職業《ジョブ》
約一週間空きましたが、更新します。
自室に戻った小夜は、恵に介抱されながらベッドに腰を下ろしていた。
「さよちゃん大丈夫?」
「……大丈夫、多分……」
心配そうにする恵に"大丈夫"という気持ちを込めて笑顔を張るが、顔色が青いせいで逆に心配を掛けてしまっている。
「はい、サヨ。これ飲んで……!」
「ありがとう、マリ。」
受け取ったティーカップに入った飲み物を飲む。口の中に何かの茶葉の味が広がる。
茶葉の香りで取り乱した心が落ち着いていく感じがする。
「……今日の魔法の教義は、無しだよ。サヨちゃん。
担当の人には、コウキ君が伝えてくれている筈だからゆっくり、ね。」
「え、でも……」
「エルメス様も言ってたでしょ?体調が悪い時は、無理しないようにって。」
確かに初日にそんな事を言われた。
なんでも、体調管理も仕事の一つであるようで、もし、倒れでもしたら責任問題云々の話があるとか。
「今日の実践もサヨちゃんの体調次第で決めるか!
あの人はああ言っていたけど、なんたって、サヨちゃんはうちの『エース』なんだから!」
恵も、好太郎も、孝希も。
パーティーの中で劣っている者は決していない。
―――マリアもそうだ。マリアは、唯一、パーティーの中で『回復魔法』が使える。
だが、一年以上のブランクがあるとはいえ、体に染み付いたモノは、決して衰えていない。
それは、異世界に飛ばされて、『剣』を再び扱うようになってからは顕著に現れる。
「けど、私は……」
「他の人が何と言っても、それは変わらないよ!
私や孝希君たちも、まだ初心者に少しだけ毛が生えただけ。サヨちゃんには、『絶対』勝てない。あの十六夜先生から指南を受けていたのだから!
サヨちゃんが私達の中で、一番強い!だから、サヨちゃんはゆっくり休んで、ね!」
「……分かった。」
今は休む事が一番チームの為になる。
ベッドへ横になり、寝ようとした時、
「小夜!!」
激しい扉の開く音と共に女性が入って来た。
私を見るなり、抱擁。息が……。
「あ、あの、アオイさん。少し落ち着いて下さい」
「あわわわサヨ……。サヨ!!」
どこの悲恋ドラマかな?マリア。
心配せずとも生きてますよ。ただ、……ね。
息が出来なくなったせいで昇天しかけてます……。
「角度四十五度。こうやって…………てい!!」
「ぎゃっ!いきなり頭をぶたないで!昔のテレビじゃないんだから!」
昔のアナログテレビが砂嵐に襲われた時のように小夜の頭を碧海が手刀でゴツンと叩いた。
「だいたい誰のせいでこうなったと思ってるの!」
「あ、帰ってきた?やっぱり母から受け継いだこの力は本物だ!」
「一体………おばあちゃんから何を受け継いだの……」
「手刀白羽取り?」
「それ全然意味分からないよ!ていうか、白羽取りは、私がする方!」
「「ぷっ、ふふふ!」」
親子漫才?をしていたサヨとアオイの様子を見ていた恵とマリアが顔を見合わせた後、堪らず吹き出した。
最近、母のスキンシップが妙に激しくなった気がする。異世界に来る前の母であれば、先程の抱擁も昔の小さい頃ならまだしも、そんな事はしなかった。
そして、『ボケた母』を………
兄が亡くなった後から決してしなくなっていた。
久しぶりに元気な母を見た気がする。
良いのか、悪いのか分からないがとにかく、
―――異世界召喚は、母の中に"何か"変化をもたらしたようだ。
「さて、サヨが元気になった事だし、母さんは戻るから。サヨは、安静にしておく事!」
「戻るって……。まさか……飛び出して……」
「ヒュ〜………ヒュ〜♪」
アオイが明日の方を向き、口笛(音が出ていない)を鳴らす。
「はぁ、……母さん。」
つまり、厨房でのお仕事をほっぽり出して来たということ。
「しょうが無いでしょ!コウキ君が慌てた様子で入って来たのよ!話を聞いていて、どうしようもなくなっちゃったの!だから、サヨちゃん……そんな目で私を見ないで…!!」
小夜のジト目に耐えきれなくなったアオイが両手で顔を隠す。たまに、どっちが親なのか、分からなくなってしまう。母のこういう"子どもっぽさ"は、昔も今も変わらない。
「ナナミンとマリは、教義に行って…!
今からでも間に合うから。それに、男二人だけというのも、ちょっと………。
花が無くて、部屋にカビでも生えそうだから。」
「え?けど、大丈夫?さよちゃん」
「さっきより、落ち着いたし、母さん。こうなると、しばらく離れないから」
涙目になって、ほっぺをすりすりと小夜の体に擦り付ける。こうなると、接着剤のようにぴったりとくっ付いて離れない。正直、寝るのに邪魔。
「……分かった。お昼にまた、呼びに来るからね。それまでは、安静に。」
「うん。ありがとう、ナナミン。マリも!」
「絶対にベッドで寝ててね!小夜、最近たまに強情な所、目立つから。抜け出しでもしたら、次はロープで縛ってでも、寝かせるから。」
「Oh、過激〜!マリアは分かってるでしょ。
私、面倒くさがりだよ☆」
「………そういえば、そうだったね。それじゃ、しばらくだらけててね♪」
「は〜い♪」
****************
「母さん、戻らないと駄目だよ。し・ご・と!」
強引に抜け出したため、大変な迷惑を掛けている。
母さんは、今、厨房で料理を手伝う仕事に付いている。
《職業適正》もそうだが、何より"異世界の料理"ということでこちらの料理人の方達に絶賛されている。
「え〜!今日は、もう休む!めんどい!」
発動したよ、母さんの面倒スキル。
こうなっては、意地でも仕事をしない。
社会人としてはどうかと思うが、そこも母さん。である。
「面倒でも、駄目だよ。人に迷惑かけるのは……」
やる時はやる人である。
それは、料理に対してもそうである。異世界に来ても『和食』を食べられるのは、母さんのおかげ。
「母さんの料理で勇気付けられる人もいるんだから。私もお昼は、……母さんの料理食べたい。」
「小夜がそう言うのなら……母さん、頑張る。」
アオイがガッツポーズを取る。その背後に、メラメラと燃え盛る炎のようなモノが目に見える。
「それじゃ!母さん、もう行くね!!小夜も体調に気を付けること。いいね!」
「はいはい。分かったから早く戻って!!」
小夜は、アオイを押して部屋から追い出した。
そして、再びベッドに戻ってからうつ伏せた。
私の職業は、《侍》。転移した人の中では私だけ、という結構、レアな職業である。
転移した私達には、それぞれ適した職業という物があるらしく、
孝希が《剣士》、恵が《槍使い》、好太郎が《精霊使い》、真理亜が《回復魔法士》である。
他ににも《盾使い》であったり、《呪術使い》など。
転移者の特典らしく、その適正相応の武器を扱えば、その熟練度が素人のそれではなく、達人並みになってしまうという。
「あ、そういえば……武器………どうしよう」
見慣れて来た天井を見上げながら、そう呟く。
こちらの世界では、『刀』と呼ばれる曲刀片刃武器が存在しないらしく、私の職業にあった武器が手元に無い。
長刀は存在するのだが、練習で使った限りではしっくりとした感覚が無い。使えない事もないが、上手く扱えない。
午後から実戦となると、今回は、武器庫にあるロングソードを使うしかない。
エルメス様に言えば、出来る限りは準備してくれるとは、言っていたが『刀』に関する知識なんて、一般人の高校生である自分が知る筈がない。
――――いわゆる手詰まりである。
だけど、刀が無いと、《侍》の力も半減である。
「考えて………も……しょうが……無い……」
眠気が襲ってきたためそのまま身を委ねて目を瞑る。
意識がどんどん沈んでいき次第に意識が消えていった。




