心に掛かる影
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「ネスクさん!こんな感じですか?」
「……魔力を込め過ぎだ。全体を平均で、だ!
そう!全体へ…。ああ、次は右……!
肩の力を抜いて…」
休憩、兼。他グループの観察を終えて特訓を開始した。フルールに魔力の流れへの意識をさせつつ、まだ魔法になる前の純粋な魔力のみ。の状態で、全身に膜のようにする指導をする。
こればかりは、口で言うより実際にしてもらった方が実を結びやすい。
フルールが全身に魔力を込めて膜を生み出そうとしているのだが、力み過ぎて魔力の巡りが右、左、右――と偏ってしまう。
「もっと力を抜いて……そう。その感じだ。」
左右上下対称、全体へとまんべんなく魔力の巡りが行った所で止める。教えているのが一人のため、フルールとワンツーマンで指導する。
ネラは、特訓に戻ろうとした所でどこかへ行ってしまった。一人で遠くへは行かないと思うが、魔物避けの結界は張ってある。
「………これが……分かりました!覚えました!それからこのあとはどうすれば?」
「流した魔力に色付けだな。イメージは、いつも通り。『空を駆け、大きな音を鳴らす力強く、されども、その速さは、人の目には追いつけない駿足。
―――稲光と共に衝撃が地へと落ちると、大地を揺らす。』」
フルールの纏う膜にピリッと電流が走る。
額の角が淡く光り出す。あの額の角は恐らく特殊な魔力器官になっているのだろう。
本来の魔力制御の負担が自分程、―――人族ほど掛かっていない。『雷の魔法』は、魔力制御にかかる負担が大きく、非常に不安定な魔法。ちょっとした体調不良でも、発動出来なくなるほど"気分や"な魔法なのだ。
その不安定さがフルールからは感じられない。
非常に安定した魔力回転をしている。
「あ、あの、魔法はどうされますか?」
「君のやりたいようにしたらいいさ。さっきもいったけど、いつも通りで良いよ。」
「では、―――【帯電】」
少しばかり流れていた電流が本格的に流れ始めた。『魔法名』を唱えた事でイメージが固定された現象。あとは、イメージに沿って形が変わるだけだ。
その(魔法)名の通りにフルールの体を帯電する。
【聖雷】になる前の、【纏・雷】にも似ている。
「どう、ですか?」
「………うん、良い感じだ。」
まばらだった魔法が今は、全体へと回って、とても綺麗な魔法を紡ぐ。魔法の状態を見るからに、とても純粋で優しい色をしている。
「やった!」
「その状態を毎日一回は継続してみてくれ。そうすれば、魔力制御も自然と上手くなる筈だ。その内、その状態からの応用を教えよう。」
「本当?約束だよ♪」
「ああ、約束だ……。と、そろそろ撤収しよう。」
辺りが夕焼けに包まれていた。
集中していると、早い物で。いつの間にか夕暮れ時へと時間が経っていた。
「ネスク様!!」
クーシェや他のみんなが手を振って呼んでいる。その中には、いつの間にか合流したネラもいる。
ほぼ全員土や泥まみれ。これは、戻ったら大銭湯に直行だろう。
ミレド組は、組み手。クーシェの方も加減した魔法での撃ち合いをしていた。
ポーアの方は、恐らく魔法陣の勉強だろう。終始地面に何か書いて教えていた。
ネモとペーレも所々魔法を使ったり、話したりを繰り返していた。
元・風呂場を巨大にした大銭湯に改装した。余裕で女性陣は入るだろう。男一人ぼっちの風呂は、広過ぎる気がするが……。
「帰るぞ、フルール」
「うん!今日はありがとうございました。とても有意義な時間でした!」
「困った時は、相談しろよ。俺じゃなくても良い。
こんだけ年上がいるんだ、
何も一人で悩む事もないんだからな。」
「っ!はい!!」
―――うん、美少女の笑顔は、眩しい。
夕日に照らされると尚更そう感じてしまう。
*****
皆の最後尾を警戒しながら、帰路に着く。
ミレドがいるため、安全過ぎるくらい安全ではあるが念の為である。先程から視線が気になるため最前を歩きたくないというのもあるからだ。
「………何か用か。―――ネラ」
頭上を飛ぶ黒い翼の少女が見下ろしている。他の少女達といる時は、ここまで高圧的な魔力は出さない。
むしろ、弱すぎるくらいに抑えている。
前方を歩く皆は気付いていない。
魔力の隠匿に長けたその使い方は、評するものを感じさせられる。
「………気安く私の名前を呼ばないで……人間」
憎悪、怒り。黒い感情に色が染まった瞳が自分を見下ろす。
「ミレドグラル様やポーア・ツェリア・ペルメス様は、手駒にしているのでしょうけど、私は騙されない。
その媚びたような態度で私達に接して来ないで、
………気持ち悪い。」
ポーアの本名を知っている。
その事も驚きではあるが、何より衝撃的な態度の変化。昼間のその年相応の雰囲気を全く感じさせられない。
「媚びたとは、心外な。俺は………ただ………」
「これ以上、私達の中に入ってこないで!」
シュッ!という音がした。
咄嗟に両腕を前に構えた所に幾つもの切り傷が出来上がった。これは、彼女の羽根による物だ。
痛々しい切り傷が包帯の下から滲み出る。
「これは、"警告"。………私達に関わらないで」
そう言い残すとネラは、先に進んでいた皆の元へと戻って行った。
「全く、危ないねぇ。俺じゃ無かったら重傷だったぞ。あの子の親はどんな教育をしたらこうなるのやら。」
「それは、仕方なかろう。未だに人族を憎む種はおるんじゃ。むしろ、これで済んだだけでも幸じゃろう。」
「……見てたなら助けろよ……ミレド」
近くの木の影から龍の少女が姿を表す。
ネラもかなりの隠匿であったが、それを超える隠匿には、お辞儀をしたいくらいだ。
「妾が邪魔すれば、むしろ話がこじれるだけじゃ。そこは、諦めよ。」
「……たく。肝心な時に使えない龍様だ。」
「龍は、些細な事には動ぜん。―――して、あの子も救えそうか?」
「お前、分かってて俺にネラを任せたな!」
昼間のあの編成には、不思議であったのだ。一人に対し、原則『一人』。というミレドが決めたルールをミレド本人が破ったからだ。
「おぬしに任せただけじゃ。何も破っておらんよ♪」
ようは、教えるのを『委託』。――物は言い様である。
「………まだ、何とも言えない。」
あの瞳に宿っていた物は、紛れも無い敵への殺意。憎い者を復讐したくて堪らない目だ。―――かつての自分にも少しばかり似た想いを持っていたから痛い程分かってしまう。だけど、先程ネラが言っていた『私達』という言葉が引っ掛かる。
「流石は、『伝手烏』。ポーアの事を知っておったのは驚いたのう。」
「ツテガラス?」
「隠密・隠匿に長けた『カラス人族』の別称じゃ。あらゆる所に彼等の目があり、耳がある。情報を無数にどこからとも無く伝えることから『伝手烏』なんじゃ。」
「へぇ〜。」
要は情報のプロということだ。
インターネットのウィ○ペ○ィアのような物か。
「ネス、腕は良いのか?」
「ん?ああ、問題無い。勝手に直っちまうからな、ほら……」
さっくりと傷付けられた傷が塞ぎつつある。身体の変化に伴い、体の再生も早くなっているのだ。
そこは、この体の唯一のメリットだろう。
「ネスもいよいよ、妾と似てきたのう。おぬしのジジイ姿はいつになったら見られるのやら。」
「どんな姿を見たいんだよ!てか、―――ネス?」
「別によかろう。ルリがそう呼んでおるんじゃから」
確かにルリにはそう呼んでも良いとは言ったし、別にあだ名で呼ばれていいんだけど……。
暮れかけた夜空をネスクは見上げる。
「明日は、―――"嵐"でもくるのだろうか。」
星空が見えつつある夜空には、雲一つ無い。キラキラ輝く星が前世で見えていた星よりも、多く見える。
「それはどういう意味じゃ!!!!」
そんな夜空には拳を振り上げるミレドの声が響くのであった。




