夕食会
更新します。
ディルはスプーンを手に取り、
野菜と肉のスープに舌鼓を打っていた。
「ディル君どうですか?」
「とても美味しいです。」
ヘーガスの娘、レイアが料理について聞いてきたためお世辞ではない素の感想を言った。
野菜と肉の味がスープに染み渡り、そこに塩を少量加えたスープ。一般家庭ではよく見かける料理の一つ。
「お口に合って良かったです
……ほら、フィー。付いているわよ!」
レイアがフィーの世話をする。フィーがスプーンをぎゅっと握りしめてスープを飲む。
「ふぉっほっほ。フィーうまいか?」
「うん!!じいじはー?」
「旨いぞ!レイアの料理なんぞ久方じゃからな。やはり、世界で一番旨い料理ぞよ!」
ヘーガスがレイアの作った料理を誉めると、レイアが「全くもう。お父様、からかわないで下さい!」と言う。
そんなレイアの反応にヘーガスがふぉっほっほと笑う。
家族水入らずの団欒。そんな光景に浮いている感が否めないディルは黙々とご馳走を食べていく。
レイアは政略結婚によって貴族に嫁いだ訳ではない。ごく一般の庶民である男性の元に嫁いだのだ。
ヘーガス自身は、上級貴族。
普通の貴族であれば、貴族同士の政略結婚が一般的である。
―――だが、ヘーガスはそれを強要しなかった。
彼女に言い寄る者はそれこそ、星の数程いた。その容姿も去ることながら、彼女がヘーガスから受け継いだ希有な魔法の力を欲する者は未だにいる。
強引な手に出る者も珍しくない。
その事を鑑みたヘーガスは貴族社会での彼女の身を守るため。そして、彼女の意思を汲んだ結果。
今、目の前の光景が成り立っている。
「まだまだありますから。
ディル君はどんどん食べて下さいね!」
「ありがとうございます。頂きます。」
空になった器を渡しておかわりを所望するディル。最近はろくに飯など食べていなかった。
内乱による波紋を納める一方で、ドルイド族の街の復興、戦力の強化に加えドルイド軍の再編成等々。問題を挙げていけばキリがない。
そんなこんなで、軽い軽食しか食べていなかったのだ。
「ふぉっほっほ。ディル、ぬし最近はちゃんと飯食っておったか?」
「今日ほどではありませんが、食べていました。」
「嘘じゃな。ぬし前より痩せておろう。その顔を見れば流石に分かるぞ。」
ディルは最近鏡を見ていない。そのため今の自分がどのような顔をしているのか分かっていない。
―――頬が痩せこけ、少し顔色が白い
病人ではないにしろ病人になりかけた人のようになっているのだ。
「それは、行けません!
ディル君、あなたはまだまだ若いのですからきちんと食事は食べた方がいいです。
そんな顔をしていますと、婚期逃しますよ。」
「……レイアさんにそう言われる日が来るとは、思いませんでした」
レイアとディルの歳はそうかけ離れていない。ディルが今年で二十五歳、レイアはその四つ歳上の二十九歳。
レイアの母であり、ヘーガスの妻≪アネット≫の血筋は子を宿しにくい家系である。
一○○歳を越えても子がいない事で周りからは第二婦人を作るべきだと言われていたヘーガスであったが、『愛妻家』であるヘーガスはアネット一筋。――――二人三脚で長年連れ添った末。悲願であった子を宿したのだ。
そのため、彼女は一生一人身として考えていた。
その事をヘーガスの愛妻自慢から知っているディルは、彼女の口からその言葉が出るとは思っていなかった。
「私もディル君にそう言える日が来るとは思いませんでした。旦那に出会うまでは。」
ディルは人生何があるかわからないものだと思う。
「おかわり!!」
フィーがおかわりを所望する。
口いっぱいに食べカスをくっ付けたフィーの横でヘーガスが悶えている。
生きている内に孫の顔を見る事を諦めていた事で、ヘーガスの孫に対して激甘さを加速させているのだ。
レイアに注いで貰ったスープを飲み干しているその時、突如蔓羽衣が光を放ち始める。
それは緊急の用件であるグラスからのメッセージ。
フィーが興味津々という面持ちで金に光輝く蔓羽衣を見ている。
スープを一気に飲み干して席をガタッと動かして席を立つ。
「ヘーガス議長申し訳ありませんが、緊急を要する案件により俺はここで退席いたします。」
「よかろう、じゃが、ディル。
何かあればワシを頼れ。よいな?」
ヘーガスにコクりと頷いてから扉へと向かおうとする。が、一度レイアに振り返る。
それは、ディルの身を案じてくれた血の繋がらない≪姉≫のような存在であるレイアに一言お礼を伝えたいと思ったからだ。
「ご飯ご馳走さまでした。また、ゆっくりと出来る日に来ます。」
そう言い残して扉を出てから魔法陣≪エキザカム≫を使いドルイドの街まで飛ぶのであった。




