いざ、ヤグラシアへ
更新します。始めは、ソフィアの心の中からスタートです。
私は ソフィア
昔の名は〈ダンダリオン〉
前マスターであるジル様によって、名付けられた仮名である。
なぜ仮名なのか?
それは、私達神器に名を付ける場合は、"意味を持つ名"である必要があり、『名』の意味による効果は女神であるセレネ様にしか不可能なためである。
幼い頃、そして生まれた際の記憶は欠如したまま。
一体自分の身に何があったのか。
その答え合わせは、未だにされていない。思い出す予兆もなければ、覚えのある事もない。まるで、記憶が蓋をされて封じられたのではなく、すっぽりと消去されたかのように思い出さない。
そんな事は些細なこと。別に思い出さなくても良い。
今まで思い出さなくて困ったことは一度も無いのだ。
今はそんな事よりも、もっと重要な事がある。
「………どうやら、一歩前へ踏み出す勇気を持てたようですね。」
今のマスターであるネスクもとい、大朏様の様子が脳内へと映像として送られてくる。
大朏様は、人付き合いが消極的で人を避ける傾向がある。前世の人付き合いは知らないが、彼の成長はこの先『必須』と言ってもいい。
契約した当初は、形こそ主従ではあった物の、『叡智の鍵』を上手く使いこなせていなかった。ドルイド騒動を経て最近はよく使ってくれる。しかし、その過程で思わぬ伏兵と遭遇した。
―――あまりに頼りすぎるため。何でもかんでも考えを"頼る"ようになった。
もちろん、使ってくれるのは嬉しい。
私達は"道具"であり、使われる事に意味がある。だが、依存はしてはいけない。
自分の頭で考え、自分の意思で行動する。それが『人』であり、獣とは異なる部分なのだから。
今回助言をしなかったのは、それあっての事だ。
今、主である彼に求める物は、
―――相手の事を考えて向き合う勇気。
「これで、良い方向へ傾いてくれればありがたいのですが………」
ヒサカキが帰った後の一人きりの空間でそう呟く。
ミレド様の事を考える。最後に伝えた言葉は、その第一歩である。これから人と向き合うためのシミュレーションであり、"リハビリ"でもある。
たとえ、その過程で自分自身が主であるネスクに嫌われるようになったとしても……。
だけど心がざわつく。何故だろう。
モヤモヤした気持ち悪い感覚。そこに棘で刺されているようなチクチクする痛みが走る。
* * * * *
――――翌日。
「それじゃ!行くぞ!!」
「「「「「おー!!!」」」」」
「おー」
いつになく元気なミレドが声を上げる。皆もそれに同調するように声を上げる。その中にはネスクも混じっているが、あまり気乗りはしない。
ネスクの様子など気にせず、ずんずんと皆は歩き出す。それぞれ、ネスクが魔法袋を背負ったり、腰に巻いたりと、リュックやポーチといった形状で作った。
「ネスク様は、人がお使いになる金銭についてはご存知ですか?」
しばらく歩いた頃、皆の後ろをとぼとぼ歩いていると、ポーアが歩調を合わせて話し掛けてきた。
「銅貨に、銀貨、金貨、それから白金貨………だったかな………」
一応、金銭感覚を鍛えるために書庫でその辺の知識は頭にある。
「はい!そこにもう一言加えますと、
――――小銅貨十枚で銅貨。
銅貨十枚で大銅貨、大銅貨十枚で、銀貨。
更に銀貨十枚で大銀貨。更に更に十枚で金貨です!
その後も十枚ずつで、大金貨、白金貨。
―――と、続いていきます。」
つまり、銅貨が一円玉、大銅貨が十円玉。銀貨が百円玉。大銀貨が千円と続く。
白金貨までいくと一枚で百万円になる。
「白金貨になると、もう庶民ではお目にかかれない物になっちまうな。」
白金貨が数枚あるだけで一生働かなくとも人間圏の国であれば遊んで暮らせる。ネスクは、竹筒に入った水を口の中に含む。あちらの世界ほど温度は高くならないこちらの世界だが、それでも動いて運動していれば喉も乾くという物。冷たい水が喉を通っていく。
「これがその『白金貨』です」
「ウゴホッ!?ゴホッ、ゴホッ!」
ネスクが飲んでいた水を吹いてからむせた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「………大丈夫大丈夫。気にすんな。それより、しまっとけ。そんな大金………。」
金である筈なのに黄金に輝かず、白くキラキラ輝く一枚のコイン。それが『白金貨』。そのコインがポーアの手の平に乗ってある。
「失くしたくはありませんが大丈夫です!なぜかお兄様が仕送りで送られてきていました。正直申し上げますと使わない物だと思っていました。ですが、
今回は、ありがたく使わせていただきましょう。」
流石は一国の『元王族』。大金を仕送りで送って来るとは、恐れ入った。
「……金を稼ぐ方法を考えないとな。そんで、きちんと返さないと……。」
人間圏の国に今まで行った事が無いため忘れていたが、人間の国では金銭と物を交換する事が常識。物々交換も無くはないが、それは小さな村間でのやりとりで王都ともなると、取引は金銭で行う。
「別に構わないと思います。おそらくなのですが、この金貨は"前"の報酬なのだと思います。あの内乱に貢献したことはお兄様も知っている筈ですので。」
あの内乱での対価をミレドにクーシェも、そしてネスク自身も貰っていない。
「それにしたって、貰い過ぎだろ!?そんなにあったら、家が買えるぞ」
「そのくらい、お兄様は感謝しているのでしょう。他の皆様だって、わたくしだってあの件は感謝をしています!」
ポーアがネスクの腕を掴む。いつになく積極的なポーア。何かあったのだろうか。
「………ポーア様。そろそろペルメスの国境にある一番近い門です。戯れるのもその辺で………」
「うおっ!?」「!?」
ネスクとポーアは、いつの間にかひょっこりと現れたカレンに驚く。
この人、忍者か何かなのだろうか。
歩き出して約ニ〜三時間くらい。森が開けて大きな壁が道を塞ぐようにそびえ立つ。その出入り口は一つの大きな門によって中と行き来出来る。
門より先は人間の国―――ヤグラシアの領地である。




