書類の山に囲まれて
遅くなりましたが更新します。
定例会の後、ディルは、議長ヘーガスの部屋に訪れていた。
「ディルよ。この後飯でも食べていかぬか?」
「我、じゃない俺はまだ、
この後も事後処理がありますので。」
大量に盛り上げられた書類の山をヘーガスとディルとで処理しながらそんな会話を交わす。
二人の手は、右から左へと世話しなく動く。
はたから見れば、両手の動きが速すぎて動いているように見えない。
いつものデスクワークでおかげかディルの頭の処理速度が上がっているのだ。
肩まで伸びきった髪を邪魔にならないように紐で一つにまとめて後ろへ垂らす。
「フィーもディルに会いたがっておったわ。
ディルは、子ども達になつかれるからのう。
ふぉっほっほ」
フィーとはヘーガスの孫娘。
ディルは、最近、ヘーガスに頼まれてよくフィーの相手をしているのだ。
子どもの相手は小さい頃のポーアで慣れている。
「妹がいますので……」
「ポーアちゃんか、……ぬし、本当にあれで良かったのか?」
ヘーガスが言う"あれ"とは、
―――ポーアの国外追放の事。
「……。ポーアは、………国の中に縛るより自由に羽ばたかせた方が良いのです。お転婆なんですよ、うちの妹は……。」
手が止まり、昔の苦労を思い出して、はぁ、と深いため息をディルが吐く。
子どもの頃のポーアには手を焼かされたからだ。
「ふぉっほっほ、ポーアちゃんには苦労させられておったのう。」
「……ええ、全くです。」
大事な書類に落書きをしたり、
勉強は抜け出したり、木登りをしたりと。
女の子らしい遊びはあまりしなかった。
それは、同年代の女の子の知り合いがいなかったというのが大きいのだろう。
「ふぉっほっほ!あの頃のぬしらは見ていて愉快じゃったのう。ふぉっほっほ!!」
ヘーガスがあの頃のディルとポーアの事を思い出して笑う。
ヘーガスとディルは父親である≪テル≫が王として即位していた頃から顔見知りである。
父に連れられてよく定例会に出席していたこともある。
ばたんっ!!!
部屋の扉が勢いよく開け放たれて小さな影がヘーガスに向かって飛び上がった。
入口に控えていた兵士が慌てたように駆けてくる。
ヘーガスは、その小さな影を避ける事なく真正面から受け止めた。
「じいじ!!!!」
「おおフィーか!」
ヘーガスの胸の中でふわふわのモコモコした毛玉のような物がスリスリしている。
先ほど話題に出たヘーガスの孫。
―――フィーだ。
確か今年四歳。
その見た目どおりまだ羽が生え揃っておらず、羽毛が全身を包んでいるのだ。
フクロウ族の幼児は全員こんな毛玉の格好をしている。
「じいじ!!」
「おお!おお!ひとりで来たのか?
可愛ええのう。」
この光景を見ると国の会をまとめる議長には見えない。まるっきり、孫を可愛がる祖父という図形である。
「議長、仕事どうしますか?」
もう回答は見えているが、ディルは一応聞いてみる。
「フィーを待たせる訳にはいかんからな。
今日はここまでにしよう。」
「………分かりました。」
「おおっぬしらすまぬが、書類分けを頼む。」
「「御意」」
ヘーガスは入ってきた兵士に床に散らかった書類の片付けを頼んで席を立ち上がる。
「ちぃるもいっしょなの?」
「そうじゃよ、フィー。さあ、飯にしよう。」
「わぁい!!」
くりくりした瞳を向けられたヘーガスが頬を弛ませながら、フィーを持ち上げて歩き出す。
ディルも巻き込まれてヘーガスの屋敷へと後を追う。
『グラス、この後の予定を変更する。
すまぬが後を頼む。』
蔓羽衣から光の粒子が漏れ出る。
あらかじめグラスとディルとで離れていても念話を出来るように蔓羽衣にお互いの魔力を交わしていたのだ。
『あい、分かった。こちらは任せろ。』
グラスの了承が短く届くと念話が切れた。
「なにやっておるディル!!早う来い!!」
ヘーガスの声を受けて急いで向かう。
「ちぃる!」
まだ上手く言葉が出来ないフィーがヘーガスの真似をして小さな手を振るのであった。
「ディル君いらっしゃい」
「………お邪魔しますレイアさん」
「ママ!!」
会議の会場から歩いて数分。
ヘーガスの家、ではなく、とある家の前までたどり着くと一人のフクロウ人の女性がいた。
ヘーガスが抱き抱えられたフィーを地面におろすとよたよたと走り寄って抱き付いた。
―――フィーの母親でヘーガスの娘、レイアだ。
美しい白い翼と毛並みはフクロウ人の中でも一位を狙える美人である。
「レイア邪魔するぞ。元気だったか?」
「ええ、お父様。フィー共々、健やかに過ごしております。お父様もお変わらずで何よりです。」
翼を広げて抱擁するヘーガス親子。レイアに抱き上げられたフィーが二人に挟まれて苦しそうにしている。
「フィーおいで。」
「うん!!」
フィーが二人の間をすり抜けて小さなその翼で少し離れたディルの元までパタパタ懸命に羽ばたかせる。
フクロウ人は、通常、空を飛び始めるようになるのは、六歳程度から。
四歳にして低空ではあるが、空を飛べるのだからフィーの将来は有望だ。
フィーは、ディルの腕の中に収まった。
ふわふわの毛並みは、今この時期だけ。
そのもこもこを堪能しながら二人の長い抱擁を待つのであった。




