南方戦役
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「おらおらてめぇら!竜族がいなくなった今が狩り入れ時だ!進めぇ!!!」
大国の軍ほど大規模ではないが、それでも大量の人間の兵が国境を超えてペルメスへと侵略を計っていた。―――――ここはペルメスの南方。
聖域を中心に大国が囲むいわゆる外側の国が位置する場所。そこにも小さな国は存在する。だが、聖域からの恩恵が受けられない外側のため、大国より治安が悪く人身沙汰など日常茶飯事で。
「竜様がいなくなった途端にこれですか。ハクロウ様は何を考えていらっしゃるのやら。」
先日、予定通り竜族に帰郷の触れを議長・へーガスが出した。竜族は待ってましたといわんばかりに次々に飛び立っていった。
そして現在。火種がくすんでいた隣に位置する小国が攻めて来ている。
国境を超えて攻めてくる敵を男は壁上から見下ろす。
男が立つその壁を超えられれば、住民が住む村などほんの数キロも無い。
「おっ!副団長、うまい!"白梟"を略してハクロウ様。そんでもって"フクロウ"族ですか?」
「変な解説はよろしい!!!」
「イテッ!!」
近くにいた部下の一人が『副団長』と呼ばれる者にゲンコツを落とされた。
「「「「わっはっはっは!」」」」
ガヤガヤと兵士の間から笑い声が溢れる。
ここは戦場。ましてや、今攻められているとは思えない陽気さ。壁の内側(攻めてくる軍とは反対)では酒を片手に持つもの、肉や野菜を腹に詰め込む者など、宴をしているように賑やかである。
「君達、尻尾はちゃんとしまいましたか?尾を出していますと、狩られますよ?」
メガネを掛けた副団長が確認する。
「おう大丈夫ですよ!しっかり、鎧の下に隠してます!」
「副団長は俺らのオカンか嫁か?」
「私は、男です!……君達は……。」
一息ため息をこぼす。青の掛かった髪と耳が攻め寄せてくる敵による砂埃を含んだ風で揺れる。
「―――団長からの命令です。」
壁上から男が下にいる部下に向かって声を張る。
ズレてきたメガネをくいっと上げる。
動向が狼のように縦長へと変化した冰魔の狼族の副団長。―――ボード・ティルマが命令を告げる。
『奴らを蹴散らしなさい!』
ついさっきまで陽気な雰囲気を持っていた者達全員から冷気を含んだ空気が放たれる。鋭い眼光。瞳の"優しい"蒼が今は子どもが泣き叫ぶくらい恐ろしく鋭い眼に変わった。
「「「我ら ペルメスの恩ために!!」」」
さっきまでの空気が戦場へと変わった。
殺気を含んだ空気がチリチリと耳を掠める。
右手に剣を持って壁上の男―――ボードは、動き出す。
「先陣は私が先駆けます。皆は、壁門にて待機。これより、殲滅作戦を開始します!」
「「「はっ!」」」
付き添っていた部下達に指示を出して自分とは反対側に走っていく。
「全く……これだから人間は………ここの守りが誰かも知らずに攻めてくるなど愚の骨頂です。見せてあげましよう!かつて『双璧』といわれた我らの力を……!
ふふふ、ふふふ!!」
「あんたが一番怖えよ………。」
黒い笑い肩身をするボード。彼は、冰魔の狼族の団長からこの場の指揮を任された者であり、その強さは、団長であるグラキエでも類を見ない稀な才覚を持つ少女―――クルムの次に強い。
* * * * * *
「もうすぐ壁だ!その先は獣人どもの村なんて目と鼻の先。このまま特攻だ!!野郎共進め!!!」
―――軍の指揮官が指示を出す。
その目的は、『獣人の捕縛』である。
獣人族(亜人ともいう)は希少な魔法を使え、力も強い。その上、使い勝手もよく、人間の奴隷より幅広い使い道がある。
獣人の奴隷は、人間の間では高値で取引される。その価格は、この一年で更に跳ね上がった。
その理由は、―――灼熱の狼と呼ばれる狼の獣人が原因。
ペルメスの"双璧"といわれていた片割れの『灼熱の狼』という獣人族の使い勝手が良い。炎を扱え、美人が多い。男の奴隷も高値で取引はされるが、捕獲の際に一族挙げて抵抗した挙げ句、ほぼ全滅を果たしたため現在は入手不可能となっている。
生き残った男もいるにはいるが、身体が欠損して使い物にならなかったり、使えても隙きを見せた瞬間舌を噛んで自決したりである。その為、成人の男は、街に豪邸が出来るぐらい上昇している。
「軍総閣下前方に獣人です!数は一人!!
冰魔の狼です!!!」
男がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。今回の目的対象の一種が早々に現れたからである。
「絶対に逃がすなよ!生かして連れて帰れ!!」
男が列の前方にそう告げる。
今回の目的は、冰魔の狼族である。灼熱の狼族が高値で取引されるのだ。それに伴い、冰魔の狼族も上昇中。こちらは、未だに存命しているため入手難易度でいうと手が届くほどである。
もっとも厄介だった竜族は、先日から国境に現れなくなっている。今が狩り入れ時のチャンスである。
(これで俺も、金持ちどもの仲間入りだ!くくく!)
前方の騎兵隊が壁の前に立つ冰魔の狼族の男にその槍を向ける。
「下劣な人間共よ。我らが守護する南方をそう易々と突破させると思われたのですか?………"憐れ"ですね」
騎兵隊の前方四人が槍を同時に突出す。
迫る騎兵隊。ゆっくりとした動作でボードがその剣を抜く。
「…………あっ?」
抜いた瞬間、あらゆる物が凍てついた。
男が間抜けな声を零した。それもその筈だ。前方に配置した部隊全てが氷の彫像と化してしまったからだ。
「あなた方に見せるのも尺ですが、"ドワーフの業物"ですのでお見せしました。……はぁ、聞いていませんね。せっかく死にゆく者への土産話に教えて差し上げたのに。もっとも、私の魔力によって成り立つ物には変わりませが、では。………出番ですよ皆さん」
冷気を発する長剣を再び納め直す。そして、ボードが指示を出すと門が開かれた。その中から、青い眼光を宿した冰魔の狼族の屈強な戦士が現れ走り出す。
大きく跳躍して、騎馬から落とした兵士を仕留める者、素早い動きで翻弄した後冰魔の狼族が得意とする『氷』で氷漬けにして仕留める者など様々。だが、攻めていた筈の者たちが一方的に蹂躙されていく。
「て、撤退!撤退しろ!!!」
軍の指揮官が撤退命令を下すがそれは愚策ともいえる。次々とやられ、かき乱された軍。そこに『撤退』の命令を下せばどうなるか。答えは簡単。―――瓦解する。
「所詮人間、ですか。始まりが唐突であれば、終わりも唐突ですね。………戻ります。」
前方の瓦解(蹂躙)していく人間の軍に興味をなくしたボードは壁内へと戻る。
「さすが、副団長!見事でしたよ!」
「……あなたは、行かなくてよろしいのですか?」
「俺、今日が初戦なんで、今日は先輩方の見学なんです。それにしても、凄かったです!ボード副団長!!握手させて下さい。」
まだ成人したばかりの年であろう若い青年が人懐こい笑顔を浮かべながら握手を求めてくる。ボードはそれに無言で答える。
「副団長の見事な剣捌き!あんな剣捌き見た事ありません!副団長は冰魔の狼一凄いです!」
「ふっ。止めて下さい。私は、そんな大層な者ではありません。私のアレを見切る貴方の目には感服しますが、私は『天才』でも、『族一』でもありません。
そんな言葉は、あの方だけの言葉です。」
団長であるクルムの闘いを目の当たりにすれば、誰でもそう思ってしまうのだ。齢十四にして、何の発動動作も見せずに魔法を発動出来る少女。
彼女ほど『天才』という言葉があっている者などボードは知らない。




