第22話 尋常じゃない
蒼武館の広い敷地には朝から晩まで代わる代わると澄波の住民たちが次々と集まってきた。
ここ澄波において、蒼武館は単なる習い事の場ではない。
澄波の武術とは、禍つを狩る術、自分の家族と居場所を守る術なのだ。
剣術は玄蔵、体術は緋乃がそれぞれ教えており、
驚くべきことに集落の住民のほとんどがどちらかの弟子という、驚異の「総門下生」状態だったのだ。
(ちょっと!弟子の数、多すぎない……!?)
次々と稽古着姿でやってくる男女老若を見送りながら、桜は広い敷地を見回す。
(そりゃ道場がこんなにデカいわけだわ……って、いやいや!
一つの集落の住民がほぼ全員同じ道場の門下生って、どんな武力集団なのよ……?)
ちなみに、鈴は父親である大吾の影響で剣術を学び、蒼太は緋乃のもとで体術を修めているという。
なんでも蒼太の場合、「桁外れの馬鹿力で、剣のほうが耐えきれずにすぐ折れる」という恐ろしい理由で
体術一筋になったらしい。
そんな風に道場の隅で様子を眺めていた桜は、ふと弟子たちの身こなしに目を止めた。
(そういえば……不意打ちとはいえ私を気絶させた蒼太くんも、鈴ちゃんも、
パッと見は強そうな雰囲気が全くないのよね。
都の武人のように『洗練された無駄のない動き』というよりは、
肩の力が抜けきった無骨な自然体というか……)
そう思いながら、いざ稽古が始まった庭へと視線を遣った瞬間——
ガァァンッ!!
衝撃音とともに、視界を凄まじい風圧が駆け抜けた。
「……は?」
弟子たちが繰り出す木刀の一振り、そして打撃。
自然体に見えていた構えから打ち出される一撃は、目にも留まらぬ速度と、
到底人間業とは思えない威力を秘めていた。
(つ、強ッ!? 速ッ!? っていうか、なんなのこの人たち!?
そこら辺の村人みたいな顔したおじさんやお兄さんまで、全員強すぎない……!?)
都で数々の修羅場を見てきた隠密の桜から見ても、彼らの身こなしは異常だった。
型にとらわれず、まるで呼吸をするように致命的な威力の技を繰り出している。
(都の近衛兵でもここまで動ける奴が何人いるかって話よ……!
おひいさま、こんな超人集団の中でニコニコ笑ってるの?)
顔を引きつらせながら、桜の心の中のツッコミは止まることを知らなかった。




