よーいどん!で競争
久しぶりに更新します。
「よーい。始めっ!」
ミレドの声で一斉に散らばった。
足に魔力を纏わせ脚力を増強。木の枝を踏み台に『リンゴット』をもぎ取る。
目でも追いつけない高速な動き。
一個もいでは、袋の中。
二個もいでは、袋の中。
三個もいでは、袋の中。
四個もいだら、火で炙ってお口の中。
『リンゴット』は、味の美味しさによってその年の実り方が分かる。酸味の効いた良い味。だけど、酸っぱ過ぎず、ほんのりと後から滲み出る蜂蜜のような甘さがアクセントになっている。
今年の『リンゴット』は、豊作のようだ。
「これ!クーシェ!面倒じゃからといって木を丸ごと燃やすで無い!!」
「ごめんなさい!!」
リンゴットを収穫しつつ、他の人達の様子を横目で見る。それぞれ自分にあったやり方で収穫している。
クーシェは、以前見せてもらった炎を円盤状に薄く伸ばして斬るやり方を応用して枝に繋がったリンゴットのヘタを斬っているのだが、元が『火』の為、消しそびれた火が枝に引火しそうなっている。
ミレドは、剛力を利用して木の幹を思いっきり引っ叩く。すると、ゴロゴロ上から振ってくる。
だけど、剛力故に、加減を誤って木の幹に大きな穴を開けるのはどうかと思う。
カレンさんは、…………。
鋭い剣撃でリンゴットのみを切り落としている。
段々とミレド色に染まっていっている気がする。
「【フェルペ・プラント】」
手の形をした植物がポーアの周りに出現する。無数に生み出されるその植物がリンゴットを刈り取っていく。
見事な制御をこなし、一個。また一個と、徐々にその数を増やしていく。
「千手観音かっ!」
猫の手ならぬ、植物の手を借りるポーアにネスクがツッコミを入れる。自分の手のように器用に魔法をこなす。
「皆さん早くしないと、わたくしが全て刈り取りますよ!」
「負けません!!」「負けてなるものか!」
珍しく挑発的なポーアの言葉でミレドとクーシェに火を付けた。
―――おっと、俺もうかうかしていられない。
瞬間的に掛けていた魔力を、持続する『魔法』として発現させる。
「【聖雷】」
手慣れたもので、呼吸をするように自然に発現する。
白い雷が空気中で接触し合って弾ける音。それ以外は、無音に近い静謐さで空中を駆ける。
「はっ!よっ!とぅ!!」
段々、楽しくなって行く。
あのペルメス国の時より、魔力制御が格段に上昇した事で空気中に魔法の展開無しで、"電気磁場"を生み出せるようになった。やろうと思えば、空気中で自由自在に動ける。
それを駆使しながら指先から小さな電気の針を飛ばす。すると、リンゴットのヘタを的確に打ち抜き、地面へと落下していく。そこを上手に『魔法の袋』に収納する。
「そ、そこまで、―――です。」
頭上から水しぶきが降って来た事で皆の動きが止まった。俺も発電していた【聖雷】を止めて地面に着地する。
この水しぶきは、《人魚族》の『パルメルス』の水魔法である。
開始は、ミレドがして、
終了は、パルメにして貰ったのだ。
「……集計!」
ルリの掛け声で待機していた他の子達がそれぞれの集計を行って行く。
ポーアには、同じ種族であり懐いているフィアール、クーシェには、《キツネ人族》であるマロン。
カレンには、パルメルス。
そして、ミレドに《一角馬族》のフルール。俺には、《烏人族》のネラが。
トテトテと歩いて来て、ネラがどうすれば良いか。分からずにいる。
「…………はい」
腰に取り付けてあった袋を中腰になって渡す。
手をびくつかせながら、ネラが両手を伸ばす。その上に、渡し終えると集合している輪の中へと駆けて行った。
始めの悪印象はともかく、数カ月同じ屋根の下で過ごしていて彼女達との接触方が多少分かって来た。
同じ目線で真っ直ぐ見つめてなるべく優しく話したり、聞いてあげる。―――もっとも、後半は懐いている子以外は殆ど無いのだが。よく話し掛けてくるのは、
以前、助けたパルメにフルール。そしてルリ。
特にルリに関しては、カルガモのように後ろにくっついて来る。本人は、あまり喋らないので何を考えているのかよくわからない。
「………終わった、発表………」
「いちばん集めたのは…………」
二人の小さな司会が集計した数の中で一番多く採った人を発表する。パルメの長くもあり、短くもあるタメは緊張感を募らせる。ジャカジャカ――と、ドラムがなりそうである。
「――――『ポーア』さん、です……!」
皆から温かい拍手が湧き上がる。
かなりの僅差であったようだ。
俺とミレドが同数の五十六個。
カレンさんが五十五個。
クーシェがリンゴットを燃やした事もあり四十九個、そしてポーアが五十九個。
「ポーア、おめでとう!」
「うむ、見事じゃ!」
「凄いですポーア様!」
「見事でした。ポーア様」
「あ、ありがとうございます!皆様も素晴らしい魔法でした。」
ポーアを4人で褒め称えると、照れた様子で返事を返した。魔法の制御もさることながら、本当に綺麗な魔法であった。あそこまで幻想的に使いこなすのは、無駄な魔力を消費していないからだ。
日頃から魔力制御の鍛錬を行ってい成果の表れ。
………それにしても、ミレドは相変わらずであった。
"ハンデ"を抱えているというのに、全くハンデになっていなかった。
ミレドのハンデは、『魔法を一切使わない』『攻撃時は、片腕のみ』―――というハンデであった。
地の強さが表立って現れるハンデであったのだが、元の力が強い為、ハンデとしては物足りないくらいだったのだろう。
「さて、お次は、そなたらチビーズの力を見せてもらおうかの。ほれ、来たぞ。」
ミレドの声で辺りを見渡すと、ギラギラと赤い瞳に囲まれている。それは、俺がこの世界に『転生』して、初めて遭遇した魔物。
―――――『テウメッソ』の大群である。
「本当にルリ達だけでやらせるのか?」
「当然じゃろ、そうせんと、チビーズの為にならんじゃろ。おぬし、少し過保護過ぎるのではないか?」
「それにしたってなぁ。」
ざっと数えただけで五十近くはいる。
虎はわが子を強くするためなら谷に落とすという言葉があるが………これは谷どころか、地獄の底に落とすレベルなのではなかろうか。
グルルルル、ガウッ!
一匹のテウメッソが先駆けに飛び出した。
相手は、本気で怒っているようだ。それもそうだろう。リンゴットをここまで乱獲したのだ。
我慢を通り越してしまっているのだろう。
先駆けのテウメッソが一番近くにいたルリへと二本の長い牙を剥き出しにして飛び掛かった。
「ルリッ!」
咄嗟に魔法を発動させようとするも、ミレドが片手を上げて静止させられた。いや、その必要は無かった。
「【風の刃】」
無詠唱魔法が空中でテウメッソを2つに解体した。
「……1ポイント♪」
無表情に近いルリの口元の端が僅かに釣り上がった。
いつになく楽しそうである。
ルリの速攻を皮切りに残り五人が動き出す。
それに釣られてテウメッソの大群が押し寄せる。
それぞれが独特な戦闘スタイルを使いこなす。
ペルメスでは、子どもの頃から魔物と対峙した時の対処法でも学ぶのか。
「【風の緩衝】【風の弓矢】」
ルリへと向かったテウメッソが何かで突然、弾かれたように後方へと押し戻された。そして、戻された所を稼ぎから生み出された無数の矢が射貫く。
「こ、こないで下さい!【水球牢獄】!!」
パルメルスへと飛び掛かったテウメッソは彼女の体に触れる前に大きな水の球に閉じ込められた。ジダバタと中で暴れているが、次第に動かなくなる。
「やっ!!」
雷を纏った小さな躯体がテウメッソを殴る。その瞬間
電撃がテウメッソの体に流れ後方へと吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ先にいたテウメッソを巻き込むと吹っ飛ばしたテウメッソに流れる電撃が次々に周りのテウメッソへと流れていく。
「『我らが母たる大地よ、その御力を示せ』【地奮起】!!」
テウメッソが地面の変化に巻き込まれて刺し貫かれた。それを操ったのは、キツネ耳の少女、マロン。
幼いその容姿とは裏腹にやってる事がえぐい。
黒い影がテウメッソ達の合間を通り抜ける。狙いすましたテウメッソが上空へと飛び掛かるが空中でひらりと躱して上空へと舞い上がる。
カラス人の象徴たる純黒の翼が日差しを背後に浴びながら空を舞う。
「『我が召しますは、冥府の王。その力に叶う者は久しく、我の剣となりて、―――喰らえ』【影喰】」
先程、通り抜けた所にいるテウメッソの影が膨張する。そして――――
その足に影が絡み付いた。それは、黒い"手"。
伸びた影の手がズルズルと影の中へとテウメッソを引きずり込んで行く。
そして、綺麗さっぱりと無くなった。
(……なんだ、……今の魔法………)
見たことの無い魔法である。【暴食】にも似ているが全く別物。
綺麗さっぱりと無くなった地面には、大量の黒い羽根が落ちている。羽根と魔法には、何か関係があるのであろうか……。
「【エピシミー・フローラ】い、いや!!」
フィアールが転ぶ。そこにテウメッソが襲い掛ろうと
爪を振り上げる。
「フィア!!」
ポーアが自身の羽衣を伸ばす。だが、間に合わない。
「まずい!」
足に魔力を纏わせる。今の自分なら全力で地面を蹴り出せば、間に合う。
力を込めて地面を蹴る。だけどミレドに方を掴まれて前へ動けない。
「何するんだ!ミレド!!子どもが危ないのに見殺しにするのか!!!」
「ネスク、落ち着け。よーく見るのじゃ。既に終わっておる。」
「は!?」
再びフィアールへと視線を向ける。
テウメッソの爪はフィアールに当たる寸前で動かなくなっていた。いや、動けないのだ。
テウメッソの体の内側から、ニョロニョロと長い蔦が這い出ててくる。そして、拘束して縛り上げて文字通り、指先一本も動かせないように固定してしまっている。次第にその蔦は、テウメッソの首を締め上げていき、動かなくなった。
「っ!」
ポーアも俺も。その光景を見て固まってしまった。というか、全員強すぎ。
無詠唱を使えるのは、ミレドの仕業だろうが、それにしても………。
子ども六、いや五人でテウメッソの大群が蹂躙されていく。大人顔負けのその強さは、ピカイチであった。




