寝間着〈パジャマ〉召喚
久しぶりに更新します。
これは、……夢……?なのだろうか………
真っ白な空間の中で私は、今、一人だけ。
確か、マリアとメグミン二人とお泊り会を開いて………
その先の記憶を幾ら辿っても、……そこまでの記憶しか無い。話し込んだまま、寝てしまったのだろう。
『……そう、……貴方が……呼ばれてしまったのですね………』
何も聞こえない所で急に背後から話しかけられて、
ドキッとする小夜は振り返った。
そこにはこの世の者とは思えない位。
綺麗な女性がいた。その女性に小夜は心当たりが無い。
夢は、睡眠時における一種の幻覚。現実で体験した事を元に、脳が見せる幻……なのだが、現実世界で目の前の現実からかけ離れ過ぎた女性を見た覚えが無い。
「……どちら様ですか?」
夢の中で、誰―――と、聞いても仕方が無いのだが、それでも小夜は、聞いて見る。
黄金に輝くプラチナブロンド。真っ白な古代ギリシャの人が来ていそうな布地の衣装に、どういう仕掛けかは分からないが、彼女の頭上に『光輪』がくるくると回っている。
本の中の『神様』と呼んでも、遜色無い神々しいオーラを放つその女性に思わず見入ってしまう。
『‥‥ふふ、あの子と同じ事を仰るのですね。』
その女性が柔らかく微笑んだ。元々の優しげな目元がうっすらと瞑る。そして、動いていない口元に手で軽く覆って笑った。
「………」
動作の一挙一挙に見入ってしまい小夜は惚ける。周りに美人は、多いと思っていたが、彼女程―――強烈に人の心を炊き付ける女性は、今までに会った事が無い。
『貴方にも"心の傷"がある事は、承知しています。
……ですが、姉様に喚ばれてしまった以上、世界の命運は、貴方達に託すしかありません。どうか、私の子ども達に光を……』
惚けていた小夜の意識が遠のいていく。
「ま、待って………結局、貴方は誰ですか!?」
遠のく意識の中で最後にその女性が呟いた声と共に小夜の意識がぷつりと途切れてしまった。
私の名は、
『女神セレスティーネ・フォルミュ』
子ども逹からは、―――セレネと呼ばれています。
****
「ここは………」
先程の白い夢とは真逆の薄暗い石造りの天井が遥か上空に見える。………『女神・セレネ』―――。
美しいあの女性が名乗った名前が頭から離れない。
「おおお!ついに!ついに!!」
「勇者様方だ!!!」
ざわめく声で遠い彼方にいた意識がはっきりと自身の頭の中へと舞い戻って来た。
「えっ……?」
見慣れない衣装を着た人物たちが周りを取り囲んでいる。甲冑姿に、……本物だろうか、帯刀している。
頭の隅に『コスプレ』と言う言葉が浮かんだ。
でも、今まで二人と寝ていたのに、コスプレ会場に突然放り込まれる。
そんなドッキリを受けた事は一切無い。
体を起こしてぎょっとしてしまう。
様々ではあるが、恐らく皆、寝間着なのだろう。
軽く数えただけでも三十人位。薄めの生地の服を身に纏った人達が転がっているのだ。
自分もうさぎをモチーフにした寝間着姿。
頭が混乱する中、状況を確認していると、
両隣に見慣れた顔馴染みがいた。―――恵と真理亜だ。
「ちょっ、二人とも……!」
一人だけ起きているのも心細いため、何とか二人を揺さぶって起こそうとする。
「ん……サ、ヨ……?」
「サヨ……ちゃん……どうか……したの?」
二人が目を擦りながら起き上がって来る。
「「えっ?」」
二人揃って自分と同じようにぎょっとした。
それもそうだろう。
何しろ自分も理解できていないのだから………。
「我らが希望たる『勇者様』方、召喚に応じて頂きありがとうございます。
私めは、『エルメス・フィア・クローズ』と申します。以後、お見知りおきを……。」
その場の倒れていた全員が起き上がった頃に白髪の老人?が挨拶をして、軽く会釈をした。
老人の割に筋肉質で、老人らしい弱々しい雰囲気を出していないため老人とは到底思えない。
その老人、エルメスの言う通りであれば、
―――私達は、『異世界召喚』されたようだ。
未だにそんなラノベ的展開があるのか理解できていない。両隣の二人も同じようだ。
目を見開いたまま硬直している。
「あの、質問良いですか?」
一人の男の人が手を挙げた。
「良いですぞ。えーと、そなたは……」
手を挙げたその人物に凝視してしまう。なぜなら、
コウキ先輩だったからだ。
「高原 孝希です。
『コウキ』が名字、『タカハラ』が氏名です。」
「おお!やはり、か!古文書にも書いてあった。貴殿方の世界では、そのようになっていると…!
……ふむふむ。おっと、すまぬな。して、質問とは……」
「えーっと、まず、これは〈現実〉ですか?」
「当然、現実ですぞ。夢でも幻でもなく、私が『魔法』で呼び掛け、それに呼応して[こちらの世界]へと召喚された。嘘、戯言は一切ございませぬ。」
エルメスがきっぱりと断言する。
その言葉で私達は、三つの反応に分かれる。
『異世界召喚』に喜ぶ者、絶望に打ちひしがれる者、そして、未だに頭が追いついていない者……。
「………元の世界へと戻る手段はありませんか?」
珍しくコウキが恐る恐る聞く。
それは、最も怖い回答が出るのではないかという不安がその言葉の隅々まで見て取れる。
「現時点では、不可能です。」
やはり、というか分かりきった答えに思わず、ため息を吐いてしまった。
「"現時点"ということは帰る方法は、あるのですか?」
「世界に復活するであろう『魔王』を倒せば、帰ることが可能。――という逸話がございます。
皆様が世界を救い帰りになられるまでの生活は責任を持っていたします故、ご安心めされよ。」
その言葉を素直に受け取って良い物か判断出来ないが、召喚された上に帰れないためこの老人の言葉を素直に受け取るしかない。
「エルメス様!」
階段から同じ甲冑を着た人が降りてきた。
「おお、陛下の近衛騎士の者か。いかがなされたかな?」
「はっ、『召喚』に成功なされたのであれば、勇者様を陛下の元へと皆を連れて来るようにと陛下からの御達しです。」
「ふむ、ご苦労。では、言伝を頼む。
『儀式は無事成功。勇者様方、総勢約60名を連れ参ります』と』
「承知いたしました」
テキパキと伝えるべき事柄を述べた後、左手を胸に置いてからその兵士は、言伝を携えて再び階段を駆け上って行った。
「では、王の間へお連れ致します。」
「あの、その前に………」
小夜が恐る恐る手を挙げた。
「どうかなさいましたかな?お嬢さん。」
エルメスが小夜へと視線を送った。
「あの、私。先に着替えたいのですが……、」
「『着替え』とな。何故でしょうか?」
「私のこの服、実はパジャマなんです」
「パジャ、マ?とは……」
「あ、えーと、」
言葉は通じるが上手く言葉を出せない小夜が言葉に詰まる。
「寝間着の事です。エルメス様。」
恵が小夜の代わりに言葉を代弁する。
「おお!そうであったか。すまぬな。
子どもとはいえ、女性にそのような格好でいさせるのは、紳士としては気配りが出来ていなかった。
では、早急に準備させよう。付いて来なさい。」
そう言うとエルメスは、階段を上って行く。
その後ろを周りにいた人達がぞろぞろと付いて上って行く。
「メグミン助太刀ありがとう。」
いつもはそこまで言葉に詰まるという事は無いのだが、なぜあの人と向き合うと言葉に詰まる。あの人の纏うオーラに影響されてなのかは分からないが……。
「お礼なんて良いよ小夜ちゃん。こんな状況だからね。お互い助け合おうよ。」
「うん!」
「あ、私も助けるよ。だから、何でも頼ってね」
「うん!マリアもありがとう!」
もし、この場に二人がいなければ、とても怖かったし、心細かった。二人が一緒にいた事は奇跡である。
「お、三人も巻き込まれたのか」
「偶然ってあるものだねぇ〜。」
振り返ると前日に別れた二人、好太郎と孝希がいた。
流石は腐れ縁。納豆のようにネバネバでどこに行っても同じようだ。それが別の世界であったとしても。
「二人とも、数時間ぶり。二人も呼ばれちゃったんだ。」
「おう、恵。俺はあの後、帰ってからいつも通り寝たんだが、……この通り」
「右に同じく〜♪」
何はともあれ、顔見知りがこんだけいれば怖いもの無しだ。今なら熊が来ても勝てそう。
「あれ?サ、ヨ?」
急に呼ばれてほぼ反射的に振り向いてしまった。
そこには、一人の女性。周りとそれほど遜色無いくらい若い。スーツを着て、髪を後ろに一つにまとめている。自分が最も知っている人。
「お、お母さん!!?」
そこには、小夜の母親『嵐山 碧海』の姿があった。




