第8話 親戚の紫苑ちゃん
「ねぇ蒼くん、紫苑ちゃんが言うように、あれ……本当にワタリだったのかな?」
玄蔵の問いに、蒼太は腕を組んでうーんと首をひねった。
「ワタリって、もっと空が暗くなるくらい禍つが渦巻くよね?
なんか違う気もするなぁ。数も少なかったと思うし……」
そこで蒼太はハッと何かを思い出したように手を打った。
「あ! そういえば鈴ちゃんが言ってたんだった!
禍つが紫苑さんに向かってた気がするって!」
その言葉を聞いた瞬間、玄蔵と大吾は顔を見合わせ、
声を潜めてボソボソと話し始めた。
「あの子……何か良からぬことに巻き込まれているのかな……」
「…五大貴族の事情なんて私には全くわかりませんが、ロクなことじゃなさそうですね……」
「うーむ、でもなぁ、そもそも禍つが特定の人を狙うなんてことがあるのかなぁ……」
「どちらにせよ、あんな子供を放っておくわけにはいきませんよ」
「そうだよねぇ…放っておけないよねぇ…」
男たちが深刻な顔で話し込んでいるところへ、
湯上がりの紫苑を連れて女性陣が居間へと戻ってきた。
さっぱりとした表情の紫苑を見て、玄蔵はぽんと自分の膝を叩いた。
「よし! 紫苑ちゃんはたった今から『うちの遠い親戚』。これでいこう!」
「え……? あ、あの……ですが……」
突然の宣言に紫苑が目を丸くする。
「なので元気になるまで、うちに居なさいよ紫苑ちゃん。なーに遠慮はいらないからさ」
「そうよ、まずは体力を回復させないと。細かいことは元気になってから考えましょ」
「うんうん、その方がいいよ!ここなら絶対安心だからね!」
畳みかける玄蔵、緋乃、鈴の言葉に、大吾も優しく頷く。
「あなたが五大貴族であることは、ここだけの話にしておきます。
今は余計なことは考えず、ゆっくりと体を休めなさい」
最後に蒼太がひょこっと顔を出す。
「あー、俺、都の事とかいろいろ聞きたいんだー。元気になったら教えてね!」
温かい押しにすっかり押されてしまった紫苑は、
「はい……わかりました…ありがとうございます」と頭を下げるしかなかった。
◇
あてがわれた静かな部屋に戻り、一人布団に入る紫苑。
(私は……これからどうすればいいのでしょう……?)
霞条家のこと、承柱の儀のこと、自分を襲った不気味な違和感のこと。
不安と疑問が次々と頭をよぎる。
けれど、衰弱した身体はまだ重く、温かい布団の温もりに包まれると、
紫苑の意識は抗う術もなく再び深い眠りへと落ちていった。




