ミレドの過去とこれからの『変化』
早く書き終わったので、久しぶりに二日連続で更新します。
「この際じゃ。腹を割って話そう……ネス」
オレンジジュースを一口含んでから飲み込んだミレドがそう言う。―――女の子?と混浴。年頃の男であれば、願ってもなく、"興奮する"というシチュエーションではあるが今のネスクにそんな邪念など存在しない。
ソフィアによる精神破壊をされた影響で勃つ所も勃たない。聖人の領域にも似た心境の彼には情欲を抱くほどの精神的余裕が一欠片も残っていない。
湯船から出た肩、うなじ、首筋が艶かしく見えるが、それよりもミレドの表情に目がいく。
綺麗な金に輝く瞳が懐かしさを帯びたような遠い所を見つめる。(実際には、片手で器をくるくると弄ばせながら中のオレンジジュースを見ているだけである。)
「おぬしには、これまで話しておらなんだが、昔の友。レイブとジルとは…………半ば、喧嘩別れのような別れをしたんじゃ。」
ぽつりと当時の事をミレドが語る。ネスクはそれをただ黙って聞く。
「当時の妾は――― 二度目の死闘の後、ヘヴラを撃退したことに浮かれておった。
その傲慢さが後の悲劇の引き金となったのじゃと今は思う。……浮かれておった妾は増長したのじゃ。
それはもう、金持ちのボンボン共のように力を誇張し他を見下し振り回った物じゃ。我ながら情けぬ限りじゃよ。のほほほほ……!」
照れ臭そうに笑うミレド。一気に飲み干した後、空になった器にオレンジジュースを注いでネスクの器にも注いだ。
「増長した妾を見捨てず指摘し、怒ってくれたのもレイブとジルじゃ。そんな二人に妾は反発した。
口の言い合いに発展した末、二人とは別れた。後は、……前に語った通りの展開じゃな。」
喧嘩別れしたミレドは、一人で再びヘヴラとの三度の再戦へと繋がるといった流れ。それは、これまでミレドが語ってきたことから、この考えは事実なのだろう。
「結局、妾は二人と誓った"始まりの誓い"も果たせぬまま、無様にも生き残ったんじゃよ。」
「始まりの……誓い?」
「『我らはいついかなる時も、命を賭して我らはその使命を果たす。使命が果たされるその時まで我らは一心同体。共に助け合い、いかなる場合においても我らは『友』である。我らがここに交わした誓いは不滅なり』
こんな感じ。じゃったかのう。」
「二人と……そんな誓いを立ててたのか。」
ミレドの口からそんな話を聞くのは初耳である。
「二人はこの誓いを見事果たした。じゃが、妾は『友』を捨てしもうたんじゃ。それくらいジルとレイブを傷付ける事を言ってしもうた。この世唯一の『龍』といむ者がじゃ。穴があれば入りたいぐらいおぬしが恥ずかしい話じゃな。…………ごくん。」
ミレドが一気にオレンジジュースを飲む。
「おぬしが現れるまで、妾は人と関わるのを避けておった。『龍』の妾が特定の者達と交流をする訳にも行かん。力ある者にはそれ相応のリスクが付き回る物じゃ。近しい者を再び作れたとしても、妾自身も己の『罪』を許せなんだ。じゃが、そろそろ妾も成長せねばならぬ。それはおぬしらの為じゃ。」
「俺達、の、……為?」
「人は誰かと繋がらなければ生きて行けぬ。お互い助け合ってこそ、お互いを補い合って生きて行けるのじゃ。」
ミレドのその言葉にネスクは胸奧にぐっ、と来る物を感じる。それは、過去から学んだ経験である。
例え取り返しようのない後悔から生まれた物であったとしてもかけがえのない経験である。
「妾は、おぬしに無理強いをするつもりは一切ない。おぬしが嫌ならば、よそう。人と向き合う事は『勇気』を少なからず伴う。そういった物を苦手とする者もいるからのう。じゃが、妾はおぬしを―――信じておる。
おぬしにはその勇気を宿しておるとな!」
「ミレド……」
湯に当てられてミレドの白い肌の血色が少しばかり良くなっている。そのせいかミレドの頬がりんごのように赤くなっている。笑い掛けるミレド。その笑顔は、どんな時でも自分の心に『希望』を灯してくれる。
「……時間、掛かるぞ。」
「――――妾の提案なのじゃ。それくらい付き合おう。」
「途中で挫けるかもしれない」
「―――何度でも、おぬしの手を引いてやろう。」
「性格はそう簡単に直らないぞ。」
「―――おぬしの後ろにひねくれておることは、百も承知じゃ。人付き合いに関しては………のう。」
「………自覚はしている。」
ネスクは少しだけ。些細なこと、数百もある距離とすれば小さな一歩かもしれないが、この日。ミレドに諭され、彼女の変化について聞いたネスクは、再び歩み出す。
前世で拗れに拗らせた『人付き合い』をもう一度挑戦する事を決めた。
まだまだ未熟者の自分が"嫌だ"という理由だけでミレドの『変化』をただ全否定するのは、何か違う気がしたからだ。
「ミレド様!いらっしゃいます……………か?」
扉を勢い良く開いて飛び込んで来たクーシェが並んで風呂に入る二人を見て固まった。
「む?クーシェか。どうじゃ?おぬしも一緒に―――」
「し、ししししし失礼しました!!!!!!」
顔を真っ赤にさせて蒸気を頭から上げながらクーシェが再び飛び出していった。
「なんか、盛大に勘違いされた気がする………」
「勘違いすることなんぞあるか?」
鈍感ぶりを発現したミレドがそう呟く。壁にはクーシェが開けたクーシェの形になった大きな穴が開いている。開いた穴で擬似的な『露天風呂』へと様変わりを果たしていた。




