第1話 中天州 建国神話
あくおに はべり うつくしき
を読んで頂き、誠にありがとうございます。
もう少し、中天州のお話にお付き合い頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
——中天州の初め、木・火・土・金・水の五重の柱立ちて、
世を混沌の暗きに導けり。
中天に座す神これを深く憂ひたまひ、五つの眷属と柱を慈愛を持て諭し給へば、
柱みなその威徳に感じ平伏し、つひに世を護る尊き神となりぬ。
中天に座す神の御血を引く者、即ち中天尊なり。
また神に諭されし柱の霊脈を継ぐ者、
木は青柳
火は焔宮
土は磐座
金は鏡宮
水は霞条
これ即ち五大貴族なり。
故に、その血統の統べし道こそ正統にして、犯すべからず理なり——
「ふっ、五重の柱など実にくだらん!
どうせ大禍あたりを討伐した武勇伝を
大袈裟に飾るために、
帝や五大貴族どもが美談にして神話へ
仕立て上げたに決まっていますよ!」
八雲の街の陽光すら届かない最下層の薄暗い地下研究室。
卓上には見るもおぞましい禍つの臓腑が広げられ、異臭を放っている。
それに狂気じみた視線を注ぎながら
吐き捨てるように笑う男——
禍方士・狷介の背後で、
佇む影から冷ややかな視線が落ちる。
「神など最初から存在しない!
私の研究の最終目的は、
そのでまかせの神話を超える……
究極の禍つをこの手で創り上げることなのです!」
狷介が興奮気味に振り返ると、
そこに佇んでいたのは豪奢な狩衣を纏った男、
龍胆院清顕(りんどういん きよあき・20歳)であった。
龍胆院は狂信的な熱意を向けられても表情一つ変えず、
淡々と答える。
「……そうか。卿のその研究、
全ては私の為…そうだな?狷介よ 」
「はっ!勿論!この『遊悦宮』での研究は全てが
あなた様の為にございますぞ!!」
「卿の働きには大いに期待している…
では私はこれより
中天京へ戻る」
「はっ! 首尾よくお運びを!」
平伏する狷介に背を向け、研究室を後にする龍胆院。
陽光が降り注ぐ八雲の街並みを抜けながら、
その唇が仄暗い愉悦に歪む。
(——明日からいよいよ
『承柱の儀』か……)。
季節のない平穏な国・中天州の裏側で、
(悪く思わないでくれたまえ。
澪標の君よ…)
龍胆院清顕 の恐るべき謀略が、
静かにその歯車を回し始めた。




