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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
3章 勇者召喚編
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カレンの信念

更新します。今まであまり触れていませんでしたカレンさんの話です。ゆっくり、読んでいってください\(^o^)/


「よっ!一匹!」


 竿を引き上げると手頃なサイズの魚が空を飛ぶ。

それをキャッチしようと手を伸ばすが、伸ばした手は空を切る。


 アホーッ  アホーッ!


 野鳥にバカにされた挙げ句に魚をかっさらわれた。


「ありゃ。まっ、こんなもんか………」

 かなりの時間を費やしても、たった一匹なのだから。野鳥に対して腹も立たない。

 小一時間程、湖の畔(ほとり)で釣りをして、成果はゼロに等しい。鳥に奪われた魚がやっと釣れた一匹だったが、竿に繋がっていた釣り針と餌ごと引き千切られ糸だけが残った。


「ふんっ!」


 数メートル先の水面で水しぶきが上がる。

見事な一撃で仕留めた魚が何十匹も空を舞ってカゴへと吸い込まれた。


(マスター、アレは釣りなのでしょうか?)


「あれは、………完全に別物だな……」


 水しぶきで彼女の若緑の髪が濡れる。手に持つ剣が水面を滑るたびに魚が打ち上げられる。剣舞を舞うカレンは、蔓羽衣も相まって、水辺に舞い降りた剣姫のようである。

 今日は、天気が良い。むしろ、良過ぎて暑いくらいである。こんな日には釣りをしてゆっくりするのが一番。―――というわけで食料調達も兼ねての釣りである。

 成果は全然だが、カレンのおかげでその心配も無い。

  釣りならぬ、『斬り』ではあるが……。

 ドルイドの里では、見かけなかった黄色の瞳。水面の光を反射して、時折、黄金色のように見える。


「こんな物でいかがでしょうか?ネスク殿」

「もう、充分だと思いますよ。」


 山盛りに盛られた魚。それだけあれば、大食い選手である二人にも通用するであろう。大食い選手というのは、もちろん、ミレド。それから最近よく食べるクーシェである。


 カレン濡れた髪をかき上げる。その仕草に心臓がどくっと


「ネスク殿、……前々から申し上げていますが。私には敬語は不要です。」

「それなら、カレンさんも不要ですよ?俺年下ですし……」


 ネスクが今年で16、対してカレンは、23である。

 幼さがなく、女性らしい美しさを備えつつクールな雰囲気を纏うカレン。どこぞの劇団に出てきそうなほどの凛々しさを持つ彼女は、女性からモテそうである。


「ならば敬語はよそう。私もその方が気楽だからな。ネスク殿も敬語を外してくれ。何というか、君からは"年相応さ"というものが感じ取れない。まるで、同僚か、年上を相手しているようだ。」


 『騎士の直感は侮れない』とネスクは思う。前世での年齢と今の年を足すと30を超えるからだ。


「まあ、何でも良いが………今日は良いのか?あの子らを見なくて……」


 あの子とは、年少組である。彼女達のおもり(世話係)は、主にカレンが担当しているのだ。


「ミレド様が代わっていただいたから今日は、手持ち無沙汰なんだ。」


「………なるほど」


 ミレドらしいと思う。真面目なカレンの代役になって彼女の羽を伸ばさせようという考えなのだろう。


「ネスク殿とこうして語り合うのは、珍しいな。」


「確かに………」


 ルリや他の子らから始まり、最近ではネアだ。色々起こり過ぎてカレンとゆっくり話せたことは今まで無かった。


「………気になるか?この眼が」


「別段気になったわけじゃないが、珍しい色だなと思ったんだ。」


 さっき横顔を見ながら眼を見ていた事を見られていたようだ。


(………口説き魔………)


 脳内で身も蓋もないことを言われた。いつもの抑揚の無いソフィアの声なのだが、どこか不機嫌さを感じられる。


「皆はハーフというが、私の両親はどちらも『ドルイド』。祖父母もそうだ。曾祖母については聞いていないが、いわゆる"先祖返り"という物だ。」


「先祖に黄色の瞳をした人物でもいたということか」


 近い親等でいないのであれば間違いなく先祖返りなのだろう。それにしても、黄色の瞳を持つ種族か。

 心当たりがあるような、無いような………


「ネスク殿は『沈まぬ太陽』と呼ばれた者達を知っているか?」


 違和感を感じて記憶を辿っていたネスクにカレンがそう聞く。


「たしか、『昔話』の登場人物がそんな異名だった筈だが………」


 『沈まぬ太陽』とは、種に伝わる昔話に登場する言葉である。


 魔王を討伐した数百年後の話。

 人の世が安定しだした時期に『赤い月』が突如現れた。『赤い月』となった凶月が太陽を覆い隠し、魔物の凶暴化が各地で発生した。

 これが現在に残る数年に一度起こる『赤い月による凶暴化』の始まりとされている。凶暴性を増した魔物が溢れ返り大量暴走(スタンピード)に発展した。

 迫りくる魔物の大群。あまりの押し寄せる速さに限られた時間の中で防ぎ切るには不可能であった。再び、人々の心に深い闇が訪れつつあった時、彼らは現れた。


――――太陽の如く光輝く魔力を纏った戦士が次々に凶暴化した魔物を薙ぎ払う。その勇姿は魔王を倒した英雄達に劣らなかったといわれる。

 最後には月に向かって黄金に輝く一振りの槍を投げた。槍は暗闇を引き裂いて天を駆け『紅い月』を貫いた。だが、貫かれた月は小さく縮小し、今の大きさへと変化した。それは、魔王が最後の力を使ってこの世に生み出した"呪い"。

 そのあまりに強力過ぎた"闇"は、浄化さえ不可能だったため彼らは、『凶月』から人々を守る盾となり、その身を捧げ封じたといわれる。今の『凶月』は、彼らが弱体化したためその時代ほど対処は困窮していない。


「彼らの容姿は、"黄金の獅子(ライオネル)"だったといわれている。その瞳は、『黄色』もしくは、透き通った『金』。」


「獣人の方ではそう伝わっているのか。人間の方では……まあ様々だ。人間だったとか、獣人だったとか、場所によっては、人に化けた魔物だったとか、な。」


 昔話は脚色された部分もあるため全てを鵜呑みには出来ない。『沈まぬ太陽』だって、後の人達が名付けた物であって、当時の者達がそう読んでいたのかも定かではない。各地に残る昔話から分かる事は、ただ一つ。

 誰かの為に戦った。ただそれだけだ。


「日頃はあまり気にしていないが、たまに私を『異物』と捉える者もいてね。街の方々は、皆優しかったもちろんね。

でも、子どもの頃は私自身、この眼を好きではなかった。なぜ皆とことなるのか。なぜ自分だけ違うのか。

一時期、情緒不安定にも陥ったものだよ。」


 カレンのその表情に悲壮感などは感じない。どこか懐かしさのような物が彼女の表情から滲み出ている。


「そんな時に祖母がその話をしてくれたのさ。話を聞き終わってから思ったんだ。ああ、私は誰かの為にこの眼を宿して生まれたのだとね。」


 何となく彼女が兵士として出兵した背景が見えた気がする。


「……俺自身、言えた義理じゃないが、俺はこの話。あまり好(・)き(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)な。」


 いつもは表情を変化させないカレンが目を大きく見開いた。


「確かにその身を犠牲にしてまで、他の人を守ったことは立派だし、尊敬も出来る。………けどな、必ず悲しむ奴がいるんだ。友達でも、家族でも。生きていれば誰かと繋がりを持つ。」


 両手に巻かれた包帯が嫌にそれを物語っている気がする。


「カレンさんの"信念"にいちゃもんをつけたいわけじゃないが、身を犠牲にする前に一度は考えてくれ。残されたルリや他の娘、それからポーアも、な。」


 泣きそうな表情をしていたミレドが脳内に残っている。契約(コネクタ)のせいかは分からないがあの時の出来事がストッパーとなって、無茶は極力しないようにしている。


「………ふ、ふふふふ」


「え、何?………俺何か変な事言った?」


「ああ、いや、悪い。まさか年下の君に諭されるとは思わなくてね。……悪かったね。君の言葉心の中にとどめておくよ。ありがとう。」


 ニコリと微笑むカレンの表情に、またしてもドキリと心臓が高まった。美人に微笑みかけられると誰でもこうなってしまうだろう。それくらいの破壊力はある気がする。


「どう、いたしまして?」


「ふふふ、では、私は先に戻っておくよ。成果の報告もしないといけない。それに、夏場とはいえ着替えておかなければ、風邪でも引いてしまうからね。それじゃ。」


 カゴ一杯に積まれた魚を背負って洗練された動きで歩いて戻っていく。クールでカッコいい大人の女性である。


「……参ったな……」


(…………変態)


 鼻を伸ばしたネスクにソフィアは毒舌を吐くも、その言葉は、ネスクには届いていない。右から左へと流れていくだけであった。

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