第3話 八雲の検非違使
紫苑を乗せた豪奢な牛車が、都の民に盛大に霞条家次期当主としてお披露目されながら都の大通りを進んでいく。
都の外れからは頑丈な馬車へと乗り換え、目指すは霞条家が直轄する
大都市・八雲であった。
やはり霞条家次期当主としてのお披露目が目的である。
出発前からすでに気疲れが酷かった紫苑だったが
(いけない…霞条家次期当主として恥ずかしくない振る舞いをしなければ…)
と必死に表情を崩さず健気に行列に臨んでいた。
その頃、八雲の検非違使庁。 八雲を預かる検非違使尉・淡路慎は、
一通の書状をじっと見つめていた。
書状を隅々まで読み終えると、彼はそれを囲炉裏の火にくべ、黒い煙とともに灰へと変えていく。
「……正義を成すには、必要な事なのだ」
淡路の低く重い呟きは、誰に届くこともなく消えた。
やがて、紫苑たちの一行が八雲に到着する。
淡路は整然と並ぶ部下たちの先頭に立ち、恭しく紫苑を出迎えた。
「澪標の君、八雲での警備は我ら検非違使に万事お任せください」
「ありがとうございます。淡路検非違使尉、どうぞよろしくお願いいたします」
紫苑は馬車の中から温かく微笑みかける。
一行はそのまま馬車を走らせ、八雲の民への御披露目行列を無事に執り行った。
「あれが霞条家の次期当主様か…実にお美しい…」
「でも女子に当主なんて務まるのかしら…」
民の反応は様々であった。
しかし、何一つとして不穏な出来事も障害もなく、一行は順調に八雲の街並みを抜けていく。
淡路は評判通りの実直な仕事ぶりを遺憾なく発揮していた。
紫苑は淡路への感嘆の思いを素直に言葉にした。
「淡路検非違使尉、見事なご手配でした。ありがとうございました」
「勿体なきお言葉。どうかこの先の道中も、お気をつけてお進みください」
(この方も景にいさま同様隙のないお仕事ぶり…このような方が尉になられるのですね…)
深々と頭を下げる淡路に見送られ、紫苑たちの馬車は八雲の境界を越えて郊外へと旅立っていった。
遠ざかる馬車を見つめながら、淡路は表情を一切崩さず、脇に控えさせる部下へ静かに指示を出す。
「……霞条家に急ぎ伝達を。『澪標の君一行は、滞りなく八雲を出発された』とな」
「はっ!了解しました!」
部下が素早く駆け去っていく。
紫苑の乗る馬車は、いよいよ『承柱の儀』の真の目的地である
水霊の御霊碑に向け八雲を離れるのであった。




