かわいい子には旅をさせよ
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「ディルも忙しないやつじゃのう。もっとゆっくりしていけばよいモノを……」
緊急の案件で夕食を食べ終えると、すぐに帰ってしまったディルに、ヘーガスは重いため息を吐いた。
今回、ヘーガスが夕食に誘ったのは、少しでも彼の日頃の心労を癒せれば、と考えたからだ。
内乱、いや彼の父親が責任を問われて自害して以降、ディルの休んでいる姿をヘーガスは見ていないのだ。
「まあまあ、お父様。
ディル君が頑張って下さっているからこそ、
ドルイドの方々は今も維持してこれたのですから。」
「しかし、のう……」
宥めるレイアの言葉には、もちろんヘーガス自身も理解はしている。―――だが、納得しているかと言われれば、また別の話なのだ。
「ディル君が居たからドルイド族は、崩落する事なくこの国で暮らせるのですよお父様。」
―――今やディルは、ドルイドの中心に欠かせない存在になっている。
内乱を納めたのみならず、
報告によると、内乱で破壊された結界を彼が修復して維持しているらしい。
そして、民の心の拠り所にもなっているらしい。元々その役目は、妹であるポーアがやっていたのだが、内乱での追放以降は彼がその役割を担っているのだ。
まだ若輩ではあるが、その才は本物。
だが、その若者に重い荷を背負わせていることに歯がゆさのような物をヘーガスは感じていた。
「大丈夫ですお父様。
彼の強さを信じましょう!ディル君は心がつよいですから。」
「そう……じゃな。」
ディルの肉体は、そこまで強くない。
ドルイド族の団長、グラスと比べると、
大木と小枝だ。
だが、彼は鋼のような精神を宿した男だ。それは、ディルが父親の後を継いでいままで国として動かしていたことが物語っている。
「さて、後片付けをしますので、お父様はフィーの相手をしてあげてください。」
「おお!そうじゃな。そうしよう!!!
フィー!どこいったか?フィー!!」
いつの間にかどこかに行ったフィーを探して部屋の中を歩き回るヘーガス。年老いたとはいえ、その足取りはしっかりしている。
テーブルの下を探したり、別の部屋を探して行く。
四歳になってからフィーの動く範囲はそれなりに広がった。その分、目を離すとすぐにいなくなるため、気を揉まれることもよくある。
「フィー!」
ヘーガスはフィーを探して回るがどこに見つからないのであった。
****
「あの、ディル様。どうして、フィー様が一緒にいらっしゃるのですか?」
「………分からん。」
執務室まで≪エキザカム≫で帰って来たディルは、椅子にちょこんと座ったもこもこした毛玉のフィーを見つめていた。
のんきにフィーは、窓から入ってきたひらひらする蝶々をじーっとガン見している。
まるで猫が獲物に狙いを定めているかのよう。
「とりあえず、議長に連絡します。」
ディルを待ち構えていたグラスが連絡用の魔道具を取り出す。ビー玉サイズの水晶は、遠いところに離れていても相手に伝達する事の出来る物である。
「ヘーガス様に申し訳ないことをしたな。」
思わず心の声が溢れた。
(フィーはおそらく俺にくっついて来てしまったのだろう。周りにもっと確認するべきだった。)
今頃、ヘーガスがフィーがいなくなった事で大慌てしている姿が目に見えるようである。
孫娘のこととなると、あの人なら、平気で神器も惜しげもなく使いそうで怖い。
神器は強力な力があると同時に周りに与える影響も凄まじい。
一振りすれば海を割り、二振りすれば空を裂く、三振りすれば山を生む
そんな言葉が昔から伝わっているのだ。
フクロウ族の神器が『夢』と言われていて、無害そうにも見えるが侮ってはいけないのだ。
「てぃる、あそぼ!!」
蝶々に飽きたフィーがディルにそう言う。宝石のようにキラキラしたその無邪気な瞳は、昔のポーアと重なって見えてしまう。
「フィーごめんな。悪いんだが、俺はこれから仕事なんだ。」
「えー、やだっ!!」
頬を膨らませて拗ねるフィー。実に子どもらしい反応である。
「俺は無理だから、代わりに――グラスを付ける。」
「はあああ!?ちょっ、ディル様!?」
連絡を終えたグラスが素っ頓狂な声を上げた。
「もちろん、他の者も一緒で構わない。
みんなで『鬼ごっこ』をするといい。」
「うん!!楽しそう!!」
椅子から下りたフィーがぴょんぴょん跳ねている。よっぽど嬉しいのだろう。
子どもは感情の起伏を体で表す。
それは、昔のポーアもそうであった。
よくポーアも兵士の皆と『鬼ごっこ』をしていたのを覚えている。
鬼ごっことは、一人の『鬼』と呼ばれる者が逃げる参加者を襲う、もとい追いかける子どもの遊びの一つ。体の一部に触れた者が次の鬼となって十数えた後に他の者を追いかける。
この追いかけっこは、兵士達の体力強化に使えて、子どもとも遊べるため良い運動になるのだ。
「ディル様、いいんですか?」
喜んでいるフィーに聞こえないようにグラスがディルに耳打ちする。
グラスの心配もディルは理解している。
フィーにもしもの事があれば、
それは責任問題にも発展しかねないからだ。
「このまま何もせずにいれば、フィーが飛び出し兼ねないからな。勝手にいなくなるよりは、何倍かマシだろう。」
「ですが……俺もそれなりに……」
「それはこちらで何とかする。
今日くらいはゆっくりしろ、臨時休業だ。
このままグラスが倒れられても困るからな。
それに子どもの相手は慣れているだろう?」
ディルがニヤリと笑った。
グラスはよく、
ポーアのお守りをさせられていたのだ。
それに巻き添えとして部下の何名かも。
「……はあ、あいよ。分かった、分かりましたよ。族長の申し付けなら、否定する余地は始めからないんですよね。従いましょうとも…はぁ」
観念したグラスが抵抗を諦めた。
「おひげのおじたん!!早く早く!!」
フィーがグラスの足にしがみついて催促する。どうやら本人はやる気に満ちているようだ。
「そう急かさないで下さいって、では、ディル様。あと、任せました!」
グラスはそう言い残しフィーを連れたって部屋を後にするのであった。
「さて、俺も……」
後に取り残されたディルは、机の上の資料に目を通して行く。住民達からの要望を書き記された中にそれがある。
竜族達の帰郷願いに伴い、
聖龍ミレドグラル様を我が国ペルメス連合国の象徴とし、我が国に永住して頂く。
そんな内容の書面であった。
可愛らしい子どもとむさ苦しい男達の鬼ごっこ。
なんだか少し、犯罪感があるのはきのせいでしょうか。(;^∀^)




