ネスクとネア その壱
更新します。ネスクに攻撃するネアの心音が明かされる話です。
おお やっと、 やっと………主の元へ…………
空へと黒い影が一斉に飛び立った。
無数の影達が羽ばたいた事で空が翳る。地上の者達からすれば、天変地異の"前触れ"と勘違いされてしまうレベルである。昼に突然、夜が訪れたのだから。
だが、彼らからすれば、違う。むしろ、ウキウキしている。
その飛翔は、―――彼らが念願を成就するための羽ばたき。
長年。主の命を受け、遠い地でその身を削ってきた彼らが大好きな主に謁見する為の第一歩。
いや、第一羽ばたきだ。
彼らが赴くは、ただ一つ。―――聖域、中心部のみ。
* * * * * *
「ふぅ、今日はこんなもんか?」
(襲撃予測ありません。お疲れ様です、主)
「ソフィも最近、サンキュ♪助かった!」
奇襲を最近は、毎日くらっている。
その日々のせいか、最近は、『鍵』を常時起動したまま。朝昼晩など関係ない。
寝る時でさえも。彼女は、容赦なく襲って来る。正直、寝る時くらいはやめて欲しい。
(では、止めて頂くように本人に言えばよろしいのでは?)
ソフィアお得意の『思考覗き』である。
「言ったさ。その答えが、―――No。
俺がここを出て行くまで続けるとさ。全く、……困ったもんだ。」
ぶっちゃけ、毎日は疲れて来る。その上、生活面でも最近は、注意に注意を重ねているため心の安まる時間がない。
「………もういっか。今日は、のんびり寝よう。食材も手に入ったしな。」
ネスクの背後には、仕留めたばかりの獲物の魔物が転がっている。
(……ミレド様宛に送られるのでしょうか?)
「まあな、そっちの方が手っ取り早い…よっと。」
魔力糸操作で倒した魔物の体に流れる魔力を血ごと空へと還す。 以前のように血抜きをした後、
魔法で血を燃やしても良いが、始めから魔力と一緒に蒸発させた方が手間取らない。
その作業を終えてから一カ所に集める。
「メッセージを添えて………【転送】指定[ミレド] !!」
山積みされた魔物を中心に、光によって描かれた光の魔法陣が展開した。ポーアほど繊細な魔法陣は脳内処理のみでは上手く出来ないが、簡易な物は自分でも出来る。
瞬きほどの一瞬で山積みされた魔物が消え去った。
「さて、寝るか!!」
魔法陣が光の粒子に変換されるのと、同時に寝心地の良さそうな木に登る。葉の合間から差す日差しが眠気を誘う。
瞼を閉じれば、直ぐに意識が遠のいて来る。
―――のだが、
「ったく、人の睡眠を奪うもんじゃねぇぞ!ネア!!」
登っていた木を蹴る。影がその木を縦に分断した。
空中へと逃れたネスクに黒い羽根が迫る。
(斥力場生成。体勢の位置よりそのまま、空中を蹴って下さい)
空中では、魔力がブレるため普段は使わないようにしているが、ソフィと接続していればいつでもどんな状況でも対処可能である。
自分の魔力から生成した電気の足場を蹴る。垂直に地面へと急行する。
ネスクの後を追尾する羽根。真横から迫っていた軌道がそのまま垂直に付いてくる。
(チャンスは、―――― 一瞬!!)
高速な動き、だが。
ネスクにはスローモーションに見える。
体を空中で回して、四つん這いの体勢から着地。迫る黒羽根。
先程使用した電磁場の電流を手を地面に付けて、逆立ちからのバックステップ。空中に電流が円を描く。
無数の黒羽根が電流に触れた瞬間、焼け焦げて消滅をした。
「【纏雷】」
空中で回転しながら、魔法を発動。着地と同時に地面を蹴る。少女の姿(居場所)は、既に把握済み。
ネスクの姿が消えた。跡に残るは、電流の残留のみ。
次に、姿を現した時には、両手を絡めて拘束されたネアが地面に組伏せられていた。
「おいたが過ぎだ。ネア」
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次に気付いた時は、地面に組伏せられて動けない。驚愕、混乱、焦り………色々な感情が混じり合っているが、これだけは、分かる。――――ただの人間に自分は、組伏せられているということ。
動こうとしても、まるで石像のようにビクリとも動けない。凄い力だ。人間の外見をしているのに、まるで化け物を相手にしているようだ。
優しい表情の裏に隠された冷徹無慈悲な危険な魔力。自分がこの彼に敵意を剥き出しにしていた理由もそこにある。
人間は優しい表情をしている人ほど危ないと教えられた。それは、自分でもそう思う。
自分もそれなりの修羅場を潜って来た。人の顔、その裏。―――表情に隠された本音を嗅ぎ分ける事には長けていると自負している。
だが、目の前の少年は、何を考えているのか、読めない。全く読めない。優しく話し掛けてきて、困っていれば優しく手を差し伸べる。当たり前のように。
そんな人間は、見た事ない。誰かを蹴飛ばしそれを嘲笑する。弱い所を見せれば、すぐにそこを攻めてくる。
―――卑劣かつ、狡猾。
この少年の皮を被った化け物は、危険過ぎる。
それは見てわかるくらい、人間の魔力量からすれば、逸脱している。危険の警鐘が一緒に暮らしていて、ずっと鳴っていた。
境遇を同じくした他の子達のためにも、この人は近付けては行けないと本能が囁いた。だから、攻撃した。
自分は、どうなっても良いが、他の子達が傷付く姿は、もう見たくないから。自分には、『帰る場所』が無くても、他の子達には、ある。
温かいその場所が……。
別に羨ましくは思わない。自分は、失敗したのだから。失敗した者には、与える者など無い。
それが私達、『カラス人』の掟。
* * * * * *
「…………」
頭の中に、少女の思念体が一部。流れ込んで来てしまった。それは、神器の特徴なのかは、分からないが少女が何を思って攻撃していたのか。
理解してしまった。
まさか、傷付けないようになるべく優しく、接していた事が気味悪がられていたとは思わなかった。
…………どうしよう。
(…………大朏様………変態……)
(お前が言うか!?いつも俺の思考を読んで奴が!)
ソフィアが頭の中で、変態変態と、連呼する。
「んっ!この!!」
暴れ出すネアが影を操り攻撃使用とする。だが、ネスクに触れる直前に、粒子となって霧散した。
ネアが目を見開いて驚いている。さしずめ、何が起きたのか理解出来ない。といった所か。
「少し話をしよう、ネア。」
「人間風情が気安く触らないで!!刺し殺してやる!!」
攻撃出来ないなら、といった感じに地面から『影の槍』が突き出る。まあ、無意味であるが。
「女の子がそんな言葉使うもんじゃ、―――ない。」
空いた方の手で指パッチンを一回、鳴らす。
空気がざわついた。
その瞬間、『影の槍』が音の波によって吹き飛んだ。




