とある畑仕事での会話
更新します。今回は、場所を変えて、その頃のネスクの話です。
がっ がっ がっ!!
クワを大きく振りかぶって、畑を耕す。
冬の間。全く使っていなかった事もあり、雑草も沢山生え、何より、―――地面が固い。
昨年は、米茸に少なくない畑の養分を与えたため、半年間寝かせていた。当然といえば、当然である。
―――無機質、有機質。
ありとあらゆる物に『魔素』は混ざっている。
そして、こちらの世界の土にも、『魔素』が含まれている。魔素は全ての物に含まれている。
魔素が植物を育てる養分へと変換される。
正に不思議原子である。
『………マスター。左後方から[影]、正面・左後方から[羽]です。』
「はあ、………またか。了解。」
クワを魔力で梱包する。特に持ち手部分に念入りに……。
こうする事で、以前のように道具を壊さずに扱える。
こんな感じに……魔力を込めたクワを地面に叩き付ける。
「よっ!!」
どんっ!!!
思いっきり地面を叩きつけた事で、普通の人では苦労する固い地面が飛び上がる。
飛び上がった土が飛んで来る羽を弾く。
『[影]のスキャン完了しました。いつでも発動可能です。』
(サンキューソフィ♪)
黒い影が伸びる。土壁も"影"には物理的攻撃が効かないため関係ない。せり上がった土の壁を潜り抜けると、ネスクを取り囲み、鋭く尖ってネスクへと迫る。
ネスクは、振り下ろしたクワで攻撃する訳では無く静かに目を閉じる。
「………【無効の眼】」
ネスクが静かにそう告げた。黒い瞳が開かれると、光る眼球が全てを見据えた。
見開いたその一瞬。
…………音が消え、ネスクの見ている景色の色が消えた。
ドバっ!!と土が落ちて終わる。砂煙が舞うが、それ以外は何も無い。完全な静かな空気だけがその場を包む。
迫っていた影も消え去っている。
「よし、続けるか!」
ほんの少しの力で高さ2メートルもある壁を作り出した。それを何事もなかったようにネスクが再開する。それもそうだろう。
もう何回になるかわからない奇襲である。
そう何回も襲われていれば、慣れるという物。
『攻撃の奇襲なし。大丈夫ですよ、マスター』
(そりゃ良かった。)
遠距離からの操作なのだろうけど、攻めて来ないのであれば良い。こちらも、ソフィアとコンビネーションの良い特訓になるし、あの少女の訓練にもなるのだから。
『あ!ネス〜!』『いた〜!!』
頭上から声が降ってきた。
声の元は、小さな小さな女の子二人。ネモとペーレである。
「お前ら、どうかしたのか?いきなり……何かあったか?」
いつもはハニワ部隊に付いていて、隊長として指示している二人が珍しくここにいるのは、何かあったのだろう。
『んーん。何も〜』 『特にないよ〜』
「お前ら………仕事し、ろっ!」
指で小さなおでこにデコピンしようとするも、避けられた挙げ句、おでこを二人が押さえて警戒している。まるで、毛を逆立てる猫である。
――――今まで何度かデコピンしたせいか、そういう所が鋭くなってしまった。
『してるよ〜もう!ねぇ〜♪』『ねぇ〜☆』
「…………」
顔を見合わせて呑気に言う二人に静かに攻撃(指鉄砲)を放とうかとネスクは、思ってしまった。
『けど〜、気になる〜お知らせがあるの〜』
『そうそう〜♪』
『『人間がいっぱい〜森に来てるの〜』』
「やっぱり何かあったんじゃないか!」
『別に人間が森に入るのは〜良いの〜』
「良いのかよ………」『『良いの、良いの〜♪』』
合いの手を打つ二人。とても緩い。本当に気にしてないようだ。精霊は、『自然』の一部であり、守り人でもある。
森を荒らす者には容赦しない傾向が多い。それ以前に、二人の話からして他の精霊。特に『上級精霊』は、人間を好いてはいないようだ。
場所によっては、人が立ち入ろうとすると、自然現象を起こして追い払ってしまう。二人は、そうでも無いようだが。
「二人が気にしてないようだから良いが……で。
それが知らせか?」
『ん〜ん、違う〜』『ワイバーンが出たの〜』
さらっと、とんでもない事を言った。
「……本物か?」
ワイバーンは、危険度『C』にあたる魔物。
場合によっては、『B』以上にもなり得る危険な魔物である。只の人間では手に余る魔物が森の中に現れ、もしも、人と遭遇でもしたとあっては、只事ではない。
『本物、本物〜』『10の9は、狩ったよ〜』
「………残りの一匹は?」
『逃した〜』
…………………………………………………。
しばらくの間、ネスクの頭が停止した。
「ダメじゃねぇかー!!!」
『だ〜いじょ〜ぶ!』
『一人。追っかけさせてるから〜。て、言っても…人がもう狩っちゃたんだよね〜。爪が甘いけど〜』
背中がゾクリとした。
一瞬、ほんの一瞬だけ。いつものペーレの表情が恐くなった気がした。気のせいだろうか。
まあ、いいや。それよりも……
「大丈夫なのか?その、人間……。」
ワイバーンを相手したという事は、パーティーなのだろうけど、手足の一、二本………。
考えるだけで恐ろしい。
『ん〜、大丈夫じゃな〜い?黒髪だし〜』
『例の転移者だよ〜。多分〜。』
「適当だな。お前ら………まぁ、良い。転移者か……。」
遂に行動を始めたという事だ。森に来たということは、聖域の中心地にもその内、来る。以前のソフィアの助言が実現しようとしている。
「正直俺もどうでもいいけど、何だろうな。
この、………胸騒ぎ………」
『『???』』
二人が首を傾げている。本当に仲良いなこの二人。
動作も発言口調も。顔は似ていないがまるで双子みたいである。
「お前らって、双子なのか?」
『ん〜?ある意味、双子〜?』
『同じくらいに〜生まれて〜同じくらいに〜"上級精霊"に格が上がったの〜』
「それ、双子じゃ……」
『精霊は、複雑なんだよ〜』『そうそう〜』
複雑なら聞かないでおこう。面倒事は御免だ。
クワを振り上げて下ろす。そろそろ再開しないと日が暮れてしまう。今日中にこの広すぎる畑を耕さないと行けないのだから。………頑張ろう。




