闇の住人
更新です。
「お前は……絶対に……許さねぇ!!」
グラスの闘志がメラメラと燃え上がる。グラスが一歩動く度に地面に亀裂が走る。
「なぜだ……なぜ霧の中でも動ける……」
黒羽のフクロウが放った霧は、常人であれば吸った瞬間に眠ってしまう程、強力な睡眠作用を含んだ霧。それを吸いながらも普通に動けるグラスに驚愕を隠せないフクロウが上空で佇む。
空気を伝い強烈な魔力がグラスから漏れる。
強面の顔と屈強な体。そこに強力過ぎる魔力が加わると普通の者であれば、グラスを恐れる。
子どもであれば、尚の事。そんな街の子ども達を怖がらせない為に、普段は、その精密な魔力制御で上手くコントロールしている。その魔力が漏れるということは、
それぐらいグラスの感情が昂ぶっているという事だ。
「霧が効かないなら、"切り刻んでやる"!!」
「グラス!!!」
フクロウがその翼を羽ばたかせた瞬間、風の刃が地面を切り裂いた。
地面に亀裂が入り、突風が巻き起こる。
数キロ離れているディルの所まで下から上に向かって風が吹き荒れる。その強い風に、ディルは顔を両手で庇う。
「ふははは!!まさか、一撃とは。霧の中で動けた事は驚いたが動けただけ。今となってはどうでも良い。ふはは、ふはははは!!!」
黒羽のフクロウが口を押さえず高らかに笑う。
地上で起きた事に堪らずディルは凝視して固まってしまった。
「グラ……ス………グラス!!」
巻き上がった砂煙が収まった先には、
―――グラスは跡形も残さず消えていた。
「ふははは!さあ、ディル。我が同胞になれ。
他の奴らもお前の実力を見せれば納得するだろう。
ああ、言っておくが、もし断れば対象諸とも砂煙になるまで破壊し尽くすだけ。――さぁ、我らが元へ。」
その言葉に背筋が凍りついた。
それはつまり、自分が断れば、へーガスもドルイドの皆も殺されるという事だ。
選択肢は始めから存在しない。
目の前のフクロウは簡単にそう言ってのける。その位の力は持っているという事。
「答えは、『一つ』しかない、……ということか。」
「流石は俺が見込んだだけはある。話が通じて助かるぜ。」
更に黒羽のフクロウが上空に上昇する。
くちばしから不敵な笑みを浮かべ、真っ赤な瞳がいつの間にか濃い紫に変化した瞳で見下ろす。口では笑いながら、目は笑っていない。
それは、いつでも街諸とも葬れるという自信の表れ。その誘いを断わった瞬間、街が灰燼となる。
「くっ……」
「お前には選択肢など与えない。俺が決めた事は、
既に決定事項だ!今している『遊び』は、お前を挫く為の俺の心遣い。さっさと、心を折らせて貰う。」
焦りと絶望感でディルの反応が遅れた。
グラスに向かって放った風の刃がディルのいる木に放たれた。
木の破片がディルの頬に傷を作る。
分厚い木の枝が根本から裂かれて重力に従い枝ごと真っ逆さまに落ちていく。
ああ、俺は………どうすれば良い。
思考は読まれ、体に力が上手く入らない。
更に睡眠の霧が立ち込める地面が真下。落ちれば重傷。上手く着地しても霧で戦えない。相手の能力も不明の上、こちらの手の内はバレている。
グラスも既にいない。
こんな希望も無い現実に何の意味があるのか。
地面が近付く中で抵抗する事を諦めたディルが目を閉じる。もうすぐ、全ての事柄が終わる。
――――もうどうでも良い。
「まだ諦める瞬間じゃねぇ!!!」
急な浮遊感と同時に上へ引っ張り上げられる。
「なっ!?」
「てめぇは、一回落ちやがれ!!!」
フクロウの驚く声がした後、
ディルとは逆に重力に引っ張られる。その体には、蔓が巻きつけられている。
「ぐはっ!!!」
「捕まえたぜ!」
フクロウは地面に叩き付けられた。
叩き付けられた体勢のまま霧の中を見るとその先にはグラスがいた。
「グラス、どうやって……」
崩れ落ちた枝とは反対側にある木の枝に蔓で縛り上げられ宙づりの状態でディルが驚く。
「お前、俺の攻撃を受けてなぜ生きている!?」
「前の『型』だったら、お前の攻撃で死んでいた。
だが、ネスクの坊主に教わったコレなら痛くも痒くもねえ!!!」
三ヶ月前、グラスはネスクが滞在中。とある魔法を伝授されていた。魔法名【暴食】。
魔法発動者が触れた者(物)の魔力を奪い自分の魔力として吸収する魔法。元々、『倍加の型』との共通点が多いこの魔法は、グラスにとって相性が抜群。
その為、三日手解きを受ければ、実戦でも通用する魔法になった。だが、ここで予想外の(良い)誤算が生じた。
魔法と『型』が結びつき、別の『型』に変化を遂げた。
「さて、お仕置きの時間だ!!俺らドルイド族、更にへーガス議長とフィーを襲ったんだ。覚悟は良いだろうな?俺は喧嘩売られたら買う主義なんだ。たっぷり実験してやる」
グラスが得物は無いが、『型』の構えを取る。秘めていた猛獣のオーラを纏う魔力が殺気を持ってフクロウを襲う。
「俺が〈熊〉と呼ばれる意味を教えてやる。
この『暴食の型』でな!」
尋常ではあり得ないくらい大量の魔力がグラスを覆う。前に一度だけ全力を見せた時の事を覚えているディルは、驚愕を通り越して理解が追い付かなくなっている。
なぜならば、以前のグラスを既に通り越しているのだ。
「……神器使いでも無い奴がここまでの魔力を使うか。
……く、くはははっ!!面白い、面白いぞ!!グラスとやら!!」
またフクロウが笑い浮かべる。
そして、フクロウの纏う魔力がグラスの魔力に呼応するように増大していく。
ディルはその様子を、ミノムシのように蔓に縛られた状態で眺める。ディルの繋がれた蔓は、先程一緒に落下していた枝に繋がれていて、落下した枝とディルの間にしっかりと樹に生えた枝を通すことで成り立っている。
ディルは、ごくりとつばを飲み込んだ。
二つの巨大化した魔力が今、真下でぶつかろうとしていた。
「俺と釣り合う奴がこの国にもいたことに感謝だ。そんな奴に名乗らずにいるのも無礼。お前に評して名乗ろう。俺は、―――『ヒィルガルム』。闇に潜む名も無き『黒羽のフクロウ』。そして、闇の住人。十が一本。
『硬翼のヒィルガルム』だ!!」
そう叫んだ気迫と共に巻き付いていた蔓が断ち切られた。




