ソフィアとヒサカキ
更新します。
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紙が擦れる音。その速度は常人であれば、絶対に内容が頭に入ってこないレベルの速さでページが捲られる。
「お姉様何かありましたか?」
「……何ですか?ヒサ。私はいつも通りです」
「お姉様。読んでいらっしゃる本が"逆"です。」
ヒサカキが覗き込んでソフィアが手に持つを見ていた。本のタイトルが普通の位置の逆。上にある筈のタイトルが下に来ている。
「問題ありません。内容は頭に入りましたから。」
「凄いです!流石お姉様です!!」
ヒサカキが拍手をする。二人のどこか少しズレた会話にツッコミたくなる人もいるだろう。だが、この場にツッコミを入れる者はいない。なぜなら二人が一緒になると、『ボケ』になってしまうからだ。
「お!ポーちゃん頑張ってる〜!ガンバ!」
今のポーアの様子がヒサカキの頭の中に伝わっているのだ。ヒサカキの髪の毛が一本立った。まるで電波を受信したアンテナだ。
「ポーア様は今何をしていらっしゃいますか?」
「さっそく魔法の勉強をしています。お姉様からお借りした"秘術の本"が役に立っています!
ありがとうございます!!」
最近、ヒサカキはよく書庫に訪れる。一度、繋がりを繋いだ影響からか『叡智の鍵』へ出入り出来ようになったのだ。
「お役に立てているようで何よりです。ポーア様は強いお方です。魔力量はともかく、魔法―――秘術への適正は眼を見張る物を持っています。神器との同調も素晴らしい。ヒサ、彼女を大切にしなさい。
性格も歪みなく、まっすぐな方。彼女ほどの逸材は、先代の中では間違いなく、いません。」
これまでに何代も神器の主はその時代に一人は存在している。ソフィアは、その世代を全て把握している。
「分かっています!お姉様。主を守る事も、私達神器の使命の一つです!」
「そんな使命が無くともです。主は、大切、な方なのですから。」
頭の中にネスクの事が過った。ソフィアは、『大切』という言葉に一瞬、詰まった。
「……お姉様、やはりネスと何かありましたか?」
「………なぜ、そのように思われたのでしょうか。」
表情には出していないが頭の中は、いつになく混乱している。
「いつものお姉様ですと、本を読んでいらっしゃる間瞬きは一回だけの所を本日は三回。ページを捲り損ねる回数が五回、お茶が切れていらっしゃるのに手を伸ばそうとした回数が五回、本を逆さまで読んでいらっしゃった物全部。―――まだまだいつもと違う所はありますが、これだけ違いがあれば私でも分かります!」
「……それで理解出来るのはヒサだけです」
えっへん!と胸を張るヒサカキにソフィアは引く。
「え〜!こんな変化。ネスだって気づきますよ!」
「主であっても気づきません!……はぁ、どこであなたはこんな風になってしまったのでしょうか。」
ソフィアはため息と共に頭を抱える。いつもは優秀な妹であるのだが、『お姉様LOVE』が強過ぎるヒサカキは、ソフィアの前ではこうして、ポンコツになってしまうのだ。
「むむ〜!どうしてお姉様には分からないのですか!」
「ヒサは何を言っているのですか。そもそも、同一個体。ではないのですから分からないのは当然です。」
「酷いです!お姉様!!私がこんなにお姉様への『愛』を語っているのに!ううっ、他の妹達がいれば、このお姉様への『愛』を共有出来たのに!ううっ。」
ヒサカキがウソ泣きとすぐに分かるような泣き方をする。
「………ならば、探して下さい。」
「え、誰をですか?まさかエルちゃんじゃ、私あの子苦手なんです!」
エルちゃんとは、神器〈夢〉の管理者であるエルピダの事である。彼女とヒサカキは犬猿の仲。性格的な面で馬が合わないのだ。
「いいえ、不正解です。」
「ほぉ、良かったです。なら、お姉様への『愛』を語るのでしたら、
やはり――神器〈親愛〉のピリちゃんです!」
「ピリアは現在、離れられない状況ですので諦めて下さい。」
神器〈親愛〉を管理するピリアは絶海の海の中にいるため、呼びたくても接近すら出来ない。そもそも、神器自体が一人でに、動くことは出来ない。
「でしたら、誰ですか?」
「……………"神器〈業火〉"」
「―――!スーリルちゃん!見つかったのですか!?」
「一ヶ月ほど前に一度。そして、数日前に一度。ほんの少しの反応でしたが……」
「場所はどこなのですか!全力で!今すぐにでも探しに行ってきます!」
そう叫んでソフィアの話を最後まで聞かずに飛び出して行こうとするヒサカキをソフィアが金の蔓羽衣を掴んで静止する。
「落ち着いて下さい。ヒサが猪突猛進に突っ込んで行っても仕方ないでしょう。」
「だって〜!」
ソフィアが指を鳴らす。
何もない空間からチョコケーキを生み出す。
「場所は、
―――ペルメス王国、王都・ティルナーデのどこかです。」
ヒサカキがチョコケーキを美味しそうに頬張る。最近のヒサカキは特にチョコケーキを好んで食べる。書庫によく来る理由も美味しいケーキを食べることが理由でもある。
「ということは…もぐ、もぐ。急がずとも、もぐもぐ向かう場所ということでふね!」
「食べるか、喋るかどちらかにして下さい。行儀が悪いです。」
「昔、女神様にも言われました。……懐かしいです。」
女神・セレネに色々な事を教えられた。
それは常識から始まり、色々な事だ。もっとも、ソフィア自身は、その『叡智』のせいで殆ど知っている物ばかりであったが、妹達とのかけがえのない『思い出』は今も心の中に残っている。
「………必ず、見つけ出します。」
「ポーちゃんにも協力をお願いします。一人で探すよりも人手は多い方が良いですから!」
「ヒサ……お願いします」
「お姉様も早くネスと仲直りして下さい♪」
「………………努力します。」
「あ!お姉様が珍しく顔をしかめました!カメラ!カメラはどこですか!!!」
書庫に通うようになってから、異世界の知識も多少学んだヒサカキが『カメラ』と叫ぶ。
「そんな物ここにはありませんよ……」
ぼそりと呟くソフィア。ヒサカキの明るい性格は今のソフィアには支えとなっている。彼女が妹で良かったと思う。




