第7話 目覚め 蒼武館
カツン、カツンと心地よく響く木刀の打撃音。
それに混じる楽しげな弾んだ笑い声。
どこか懐かしく温かい賑やかさの中で、紫苑はゆっくりと瞼を開けた。
「あら、良かった。気が付いたのね」
最初に視界に飛び込んできたのは、柔らかい笑みを浮かべた綺麗な女性だった。
「気分はどう?お腹、空いてない?」
「いえ……大丈夫です…あの……ここは……?」
答えて体を起こそうとした紫苑だったが、全身に力が入らず、
衰弱した体が思うように動かない。
女性は「まだ、無理はいけないわ」と優しく肩を制した。
「もう少し眠りなさい。そうね…詳しい話は後にしましょ」
丁寧に布団を掛け直してくれた女性が静かに部屋を出ていくと、
紫苑は重い体と瞼のまどろみに抗えず、再び深い眠りへと落ちていった。
◇
夜。
すっかり陽が落ちた頃には、紫苑はある程度体を動かせるまでに回復していた。
先ほどの女性に支えられながら通された広い居間には、
大人の男性が二人、そして同世代ほどの少年と少女が一人ずつ——
合わせて五人の姿があった。
「助けていただき、本当にありがとうございます。私は……」
紫苑は着物の裾を整え、洗練された流れるような所作で深々と丁寧なお辞儀をして
自己紹介を述べた。
洗練された五大貴族たる佇まいと息をのむ美しさに、居間の誰もが一時見惚れて言葉を失う。
「あ、ああ……僕は玄蔵。こちらは妻の緋乃、息子の蒼太です」
「緋乃です」
「蒼太でっす」
「私は大吾。ここ澄波の集落長です。こっちは娘の鈴」
「鈴でーす」
和やかな挨拶が交わされた後、玄蔵が少し表情を引き締めて問いかけた。
「じゃあ……話せる範囲で良いから、
事情を話してくれるかい?」
紫苑は小さく頷き、事の顛末を語り始めた。
自らが五大貴族の一角・霞条家の者であり、
『承柱の儀』のために都を発ったこと。
大都市八雲を出て間もなく、突如として禍つの群れに襲われたこと。
護衛たちが「時期外れのワタリ」と叫んでいたこと。
襲撃の中、自分が囮になろうと夢中で馬にしがみついたが、
途中で急激に体が重くなり意識が遠のいてしまったこと……。
一通りの話を終えると、ずっと紫苑の顔色を気遣っていた緋乃が立ち上がった。
「長旅と大変な目に遭って、お疲れでしょう。
紫苑ちゃん、まずはお風呂で汗を流していらっしゃい」
「はーい、あたしも着替えとか手伝うね!」
鈴が元気に声をあげ、紫苑を促して居間をあとにした。
◇
女性たちが居間から去り、あとに残されたのは玄蔵、蒼太、大吾の男性三人だけとなった。
「あれが都の貴族の人かぁ、初めて見たなぁ…」
暢気な反応の蒼太とは違い、玄蔵と大吾の顔には重く神妙な色が浮かんでいる。
玄蔵は静まり返った室内で、ぽつりと重い呟きを落とした。
「うーむ……霞条……かぁ……」




