第2話 霞条 紫苑
中天州の都、中天京。
空は晴れ渡り、大路に並ぶ桜の花が、風もないのにひらひらと舞い落ちる。
この国には四季という区切りはない。そういう国だ——
五大貴族における成人と次期当主として民へのお披露目を兼ねる儀式
『承柱の儀』を前に、
五大貴族の一角・霞条邸の門前には
一基の漆塗りの豪華な牛車が静かに据えられていた。
厳かな空気の中、霞条家当主・澪標頭藤治が、
旅装を整えた一人娘の紫苑(しおん・15歳)を優しく見つめる。
「早いものだ。紫苑もこれで成人か…くれぐれも気をつけるのだぞ。
しっかりと承柱 の儀式を執り行っておいで」
「はい、お父様。行ってまいります」
紫苑が健気に微笑んだその時、静かな足音とともに颯爽と一人の男が歩み寄ってきた。
紫苑の幼なじみでもある、検非違使尉龍胆院清顕である。
「まぁ…白龍の君…いつ見ても凛とされて…お美しい…」
途端に女房たちが色めき立つ。
「澪標頭、そして澪標の君。『承柱の儀』誠におめでとうございます」
「おお、清顕か! いや今は検非違使尉であったな。
忙しい身でありながら、わざわざ見送りに来てくれたのか」
破顔する藤治に、清顕は深く首を垂れ、心からの恭順を示すように微笑んでみせた。
「いえ、大恩ある霞条家の晴れの舞台でございます。
ご挨拶に伺うのは当然のこと。……澪標の君、どうか道中お気をつけて」
「景にいさま…いえ、すいません…
龍胆院検非違使尉、お気遣いありがとうございます」
紫苑も丁寧に頭を下げる。清顕は爽やかに目を細めると、
「あまり長居してご一行の妨げになってはいけませんね。これにて、失礼いたします」
と言い残し、道中を守る護衛たちの元へと歩み寄った。
「皆様、道中どうかお気をつけて。澪標の君 をよろしくお願いいたします」
「龍胆院尉、もったいないお言葉! どうか我らにお任せくだされ!」
爽やかに激励を受け、胸を張る護衛長。
龍胆院は背を向け、悠然と去っていく。
彼と入れ替わるように現れたのは他の五大貴族の面々。
「これはこれは澪標頭、そして澪標の君 。ずいぶんご立派になられて」
「承柱の儀は、成人の儀だけでなく家の威信をそのものを世に示す晴れの場。
霞条家次期当主として、くれぐれも見劣りせぬよう、しかとお務めくださいませ」
「道中はくれぐれもお気をつけなされよ。
ワタリの時期ではないとは言え、禍つはどこにでも湧いて出てきますからなあ…」
「もっとも女子の身にはいささか荷が重うございましょう。
禍つに出くわしても、決して無理はなさらず…殿方にお任せするのが一番でございますよ。」
…藤治と紫苑は表向きは優雅に、しかし内心では辟易としつつ、彼らの相手をするのであった。




