私が見ている
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「それで、………いつまでここにいらっしゃるのですか?」
不機嫌そうなソフィアが書庫内で寛ぐネスクを見る。
だらしなく椅子に腰掛けたネスクが本を読みふける。
はぁ、と一息ため息を漏らしてソフィアはネスクの向かいの席に座る。以前、皆が書庫に来た時のゴスロリチックな服ではなく、いつもの純白のドレスを着ている。
自身も座って本を読むつもりだったのか手に持った数冊の本を机に置く。
この一年、主人であるネスクを傍て見ていたため何となくは、分かる。
「………現実に、……戻りたくないだけだ……。」
遠い目をしたネスクがソフィアに力なくそう告げた。
「現実逃避はよくありません。きちんと現実を見るべきです。」
「……いやだ。」
「いやって……。あなたは子どもですか!」
「だって、子どもだもん!」
ネスクが稚拙化した理由を知るソフィアはちょっと複雑な心境。本人には、現実に戻るよう言ったものの、このままやさぐれてしまっては、相棒としては困るのだ。大きなため息をもう一度零した。
「相手は、子どものする事です。いつまでも引き摺っては、オオヅキ様。貴方様の器の大きさが知れますよ!」
「けど、な………。」
ここ数日、ネラというカラス人族の少女によって、ネスクの心がズタボロになるまでに傷付いてしまった。
物を隠されたり、作った物を壊されたり、免罪を被られたりと。
過去に受けた事と類似する部分が多い事が原因の一類なのだろうが、ネスクの精神が荒波のように波立っているのだ。
「……仕方がありません。オオヅキ様、隣へどうぞ。」
「?」
ネスクがソフィアの意図が分からず、首を傾げる。
「いいから、早くして下さい」
ネスクがおずおずといった感じにソフィアの横へと移動した。
「 ! ソフィア!?」
「私にこんな事させるのは"これ切り"にして下さい。」
数個の椅子の上に寝かせてソフィアの膝の上にネスクの頭が来るようにする。
「貴方様はよくやっております。人に敵意のみを向けるあの少女の為に……」
拗ねた子どもを宥めるようにソフィアがそっとネスクに言い聞かせる。
ネスクの頭の中では、絶賛・大パニックを起こしている。――どうしてこうなったのか。理由をあれこれ模索しては自問自答。
だが、そんな理由を説明出来る言葉は存在しない。
「オオヅキ様。いえ、今は敢えて―――ネスク様――と呼ばせて頂きます。私は、貴方様を傍で"ずっと"見ています。貴方様の努力も、寄り添おうとする優しい心も。
その優しさは、少なからず、あの少女に影響を及ぼしています。だからどうか、折れないで下さい。
決して届くことなどあり得なかったあの少女に影響は、時間が経過すれば、する程出ていますので……。
覚えていて下さい、愛しい主様。」
優しい声音の時折、頭を撫でられる感覚がネスクの頭を冷静にさせる。少女の言葉が現実逃避へと、ことを進めていた心に火を灯す。
人は誰しも他人から認められることを望んでいる。
誰も見ていない、誰も気づいてくれない事は、
―――時として、その人の心に影を落とす。
ネスクの中で何かが吹っ切れた。
「ありがとう、ソフィア……。」
自然とその言葉が零れ出た。心の奥底がすっきりした気がする。心の中を覗かれるのは、少々困っているが、今、この時ばかりは……、それが出来るソフィアに感謝。
「良いですか。もう一度、敢えて言いますが、本当に今回だけにして下さい。私はそんな軽い存在では、ありません。この世で唯一の存在なんですから。」
さっきの優しいソフィアは、どこへやら。でも、今はそんなツンツンするソフィアがとても可愛らしく見える。
「弱い所を見せたな。もう大丈夫だ。サンキューな。」
寝転がった体を起こす。ソフィアの上にもっと頭を置いておきたい所ではあるが、いつまでも甘えてはいられない。
「……元に戻りましたか?では、(現実に)戻られるのですね。」
「ああ、そうだ。ここは、居心地が良いからもっといたいが、流石に二日間もこっちにいたからな。戻らないと、クー達に心配かける。」
「"時、既に遅し"ですよ。クーシェ様方、心配されてます。早く行ってあげて下さい。」
「ああ、それじゃ。またな、ソフィ!」
「―――そうでした。一つだけ、お耳に入れておきたい事があります。」
「ん?なんだ?」
「『勇者召喚の儀』が彼の共和国・ヤグラシアで行われました。これにより、勇者達が召喚されました。いずれ、オオヅキ様方の前にやって来ると思いますので、お気を付けて。」
「……分かった。気を付けよう。」
そう言い残し、ネスクは鍵を反回転させた。
その瞬間、光りに吸い込まれて消えたのであった。
取り残されたソフィアは、持って来た本を広げる。その本は、書庫内に"新たに出現した本"で、勇者に関わる内容が記されてある。
「何も起きなければ、良いのですが……」
傷心状態であったため、敢えて口には出さなかったが、その記された中には、少年と縁がある少年少女達の名が記されているのであった。




