最善の一手
久しぶりに更新します。
ディルは、ふらつく頭を振り絞って現状をなんとか、打開する為に考える。
現在、まともな(意識がある)者は、
―――自分とヘイズのみ。
へーガスは背後から初撃をまともに受けて昏倒。二人の兵士は、催眠ガスを吸ったせいで意識を無くしている。フィーはおねんね中。
こんな状況だというのにぐっすりと眠っている。さすがは『眠り梟』という二つ名は伊達ではない。
「こんな時、グラスが起きていれば……」
へーガスによる足蹴りを食らって眠るグラスを横目に目の前の奇襲者を見る。
「へーガスを渡せ。さすれば、貴様らの命まではよそう。」
黒羽のフクロウがそう告げる。
見たところ武器のような物は所持していない。
しかし、目の前のフクロウから感じる魔力は異質。危険だ。
確かに魔力はそこに存在はしている。
だが、どこか虚ろというか、まるで影のように実体を感じられない。
「断らせてもらおう。議長をみすみす殺させるわけにはいかない!」
両手をフクロウが動く前に翳す。
ディルのその合図に呼応するように、
頭上の木、更に、地面から
――――蔓と木の根がフクロウの体を巻き付けて固定する。
『敵対束縛魔法』
ディルが開発した結界に組み込まれた対人魔法。
結界内に存在するディルが"敵"と判断した者を結界内であれば彼の意思次第で動けないように拘束する魔法。
「捕まえた。大人しく投降しろ!!」
相手がどんなに不気味な存在であっても、何かする前に束縛してしまえば良い。
奴が何らかの方法で、
結界をすり抜けれた謎は、それは捕縛した後で調べる。
今は拘束することだけに魔力を回す。
「……良い魔法だ。こんな魔法の才を持つお前を殺すのは惜しいが、目的の達成の為だ。ここで死んでもらう。」
黒いフクロウから発せられる殺気が増した。
ディルが開いた右掌をぎゅっと握る。
――地面から更に大量の木の根が飛び出して、フクロウの両足、胴体、そして、翼を縛り上げる。
「……凄い、です。ディル様。……いつの間にこんな魔法の技術を………」
「ヘイズさん、すみませんが、今の内に訓練場に向かって下さい。俺は今、拘束させるだけで手一杯です。そこに兵の者達がいる筈なので連れて来て下さい。」
睡眠作用の効果が時間経過で薄れて頭が回り出したディルがヘイズに指示を出す。
今、出来得る最大限であり、考えられる最高の一手。
幸いここから訓練場はそれほどの距離ではない。
「で、ですが……ディル様を一人にするわけには……」
「いいから早く!!」
一人にする事を渋るヘイズに向かって声を張り上げる。メキメキと凄い力で押し通されそうになっているのだ。両手の筋が浮き彫りになるくらい魔力を全力で回しているのだ。
「分かりました。では、念の為にこれを……」
必死の懇願に負ける形でヘイズが立ち上がる。そして、奴に見えないようにディルのポケットにそっと、何かを入れた。
「これは?」
「飲むだけで構いません。いざという時に飲んでください。では、御身の無事を………」
ヘイズはそう言い残して訓練場のある広場へと駆け出して行った。
「ぐ。これは……!!」
送り出した直後、急に抵抗が大きくなった。
「こんなものか。族長というのは名ばかりか?」
みるみる内に拘束していた蔓が引きちぎられていく。
黒羽のフクロウが体を動かす毎に徐々に、徐々に、千切れて行き、フクロウが地面を蹴り出すと共に、全てが引きちぎれた。
「っ!『縛れ』!!!」
「遅い!!!」
言霊による魔法を発動させるも、
速すぎる動きで手足を拘束する前に切り刻まれた。
ダガーナイフのような刃物は所持していない。
なのに丈夫な縄のような蔓が刃物で切りつけたようにスパッと切れている。
(まさか……)
咄嗟に開いたままの右手をぎゅっと拳に握った。
握り締めると同時に左サイドにステップをニ、三歩踏む。元いた場所に黒羽のフクロウが足の爪を立てて飛んで来た。
鋭い爪が空気を揺るがした。
そして、剣舞を踊るようにしなやかな動きで両手の羽を振り下ろす。
咄嗟に避けるもかまいたちのように服が裂けた。
「やはり、その羽が武器か!」
武器を常備していないのに刃が切り裂いたような切り口を見せたことでもしやと思い避けに専念しつつ蔓や根を操作した。
「………見事なり。俺の刃を避けたのみならず、正体を初見で見破るとは、………やはり貴様は惜しい。」
篝火の光を浴びて羽が漆黒に艶を見せる。
まるで磨いた剣のように光沢の輝きを見せるその翼は、先程よりとても危険な刃物として捉えてしまう。
「お前、ディルとか呼ばれていたか。我らの同胞にならないか?」
突如の勧誘。だが、ディルの心は揺るがない。
「………寝言は寝て言え。
俺、いや、我はこの国に身を捧げ守る者。
わざわざ国を揺るがす者の手を貸す筈がないだろう!
お前は、―――今、ここで狩る!!」
ディルが右手を前に出して指を揃える。そして左は頭より少し高い位置で構えて爪を立てる。
拳法に似た体勢でディルの周りの空気が一変。
ディルは、力その物はそれほど強くはない。
まともにグラスと戦えば数秒でその力にねじ伏せられる。だが、ディルにはグラスにも勝る物が一つだけある。
「フシュッッッッ。」
奇妙な呼吸音の後にディルが動いた。
「………はぁ!!」
(速い……!)
ディルが動いた少し後で黒羽のフクロウが羽を広げて後退。――だが、それをも予測していたディルが前方に動いた際に上半身と下半身を捻った勢いを利用して左手をパーの状態で手の甲を撃つ。
弾丸に似た空気の圧が感の働いた黒羽のフクロウの頭一つ分、右横を通過していった。
続けて二発目が右手からフクロウの胴に正確に放たれる。下から上後方へと穿たれた。
「くっ、仕留められない、か」
その昔、グラスの強固な筋肉の鎧をも打ち破ったこの魔法が敵フクロウの意識を狩り取れなかったことに思わず舌打ちをした。
長年使ってなかった為、二発目の威力が一発目よりかなり落ちてしまったのた。
「危ない危ない。
この『黒金の翼』に感謝しなければならない。
この鎧を凌ぐとは、―――やはり惜しい。
こうなれば……」
上空で一回転して黒羽のフクロウは、威力を更に弱らせた。黒フクロウが赤い眼で見下ろす。
その視線からは品定めした獲物を見極めたように高圧的な雰囲気を感じとれた。
『貴様の言う通り、夢の中でディル、お前を同胞にしよう。』
空中へと上がったフクロウの周りを異質な空気がフクロウを中心に漂い始めた。
「邪器〈悪夢〉さあ、俺と心ゆくまま踊ろう、ドルイド族族長ディル!!!」




