河野という男子生徒
続きを更新します。
今回は、小夜回に戻ります。
「見てろよ!俺の『火球』を!!」
自慢げに火魔法【火球】を手の平から打ち出し的を撃ち抜く。派手な爆発音の後、的が黒炭となって転がる。
周りにいるグループメンバーの少年達がわーわーと、歓声を上げる。指揮する兵士の人達も驚いた様子。
「………男って……」
「―――『ばか』。でしょ♪」
その様子を窓から眺めていた小夜の言葉を矢継ぎするようにマリアが答えた。
「マリア〜!勝手にセリフ取らないでよっ!」
「ふふ!ごめんごめ〜ん!」
ぽかぽかと拳を振るう小夜を笑う真理亜は楽しそうである。
「さよちゃーん!マリアちゃーん!行くよ!!」
そんな二人のじゃれ合っている姿は、こんな異世界へと転移してからも変わらない。唯一、変わったことといえば、恵とその他男二人がいつも傍にいる事だろう。
「待ってよ〜!!ナナミ〜ン!」
広い宮殿の廊下を急いで走って小夜と真理亜は、先にいた三人に追いついた。
三人と常に一緒にいられるのは、子どもの頃だけであった。成長した今、こんな風に一緒にいられるのは全く想像していなかった。
「今日は何するんだっけか?」
「魔法の教義の後、実践訓練で森に。だよ、コウキ君」
「女の子に実践か〜。男としては〜、ずーっと、俺が守ってあげるのに〜。」
「誰彼構わず、女の子ばっかりに手を出すコウタロウ先輩に、私は、守ってもらいたくありませんよ。
……ほら、また来てますよ。」
目で指した先には、どこぞのご令嬢方が眼をキラキラさせている。異世界から来た私達は、魔力が常人より多く、なお且つ、将来有望な『物件』として召喚され、パレードで公に紹介されてからは、そんな事が日常茶飯事と化していた。
好太郎がにこやかにご令嬢に手を振ると黄色い歓声がご令嬢からあふれ出る。なんというか、異世界であっても、そういうのは、変わらないようだ。
スーパースター、あるいは、アイドルと熱狂的なファンの構図が頭の中を右から左へと流れていく。
「将来の貰い手があっちより、こっちで多いのは良いんじゃないかな〜。サヨちゃんにも、来てるんでしょ?」
「そういうのは、『無視』してます。そんな人達には、どうせ、"裏"があるに決まってますから。」
「男に冷たいね〜。サヨちゃん。誰の受け売り?」
「―――『母』です!」
「……おう、流石は、元・女王様だ〜。」
「……なんで、コウタロウ先輩が母の昔の二つ名を知っているんですか!?」
「俺達の学校では、伝説だよ〜。な、コウキ♪」
「ん?ああ、そうだな。」
母は、―――高校時代。
家の地元の学校には行かず、隣の県である今のメグミン達が通う学校へと通っていたそうだ。
昔からその美貌は凄まじかったらしい。
当時、
告白してきた男子を何人も枕を濡らさせたそうだ。
その事から、当時の学校の中では、『美しき女王様』というあだ名を(男子の間で)されていた。
本人は、嫌らしく。
あまり家族の間では、その話題に触れないが……。
今でも衰えず、三十路を過ぎても老けた様子はない。
その"人を魅了する力"は、異世界に来ても健在。顔の偏差値が最も高い、いわゆる『イケメン』達がこぞって母に群がっていたが、軽くあしらわれていた。
娘としては、ちょっと複雑であるが。
あんな家族を顧みない父親より良い男と『再婚』して欲しいとも思う。
「マリアちゃんも、来ているんでしょ?……お誘い」
恵と話していた孝希が真理亜に話し掛けた。
「あ、はい。ですが、断らせて頂いてます。私には過ぎた物なので……。」
ここ数日で、ぎこちないながらも男である孝希や好太郎と真理亜はよく話すようになった。
パーティーがこの五人であるというのもあるが、『異界に呼ばれた者同士』という共通点が仲を深めるきっかけになっている。
「サヨちゃんは………」
「当然、断ってますよ。コウキ先輩♪」
「さよちゃん……。」
それを聞いていた恵が苦笑する。そう言う恵も、お茶会の誘いが山程来ているが断っているのだ。
お間合いの誘いも山程届くが、その他にもご令嬢とのお茶会なんぞも来ている。どうやら、異世界の話がお茶会の場で聞きたいようだ。
「おや、奇遇ですね。このような所で。」
曲がった先でばったりと他のパーティーの人達と遭遇した。
「うぃ〜、カイトか〜。いつも図書館に籠もっているのにどったの~?」
好太郎が『カイト』という眼鏡を掛けたリーダーに話し掛けた。
「魔法の勉強をしていたのですが、どうしても分からない部分があった物ですから、エルメス殿に話を聞きに行こうと思ったのですが。……知りませんか?」
「確か、魔法実習の『塔』にいたと思うぞ。」
孝希が少し考えた後、思い当たる場を言った。『塔』とは、この宮殿と王宮を挟んだ先に設置された所で、大魔法の実習に私達がよく使う所である。
魔法に対する強力な結界が張られていて、魔力が暴発を起こしても安全なように作られているらしい。
「貴重な情報をありがとうございます。私達は、そちらに行って見ます。では――。」
そう言ってそのグループとすれ違って行く。
気のせいだろうか。一瞬、そのパーティーの一人に睨まれた気がする。
「あ、そうそう。好太郎君に、孝希君。それから――恵生徒会長。僕達のパーティーに入りませんか?」
すれ違った後、立ち去ろうとした所でそのリーダーは、そう言って来た。
「僕達のパーティーは、魔法を主体に組んだパーティーです。そこに三人の強力な前衛が加われば、魔王にも太刀打ち出来るパーティーになると思うのですが、
……いかがでしょうか?」
その勧誘は、背筋が寒くなる。なぜだろう。
勧誘?いや、脅迫に似た何かを感じる何か。それが小夜の背筋を走らせる。
「……俺達以外にも、強力な人は他にもいると思うが、例えば、来栖の双子、鉄壁の富樫とか。俺達を誘う理由は何だ?河野」
「―――理由ですか。二つあります。
まず、一つ目は、先程も申した通り、あなた方の強力な力です。運動神経が抜群な高野君。その高野君と相棒を組んでも噛み合ったチームワークをする好太郎君。そこに槍術を携えた恵会長が加わる事で『最強』と揶揄出来るでしょう!
そして、二つ目。それは、御三方は『信頼』出来る存在に足る事です。
………パーティーで最も重要な事は何か。
それは、――――『信頼』。
信頼がなければ、チームプレイも出来ません。お互いの足を引っ張り合うだけ。それはパーティーとして以前の話。生徒会長として、皆を引っ張り続ける会長は当然として、サッカー部で皆を取りまとめる二人。正直な話、僕達は、あなた方のその力で皆を『勝利』へ導きたいのですよ!会長、高野君、好太郎君!!」
眼鏡の奥の細い目がギラギラと光る。瞼に隠されていた暗闇が広がるその目は、自分の恐怖を駆り立てる。
正直、この人とこれ以上向かい会いたくない。
寒気の他に、自然と体が拒絶反応を起こし始める。
なんだ、この人は……。
体の震えが収まらない。
収まれ、収まれ、おさまれ、オサマレ!!
肩にそっと、何かが触れた。
両肩に触れたそれは、恵と魔力の『手』であった。
「……そこまで評価してくれているのは、正直、嬉しい。ありがとう、河野。けど、俺は断らせてもらう。
既に俺は、この五人とチームを組んでいる。
組む前ならまだしも、組んでから勧誘されても俺個人がどうこうは出来ない。さっき、お前も言っていたがパーティーは、チームプレイ。俺が抜けてパーティーに穴を開けるわけにも行かない。」
「………なるほど。その言葉は、一理ある。好太郎君はどうだろうか?」
「ん〜。確かに良い話だね〜。考えるだけ考えておくよ〜。」
「そうですか。では、会長は……」
「お断りさせてもらいます。後輩の二人もいます。何より、その話は、私達だけ―――ですよね。私達が抜けた後、この二人が行くあてがない、なんて事はしたくありません。」
「ナナミン……」
凛々しく、そして、力強いその瞳には、硬い決意に似た何かが込められている。
「そうですか。そちらのお二人も僕達のパーティーに招待しても?」
「………変わりません。先程からこの子、震えが止まらなくなっています。
この子を怖がらせる海斗君とパーティーを組むつもりはありません。……それでは。」
恵と真理亜が小夜を連れて先にその場を去る。
その場は、海斗とパーティーメンバー。
それから好太郎と孝希のみ。
「そろそろ教義の時間だ。それじゃ、河野」
孝希もそう言い残して去り、残ったの好太郎のみ。
「カイトさ〜、女の子を誘うなら〜もうちょっとその顔、どうにかした方が良いよ〜♪」
「顔面をダメ出ししないで下さい。僕の顔は、元々こう、ですから。」
「そっちの顔じゃないよ〜。もう一つの顔。だ〜よ♪それじゃまたね〜♪」
手の平を後ろにひらひらさせて、去って行く。その好太郎の背後を河野 海斗は、いつもの顔でずっと見つめていた。




