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守護者が織り成す幻叡郷  作者: 和兎
3章 勇者召喚編
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暗闇の狩人

更新します。


「きゃははっ!」


「ま―――て―――!」


 大樹の森をフィーが元気に小走りしながらチョロチョロと走り回る。その背後で鬼になった兵士がぜーっぜーっと息を切らしてゾンビのように走る。


「ぜーっ、はー………追い詰め、ましたよ、フィー様……ぜーっ……ぜーっ」


 余裕など欠片も見当たらない兵士の男が大人げなく、子どもを追い詰める。だが、彼の姿はその必死さが伝わってくる。


 大樹の根がフィーの行く手を塞いで逃げ場が無い。そこをジリジリと詰めていく。


「わぁー、どうしよう!」


 追い詰められたというのに、フィーは全然危機が迫っているような焦りがなく、楽しそうである。


「フィー様!覚悟!!!」


 兵士がフィーに触れようと距離を一気に詰めて走り出した。


「きゃーっ!!へーんーたーい!!」


「なっ!」


 四歳のフィーからそんな言葉が出るとは思わなかったその兵士は動きが一瞬固まった。


 その瞬間をフィーは逃さなかった。


 フィーが小さな体で迫り来る兵士に向かって突撃。


 予想外の動きで慌てた兵士が両手をばたつかせて、フィーに触れようとするがもう遅い。

 その小さな体は、大人が思っているより小回りが効く。

 細やかに兵士の下をくぐり抜けて、

そのまま脱兎の如く走り去って行った。

 下を走り抜ける瞬間に足横からふくらはぎを鋭い足の爪で刺された事で、走り出していた男はその勢いでゴロゴロ転がる。

 そして、先ほどフィーがいた木の根元に頭をぶつけて倒れ付す。


 兵士はそのまま伸びて目を回している。


「ぎゃはははっ!おま、お前何やられてんだよっ!ふひひひっ!!腹痛ぇー!!!」


 見事にしてやられた兵士を見て木の上で様子を見ていたグラスが笑い転げる。

 日頃から過酷な訓練を積んでいる兵士が見事にしてやられた。

―――それもたった四歳の子どもに。

 グラスは、

その事がツボにはまってしまったのだ。


「つつつっ!団長、ズルいですよ!

木に登るなんて!

俺、登れないんですから!!」


「ばっきゃろー木くらい登れないでどうする!『森の民』と呼ばれる俺らの名が泣いちまうだろ」


 根で伸びている男とは反対側にいる鬼(・)の兵士が根を登ろうとして、尻からずり落ちた。文句たらしく、グラスに吠える。

 それを負け犬の遠吠えのように聞いている。その声を右から左へと流すグラスは、根の上で笑い転げた後、直ぐにくつろいでいる。


「しっかし、今の部下は根性が足らねえな。

ポーア様が相手のときゃ、もっと根性がある奴だったんだがな。」


 下で(フィーによって)伸びている兵士と木に登れない兵士を見て思わず心の声がもれて一人言になった。


「それは、今が夜(・)中(・)だからですよ、団長。」


 一人言のつもりだったがしっかりと聞いていた兵士がいた。別の木の根から両手に蔓の植物を木の枝に巻き付け部下のトーバがやって来た。


「夜だからってなんだってんだ!

戦場じゃあそんなもん関系ねぇだろうが」


「はあ、これだから団長は……。」


 トーバが呆れたようなため息をこぼして、

やれやれ、といったようなふうの動作である。


「流石に、日中のあの特訓の後のこれは………

あなたは『鬼』ですか」


「あーん?こんなもん普通だろ。

ミレド様のあれに比べれば」


「聖龍様と似たメニューにしないで下さいよ!俺も、今日の訓練で体の筋肉が悲鳴を上げているんですから!!」


 抗議するトーバの体は、常に震えている。まるで生まれたての小鹿さながらである。

 それもその筈だ。

 ミレドが一度だけ開いた朝の修行から、

訓練の内容ががらりと変わってしまったのだ。


 以前行っていた訓練の二倍近い訓練を朝から始まり、夕方まで。休む事なく続く日々。

 そして、週に数回は、団長であるグラス自らの試合(しごき)をする。

 その試合は、二つの目的のために行われる。


 まずは己を知ること。

 自分の得意な動き、弱点など。

事細かい所をグラスが的確に付くことで個々の能力を上げるため。


 そしてもう一つが単純に人との戦闘に慣れるため。『灼熱の狼(カプシモ・ウルフ)』亡き後から、徐々に国境でのいさかいが頻発に起こっているのだ。

 そこで人との戦闘など日常茶飯事。

 自身より格上の者と対峙した際の戦闘を想定した物でもあるのだ。


―――もちろん、この(グラスとの)試合に負ければ、そのペナルティとして、腹筋や腕立て伏せなどの筋肉トレーニングが待っている。(ほぼ全員がこのマッスルトレーニングを行っている)


その訓練は、この日も朝から行われていた。

 その訓練の後に、フィーの『鬼(オーガ)ごっこ』。

彼ら兵士の疲れはピークに達していた。


「まあまあ、そう言うなやトーバ。そこらも考慮しての『鬼(オーガ)合戦』なんだぜ?

お前ら思いの俺の『優しさ』。

しっかり受け取れや。」


「そんな優しさ、イラネー」


 死んだ死体のような目をするトーバとは反対に、豪快にグラスが笑う。

 下で伸びている兵士が必死だったのは、『鬼(オーガ)合戦』にある。


 それは、兵士が『鬼(オーガ)』と『逃げる者(人間)』の二つの軍に分かれて行われる。


 鬼が逃げる者に触れると鬼となる。

そして、次の者を追っていく。

 そこは同じだ。

 だが、ここからが違う。逃げる者に触れた後の鬼は、――逃げる者には戻れない。

 ずっと鬼のままである。


 時間制限内に鬼が全員を鬼にしてしまえば、―――鬼の勝ち。


 その場合は、始め、逃げる側だった者全員、地獄の筋肉トレ(マッスルトレーニング)を次の日の夕方までさせられる。


 そして、時間内に誰か一人でも鬼から逃げ切れた者がいれば、―――人間の勝ち。

 その場合は、鬼の者達がマッスルトレーニング。


―――という、罰ゲームじみた物があるため、ただいま全員必死なのだ。

 それは、逃げる側も鬼側も。


「にしても、あちらのお姫さん。いい動きするよな。……本当に姫さんか?」


「団長失礼ですよ」


 木の根から様子をグラスが見る。ほんの四歳とは、思えないくらい見事な避けっぷりをしているのだ。

 それも、最も得意な空中ではなく、地上にて走りながらである。


 『暗闇の狩人(オプス・オッセルヴァ)』と呼ばれるフクロウ族は、夜にその真価を発揮する。

 遠くから見えるくらい暗い森の中を二つの黄色い光がジグザグと動く。

―――それは、フィーの『眼』だ。

 夜目に長けていないグラスにも分かる暗いはっきりとした光が見える。


「そこだ!!」


 前方から飛び掛かった兵士を小ジャンプして頭を足蹴に跳び跳ねる。

 この『鬼(オーガ)ごっこ』は、自らが鬼である者の体に触れても鬼にはならない。

 鬼が自分の手で触れなければ、鬼にはならない。


「二人で行くぞ!」


「そうだな!!」


 避けたフィーの両サイドから大人げなく捕まえようとする。右サイドへと方向転換したフィーが右にいた兵士の股下を通過する。


「ま、まて!!」


「バカお前!!」


「「ぎゃっ!!」」


 左サイドにいた兵士が急な方向転換で慌てて飛び掛かったため、フィーに触れる事なく股下に滑り込んでそのまま、足を持っていかれて、立っていた方の兵士が前方へと倒れ、その(滑り込んだ)兵士はそのまま下敷きとなった。



「捕まえたっ!」


「きゃははっ!」


 二人の兵士を軽くあしらった先にもう一人。楽しそうなフィーが笑いながら捕まえようとする兵士の翳される手を避けてくちばしでつつく。


「いてぇ!」


 手を押さえて怯んだ所で左に進んでいく。


「ま、まて!!」


 怯んだ兵士がつつかれた痛みを我慢して、つつかれていない方の手を伸ばす。

 すると、フィーの首が一八○度回転した。

 伸ばされた手をするりと、その場で右旋回して次は手首に一撃。


「うおあああっ!!」


 つつかれた痛みと一八○度回転した首から見えた光る二つの黄色の瞳で叫び声を上げた。


「あいつら……完全に弄ばれやがる、明日は、もっとメニューを増やすか……」


「やめて下さいよ。本当に……脱走する者が出ても知りませんよ。あと、団長も少しは、警戒して下さいよ。団長も『逃げる側(人間)』の方なんですから。」


 翻弄される兵士達を見ながら、例え子どもでも『暗闇の狩人』と呼ばれる者には変わらないのだと、グラスは、フィーを優しく見守りながら感心するのであった。


フィー四歳にして、大人を軽くあしらう。

なんか逃げる側にフィーがいるため、鬼側が気の毒になってしまいますね。

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