第6話 誰じゃ
蒼太と鈴の二人だけで禍つの群れは次々と倒され屍へと変わっていく。
最後の一体を蒼太が殴り飛ばし、鈴がとどめを刺したあと、静寂が森に広がる。
「よし、これで終わりかな」
「蒼太…さっきの子大丈夫かしら。早く様子を見に戻りましょ」
「うん、気を失ったみたいだったから心配だね。すぐ戻ろう」
蒼太は先ほど少女を横たわらせた木陰へと急いで向かう。
鈴も湾刀を鞘に納めながら、その後に続いた。
「ねぇ、蒼太。気のせいかもしれないけど……禍つって、あの子に向かってなかった?」
「え? そう? 気付かなかったな……」
「もぉ…あんたねぇ……ちゃんとしなさいよ…」
危機感が仕事をしていない幼なじみの能天気さに、鈴が呆れたように溜息をつく。
だが、少女のもとへ辿り着いた二人は足を止めた。
そこにはいつの間にか、一人の美女——澪さんが佇み、
横たわる少女の額にそっと柔らかな手を当てていたのだ。
「あ、澪姉!?なんでここに!?」
「…鈴と蒼太か……この娘、かなり弱っておる」
澪さんの薄い唇から漏れたのは、深刻な声音だった。
そこへ息を切らせた玄蔵と妻の緋乃が駆けつけてくる。
「あ、蒼くん、鈴ちゃん!澪さん! 禍つは!?」
「大丈夫、もう片付いたよ!」
「それより玄蔵、この娘じゃ。かなり弱っておる、早く手当てを」
澪さんの言葉に、玄蔵は顔色を変えて少女のそばへ膝をついた。
ぐったりと息も絶え絶えな着物姿の少女を慎重に抱き上げると、
その重みと冷たさに焦りを隠せない。
「蒼くん! この子を先に家に連れ帰って、布団に寝かせてくれ!」
緋乃が続いて
「蒼ちゃん、暖かくして寝かせてね!」
「わかった!」
玄蔵から少女を預かり直した蒼太は、彼女の体をしっかりと抱え直すや否や、
疾風のごとく森の出口へと跳んだ。常人離れした脚力が爆風のような風を起こす。
「待って蒼太! 速すぎるってば!あたしも行くから!」
「蒼くん、頼んだぞ!」
疾走する蒼太の背中を追いかけ、鈴と玄蔵、緋乃が慌てて走り出していく。
賑やかに去っていく一行の足音が遠ざかると、森には再び冷ややかな静けさが戻ってきた。
残された澪さんは、ひとり動くこともなく佇んでいる。
その手からパチンと小さな音が鳴り、扇子が固く閉じられた。
「……誰じゃ……?」
先ほどまでの穏やかな微笑みは完全に消え去り、
その瞳には凍てつくような険しさが宿っているのだった。




