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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
3章 勇者召喚編
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光が舞い降りた日

更新します。

 ローブを引きずりながら、地下へと繋がる階段を下りていく一人の老人。―――共和国の大賢者、エルメス。

 シワだらけになった左手には、自分が長らく愛用する魔法の杖を持って、長い階段を一段一段噛み締めながら"今日"という日が来た事に、少しばかり心が緩む。


(ようやく、じゃ。ようやく長年の念願が……)


 準備から始まり手回し。必要な物の調達まで。

ありとあらゆる事をこの今日という日のために費やしてきた。世界を変える新たな1ページが今日、歴史に刻まれるのだ。

―――『召喚の儀』。


 この世界で数回程度しか行われた事のない大魔法だ。


 階段が終わった先は、

石畳の広い地下空洞が広がっている。壁に松明が幾つかか掲げられ、数名の騎士が壁沿いに沿うように円形に一定距離で配備され、その中央に"例の魔法陣"が描かれている。


「――皆の者。今日という日が訪れる事が出来た事に感謝する。これより、陛下より賜った"勇者召喚"を行う。万が一の時に備え、厳重な注意を保ってくれ。」



「「「「はっ!」」」


 配備された騎士逹がエルメスに向かって左手を胸の前に置いて敬礼をする。

 膨大な魔力を扱う勇者召喚は非常に危険な魔法。失敗すれば、魔法が暴走し爆発を起こす可能性もある。


「さて……」


 古文書に書かれていた文章を思い出しながら、魔法陣に必要な『手順』をしていく。

 勇者召喚は、この世界が異なる世界。『異世界』へと、助けを求める為の『扉(ゲート)』である。

 その開閉は術者。つまり、自分である。

―――その重たい扉を開けるには、人間の魔力では開けられない。人間以外の種族であっても不可能。

 魔力に精通しているドルイド族やエルフ族。魔力量が最も多い人魚(マーメイド)族であったとしてもだ。


「女神セレネ様からすれば、………外法も良い所だが、仕方ない。時(・)空(・)神(・)様、我らが懇願をお聞き下さい。」


  この世界を創造した女神・セレネは、どこからやって来たのか?


 それは、この世界の神秘にして、純粋な疑問。自分がそれを疑問視したのは大昔。


  確か、『成人』となる十六の年だったか。


 十六となった者は、

その一年の始めに教会で『成人の儀』が行われる。

 そこで神父に聞かされる『聖本』の内容を疑問になったのが、きっかけ。

 女神・セレネは、神のいる世界で生まれ、人界へと下った。それが自分が考えた結論。


 ならば、他の神が存在している筈。


 推論を確定させるために国の中にあるありとあらゆる書物に目を通した。

 大賢者となったのも、その末。

 全ての書物に目を通して分かった。

『勇者召喚』は、時空神と呼ばれる神『フロス』が生み出した魔法である事を……。


「よし……魔力を全体に至らせた。では、……始めよう。」


 自身の魔力を杖を通じて薄く伸ばして魔法に注ぎ込んだ。これは、発動させる者の魔力が始めの『起動』に必要なのだ。


「誰か、例の物を………」


「はっ!」


 後は………



 懐からある物を取り出す。

 紫の煙が水晶玉の中で渦巻く。

その玉は、一年という歳月を掛けて大陸中から集めた魔力を込めた玉。―――『吸魔の宝玉』と呼ばれる聖(・)遺(・)物(・)。


「エルメス様、持って参りました。」


「ご苦労、では陣の中央へ……」


 兵士が運んで来たそれは、台座に乗せられた大きな器である。その中には、小さな火が今にも消えそうになりながら揺らめいている。


―――それは、何年か前。

 とある部族から拝借した女神・セレネ様が作ったといわれる神(・)器(・)。名を――〈篝火(アーギオ)〉という。

 この神器の火は、人々の『希(・)望(・)』を焚べて使い手の魔力を増加させる効果を持つ。

 エルメスは、その器へと手に持った『吸魔の宝玉』をいれる。入れた瞬間、ボワッ!!と、小さかった火が大きくなって天井高くまで炎が上る。

 それと同時に魔法陣が淡く光り出し、次第に大きな光の柱となってその場を支配する。


 それは、魔法が完成した瞬間。

 そして、人々に希望を与え、復活を果たそうとする『魔王』への切り札。『勇者』が呼ばれる合図でもある。


****


「っ!?」


 ディルは、明後日の方向へと視線を送ってしまった。



「ディルも気づいたか……。」

「はい、空間が………ズレたような感覚がしました。」


「んが……。んがっ!……んが……」


「こやつは呑気じゃのう!自らの教え子がこんなに心配しておるというのに!」


 いびきを掻いて寝るグラスをへーガスは、

ゲシッ! ゲシッ! と、足で蹴る。

 既にいつもの姿へと戻ったへーガスの両手(翼)には、フィーを大事そうに抱える。


 今頃になって、戦いの最中に出来た頬の傷から痛みがこみ上げる。戦いの最中は気づかなかったがかなり深い所まで切っているのだろう。

  既に敵・ヒィルガルムが撤退してから数刻過ぎている。周辺には、ヘイズが連れて来た兵士が警戒しつつ、被害への対処をしている。


「ディル様、少し見せて頂きます。」


 傷の具合をヘイズが見てくれる。



「……かなり、深く傷が行ってますね。これは、顔に傷跡が残るかもしれません。取り敢えず、応急手当しておきます。」


 少しするとヘイズがそう言う。

 ヘイズが自身のハンカチに木製で出来た水筒の水を注いだ後濡れたハンカチで傷口と流れた血の跡を拭く。


「すまぬな。儂の為に顔に傷を作ってしもうて……。」


 頭を下げてくるへーガスにディルは、首を横に振る。


「……アナタの命と比べると大した事ありません。全員の命があるだけでも幸運だったと思います。」


 一度は諦めて、命を投げ出そうとした。

 そこをグラスに救われた。俺に謝罪を述べるのではなく、一番の功労者であるグラスを労うべきだと進言する。


「グラスにも後ほど何らかの形で礼をしよう。ディル、主にもな」


「そんな物必要ありません。今回の事で……色々と実感しました。その自覚だけで充分な体験でした。」


 今回は、相手が本気では無かった為良かった。

 ヒィルガルムが行った通り『遊び』だったのだろう。

そして、そんな『遊び』のヒィルガルムを一撃で仕留めたへーガスの"強さ"も遠目ではあるが、しっかりと焼き付けた。


「もっと、強く……でなければ、……」


 妹も、ドルイド族も、国も……

―――何も守る事が出来ない。

言うなれば、この傷は自らの弱さへの戒め。


「へーガス議長少し、お願いがあります。」

「何じゃ、改まって……。」

「時間のある時で良いです。俺に………」







―――――   修行を付けてください。





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