カルトッフェル
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「ん〜!やっぱり炊きたて飯。美味いのう〜!!」
ミレドが炊きたての盛り盛りに盛ったご飯を口の中いっぱいに頬張る。以前は舞茸が嫌いと言っていたのが今では米の美味しさを知ってからその魅力にはまってしまったようである。
「そこまで喜んでくれたなら育てた甲斐があるな。」
作業を終え、去年のように鍋を火にかけて米茸を蒸す。だが去年と違い人数が三人から十一人に増えた事もあり、蒸した鍋が三つに増えた。
今もコトコトと次の鍋を蒸している。
「残り………大丈夫?」
(翻訳すると、)ルリが米茸の残りを気にしている。今日だけでかなり使っているからだ。
「大丈夫だろ。………この量だからな。なくなればまた作ればいいしな。」
取れた米(実の部分)を詰めた袋が皆で囲む机の後ろに大量に積まれている。それは今日収穫をした米である。実に良い豊作であった。
「さて次は何育ててみようか……」
「ならば次は肉はどうじゃ?」
「それ………『育てる』の意味、違うだろ……」
ミレドが言っているのは『養育』、俺が言っているのは『栽培』。育てるの意味だけで言葉の意味が変わるのだから不思議なものだな。
「この時期ですと、グルケー、トマテ、メランザーナ、レテュ、ルシュですかね」
クーシェがそうつぶやく。
「キュウリにトマト、ナス、キャベツにレタスか。ポーア、他には何が出来る?」
昨年の身体と精神が分離して漂った際の(体感にして)五年間の内に詰め込んだ知識はあるが、そういうのは専門家の方が特化している。それに、土壌や作物に関してはポーアの方が詳しい。
ヘヴラによって焼かれた森を復活させたくらいだ。
「そうですね。……カルトッフェルはいかがですか?カルトッフェルなら、不毛な地でも育ちますから。豊かな土壌のここで育ててみるのも面白いかもしれませんよネス様」
「カルトッフェル……じゃがいも、か。面白そうだな。」
じゃがいもといえば、その料理法も様々。
――――蒸す、焼く、炒める、揚げるなどなど。
「カルトッ………フェル。」「カルトッフェルなの…。」
「………カルトッフェル」「カルトッフェルですか……」
「……お魚がいいです。」「カルトッフェル……ですか」
年少組(六人)面々が渋い顔をする。パルメルスだけ好物の魚を口にしている。
ネスクは彼らの表情を見て首を傾げる。彼らの表情からして『奴隷』になった際の記憶とは関係ないのだろう。だけど反応はあまり良くはない。
「私も、カルトッフェルはちょっと……」
「クーも、か。カルトッフェルそんなに"不味い"のか?」
俺自身、じゃがいも単品だけならあまり食べないが、蒸したじゃがいもに塩やバターをかければ美味しくなる。チーズを絡めてケチャップをかければ、まろやかかつ、酸味が加わって美味しい。もちろん、ケチャップなどは作らなければないので、トマトを育てるのは必須になる。
「不味くはないのう。大昔から慕われておる物じゃし。
有事の際も栄養が高いゆえ、戦なんぞでは携帯物として持たせるぐらいじゃ。」
「ですが、その。味はもさもさして、食感が硬く、食べにくいです。」
「『毒』もございます。隊長が入隊時にいわれました。何があってもカルトッフェルは、割って内側のみを食すように、外側は毒素を含んでいると。」
「あ〜、そういうことか………」
カレンとポーアの言葉で納得した。
つまり味。そして、調理法もそのままで食べているということか。『毒』が芽の部分だけある事を知らないようだ。
だから、外側を食べないで内側のみ。
毒ある物を探究する者も少ない。だからその『迷信』が伝染して人から人へと伝わっているようだ。
「ここで育てれば、その『毒』も中和出来るのではと思ったのですが。
………やはり、カルトッフェルは止めましょう。」
「いや、カルトッフェルに決まりだな。
久しぶりにじゃがいもを味わいたい。」
ポーアが驚いた表情をする。
「よいのか?下手すればこれから育てる他の作物も作れのうなるぞ。」
心配したミレドがもう一度確認をとる。
「言っておくがじゃがいも自体には毒はないからな。毒があるのは、芽の部分だ。芽の部分を切り取ってしまえば、普通に食べられる。」
「嘘は………付いてないか。この場で嘘を言っても仕方ないか。」
「俺そんなに信頼されてないのか?まあいい、その事も実証するのも含めて育てよう。それでなんだが、じゃがいもの苗はどうする?
森の中には流石に生えないだろ?」
基本自給自足の聖域では育てる苗も自分達で探す必要がある。だがじゃがいもの花なんてこれまで見た記憶はない。
「お兄様に手紙で連絡してみましょうか?」
「流石にそこまでしてもらうのは悪いだろ。今でさえ、かなり色々して頂いているんだ。」
仕送りに送られてくる調味料であったり、食料や衣類といった物も送られてくる。そのため、ルリ達の服に関しては凄く助かっている。作ろうと思えばミレドが一から作ってくれそうですあるが、………何しろ龍様の服に関する知識は壊滅的である。
ミレドの今の衣装は、白色のドレスに近い物だがそれは昔の人間が着ていた物をそのままらしいのでデザイン性に欠けているのだ。
「………そろそろ、なんだろう?例の件。ならそれ相応に忙しくなるだろうからな……。」
「はい。………ではどうしましょうか。」
「ならば、久方ぶりに人の街に行くか。」
ぽつりと呟いたミレドの一言にネスクがギョッとする。頭を鈍器でぶたれたような錯覚を起こしてしまう。
「人の街がどのようになっておるか。以前から気にはしておったからのう。楽しみじゃ。」
「誰が行くんだよ!」
「全員で行けばよいじゃろう。」
「お前な………」
ネスクの視線がルリ達へと向けられる。人間の手によって『奴隷』に落とされた六人。六人の事もそうだが、クーシェについてもだ。
「ネスク、おぬしの心配も分からんでもない。
じゃが、いつまでもここに留まり続けて人を嫌っておっては前へ進めぬぞ?いずれ、各街に帰らなければならぬのじゃからな。」
ネスクがネアを見る。俯いていて表情は読み取れない。だが机に置いた手が小刻みに震えている気がする。
「……ペルメスじゃ駄目なのか?」
あそこならばまだ人間の街に行くよりかは安全な筈だ。
「その場合じゃと、少々面倒じゃ。あそこは法が種によって異なる。何が良くて何が駄目なのかも異なっておる。それに、ポーアが入れぬじゃろ?ポーアを一人置いて行くつもりか?」
「………ごめんなさい」
ポーアは、『永久追放』を受けている。おそらく【契約】の魔法を使っているのだろう。自分と同じ、【契約】による魔力の残り香を感じられる。
徹底した魔法行使である。
「おぬしが謝るでない。あれは、おぬしのせいではない。―――成るべくして成った。ただそれだけじゃ。」
「……どこの国に行くんだ。」
「ヤグラシアでよかろう。獣人への当たりも"他"より断然良い。彼の国では獣人に対する奴隷制も撤廃されておる。人と交わった者達も多数住んでおるしのう。」
「……分かった。」
「決まりじゃな。」
ミレドのその一言で昼食は終わりを告げた。日程などは決まっていないが近々ということなのだろう。
器に残ったご飯をネスクはかきこむが米の味が分からなかった。それは、何故ミレドが人間の街に行く事を急に提案したのか食べている最中、ずっと考えていたからだ。




