然ではあるが、米茸で作った仕切りが何重枚も立て掛けられてある。
「小っさ!あと、多!!」
「当たり前でしょ!前例があるのだから!作っただけでも感謝してよね!」
「うぐっ。あ、ありがとう」
前例を出されると弱い。ネアが得意げに胸を張る。
何だか負けた感が凄まじい。
「そろそろ飯じゃぞ〜!!」
ミレドの声で焚き火の方へと散開していた皆が集まり始める。結局の所、ネスクは何もせずに終わってしまったのであった。
* * * * *
何だかんだありつつ、夕食、入浴、就寝と皆と過ごす楽しい時間が過ぎていった。
焚き火に照らされた自分の影が揺れる。手元には得物代わりの斧がある。ここは、聖域と違い、ここは国内。とはいえ、猛獣の類いが出なくもない。
当然寝ずの番は必要である。
テントのように張った蚊帳代わりの幕の向こうからすやすや眠る声が聴こえる。良く寝ているようだ。
「〜♪〜♪」
ずっと緊迫した状態を継続していれば疲れる。手近にある葉を千切って口に当てる。ピーと甲高い音が鳴る。
草笛である。
草笛で音を奏でると、草原に響き渡るように音が広がって行く。
「……綺麗な音ですね。」
「悪い。起こしたか?」
「いえ、元々寝付けていませんでした。目が冴えていた所に聞こえました。」
クーシェが起き上がって来た。
「これでも着ておけ。風邪ひくぞ。」
「ありがとうございます。」
ポーチから予備の毛皮を取り出してクーシェに渡す。それを羽織ると、ネスクと同じように焚き火に当たる。
「故郷の曲ですか?」
「まあ、そうだが。"前"のだな。」
最近はよく暇さえあれば、草笛を吹いている。楽器の類を授業以外でした事がなかったため最初は酷い音であった。その酷さはルリやペーレ、ネモからは、カエルの死にかけの声だと言われるくらい。
ルリに教えてもらいながら、ようやくまともかつ、人が聞いても大丈夫になった。
「ネスク様って趣味が多様ですよね」
「そうか?必要だからしているだけで、別に趣味ってわけじゃないが……」
実際に、畑をするのも、家や家具を作るのも、道具の作製も今まで"必要だから"しているだけで、専門家の手と比べれば、天と地ほどの差があるだろう。
「まぁ畑を作るのは『趣味』になりつつあるな。実際やってて楽しいしな!」
植物が自分の手で日々成長していく様子を眺めるのは楽しい。新しい発見もあれば、実が実るのは楽しみの一貫でもある。
「何だか"おじいちゃん"のような趣味ですね。ふふっ。」
火に照らされ微笑むクーシェは温かい雰囲気を醸し出す。ただ真っ赤ではなく、朱に似た髪が輝く。
そんなクーシェを見て、ネスクは頬を掻く。それは照れくささなのか、それともクーシェの可愛らしさを見た事からなのかは分からないが心に温かい物を感じる。




