木漏れ日日和の初実戦 急変
更新します。今回は、前回の続きからです。
すぅ――――………
薄暗い森の中で木の葉が擦れる音が鳴っている。耳の奥へと音届いているが気にならない。目を閉じて五感を研ぎ澄ます。
木の葉の音、鳥のささやき、草葉から飛び上がる虫の羽音までも。全てのモノが耳に入ってくる。
―――何かが地中の中を潜って進む音。
先程の汚名返上がてら久方ぶりに使っているというのに、まるで呼吸をするかのように自然と使える。初めて使えるようになった頃とは違い、一度掴んだ感覚は衰えていない。
………来る!
「下がって!」
小夜の掛け声で前衛の恵、孝希、好太郎が後退した。
それとは反対に小夜が前へと飛び出た。
感覚の鋭さが増し、敵の出現位置へと一直線に駆け出す。
地面が盛り上がり、敵の予想位置から飛び出した。
「『汝、暫し 動きを止まりて 自由を束縛せよ』」
教義で教えて貰った呪文を唱える。
今まで経験した事が無いというのに、しっくりと来る感覚。パズルのピースがカチリと嵌まったように呪文の通りに発動する。
「【麻痺】!!!」
飛び出したその魔物は、空中で固まり動かなくなった。その隙に魔物の体を蹴る。
小型の魔物のため、ボールを蹴ったような感じであった。
木にぶつかり、魔物が叩きつけられ地面に落ちる。
モグラ型のその魔物は、鼻が螺旋状になったドリルのような凶器を兼ね備える。『ディガー』と呼ばれる魔物である。
「みんな今!!」
「ナイス!サヨちゃん!!」
後ろへ後退した孝希が剣を引き抜いて駆け出す。狙いは、一点"頭"である。
どんなに強力な魔物でも急所である頭、もしくは心臓さえ貫けば死ぬ。――――それは、魔物であっても生物全て同じである。
「『炎よ 我が剣に集いで 敵を滅せよ』」
孝希の剣が赤く熱せられる。
そして、刀身部分に炎が発火する。
「【炎剣】」
炎を纏った剣がディガーを二つに分かつ。
分かたれたディガーが切り口から燃え出す。先程の【火球の球】とは違い、燃えスミも、血も。何も残さず跡形もなく消し去った。
「よっと……。孝希、周りに警戒してよ〜♪」
木の上からどさりっ、と落ちた。
ひっくり返って降ってきたそれは、巨大な蜘蛛『ビッグスパイダー』である。
ビッグスパイダーの特徴は、『蜘蛛の糸』。鉄のように丈夫な糸であるため、一度捕えられれば、抜け出すのは至難の業。木の上から、捕食対象の様子を伺い隙が出来れば容赦なく蜘蛛の糸を吐き出す危険なモンスターである。
「悪い、気を付ける!」
危うく孝希は、ビッグスパイダーの餌食になる所であったのだ。
「『水よ 駆けよ』【水槍】」
好太郎の後方、左側で炎を口から吐き出そうとしたオオカミ型の魔物『フレアウルフェン』が水で出来た槍で射貫かれた。
「好太郎君もだよ!」
フレアウルフェンを仕留めた恵がにこやかにそう言う。手元の槍には、使用したばかりの【水槍】の水が表面を纏う。
「ありゃ、ごめんね〜!ナナミン♪」
三人がお互いの背中を守り合う戦い方。それは、長い付き合いをしているこの三人だから出来るコンビネーションである。
「よっと、ありがとね♪愛しい君達」
ビッグスパイダーの頭に突き刺さった短剣が不自然に好太郎の元へと戻って来た。
「精霊、ですか?」
「うん♪そうだよ〜。よく分かったね、マリアちゃん」
「え、ええ。」
あれだけ不自然過ぎる動きをすれば誰でも分かる。投げた短剣が戻って来たのもそうであるが、ビッグスパイダーの頭を的確に貫くように短剣を投げるのは、それなりの技術が必要だ。
「好太郎先輩、いるのですか?―――精霊さん。」
「……いるよ♪ここは、街の中と比べると空気が綺麗なんだろうね〜。めっちゃいる」
キョロキョロ見回しても私達が見る事は出来ない。
『精霊使い』の職業を持たないからだ。精霊は、『見る眼』を持つ人か、好太郎先輩のように特別な存在でなければ、見る事は出来ない。
「小夜ちゃん他には?」
「ちょっと待ってナナミン」
目を閉じて集中、波紋が広がるイメージで鼻、耳、肌をレーダーにして感じ取る。
――――半径50メートルくらいには、嫌な気配は、しない。
「………大丈夫みたい」
「ほっ、一安心だね」
恵が小夜の言葉で胸を撫で下ろす。
入って早々から連続戦だったため、流石に精神的にくる。
「序盤でこんなにキツイのか。奥の方は、全く想像出来ないな。」
「確かにね〜。タイプの違う魔物って、連携しないんじゃなかったけ〜?」
「それは、騎士団の人達がいってたよ、好太郎君。魔物は、"連携しているわけではなくて、ただ獲物を奪い合ってる"だけだって………。」
「あれれ、そうだっけ〜?」
「もう、しっかりしてよ!」
恵が首を傾げて考え込む好太郎を諭す。
他愛ない会話を皆がしている間にもう一度目を閉じて集中。全ての音、温度、風が伝わり頭の奥にイメージのマッピングがされる。
マッピングをしていると、肌を刺すような刺激が刺す。これは、―――殺気!!
「………!!」
振り返るが何もいない。
「サヨどうかした?」
近くにいた真理亜がいち早く小夜の変化に気付いた。
目視の限りでは、何もいない。
先程の『ディガー』のような変則的な気配は、感じられない。と言う事は、
―――――上か!
「マリ、ゴメン!」
考えるより早く体が動いた。
真理亜を突き飛ばした小夜が剣を抜く。
自分は、左ステップを踏む。
丁度、真理亜を突き飛ばし、自分が数秒前にいた所に何かが降ってきた。
地面を両足で踏み出す。
飛び上がった小夜が剣を両手で握り締める。
――――上段からの振り下ろし
「………っ!」
振り下ろした剣の刃が立たない。
硬い何かに邪魔されて肉を斬れない。
「「「小夜ちゃん!!!」」」
三人の慌てた声がする。
世界が一瞬、反転した。
――――いや、自分が回転しているのだ。
そう理解するのと同時に背中から猛烈な衝撃がやって来た。そのまま、ずりずりと地面に落ちた。脳震盪を起こしているのか視界がブレて見える。
自分の頭から何か赤い物が落ちてくる。
―――血だ。
鉄臭い液体が口の中いっぱいに広がる。
ぐらぐらする頭で前方を確認する。
自分がやられた何かをそこで初めて理解した。
翼を生やしたトカゲ。『ワイバーン』である、
「そりゃ、刃が立たないよ、……ね。」
そこで意識が沈んで行った。
***
「小夜ちゃん!!」
木に叩きつけられた小夜を目の当たりにした恵が戦慄した。叩きつけられた小夜は、木にぶつかり、地面に落ちた後、動かないのだ。
「小夜ちゃん、小夜ちゃん!!」
「待て!恵!!」
取り乱した恵を孝希が手を掴んで制する。
数分前に小夜に突き飛ばされた真理亜は、好太郎によって起こされている。
その先には、緑の鱗をまとい、羽を生やしたトカゲのモンスターがいる。
砂埃を巻き上げるその魔物が後方にいた小夜と真理亜を襲った主犯である。
ワイバーンがギロリと四人の方を見据える。
危険度でいうと、『C』に規定されるこの魔物は、こんな序盤に出てくる魔物ではない。
だが、その予想を越えて今、目の前に現れた。
「小夜ちゃんは、心配かもしれないが、今はコイツが先だ。小夜ちゃんを助けるにしても、コイツが邪魔だ。
作戦は、ある。だから、まずは、落ち着け。
――――じゃないと、皆。ここでお陀仏だ。」
「……分かった。」
「ははは〜。冗談にしては、笑えないな〜。これは……」
「……サ、ヨ。」
真理亜は顔色が青い。無理も無い。
だけど、
この危機的状況を打破する方法は、彼女が『鍵』だ。
「『我が手元に集いで 燃えさかれ!【火球の球】!!!』」
炎を圧縮した球をワイバーンの頭めがけて投げた。
話を聞いた限りでは、ワイバーンに火魔法を使っても鱗が耐熱性のため、無傷に等しいがヤツの視界を奪うだけなら有効である。
ズッド―――ン!!!!
ワイバーンの頭に直撃し、激しい音を立てて爆発を起こす。
「いいか?作戦はシンプルにこうだ!俺、恵、好太郎でヤツの気を引く。その間にマリアちゃんは、『光魔法』の攻撃魔法頼む。」
「え、でも、私……まだ、攻撃系の魔法は、成功した事が無くて………」
「呪文は、分かる?」
「は、はい。呪文は、……一つだけ………」
「なら、大丈夫だ!恵!お前は、マリアちゃんの補助だ。好太郎と二人で何とかする!」
「……分かったよ!」
孝希はそう言うと、駆け出す。
魔法を惜しげも無く唱えて発動する。
「やれやれ〜。男って辛いね〜。まあ、女の子を守れるなら、やりがいも湧いてくるってものか〜。」
短剣を引き抜く好太郎がため息を一つこぼした後、そう言った。
「マリアちゃん、魔法は―――イメージだよ。君をあんな状況から助けたサヨちゃんの為にも、今出来る事をやろうね〜♪」
背中を向けたまま、
ニコリと笑った好太郎が走り出した。
その両手には、短剣がもう一本握られている。
「マリちゃんは、今度こそ、私が守るから。魔法の発動に専念して。」
真理亜がチラッと、小夜の方を見る。
気を失っているのか全く動かない。その側には、小夜が持っていた剣が折れて転がっている。
それは、小夜が咄嗟の状況下でも出来る事をした証である。
「―――分かりました。私が出来る事をします!」
真理亜の周りを光の粒子が舞う。
それは、彼女の覚悟と共に目覚めた『光魔法』の使い手である者の特徴である。




